一般財団法人不動産適正取引推進機構のメールマガジンが賃貸借契約後の損害賠償請求などのトラブルに警告を発している。
ここ数年、住宅を居住以外の用途で使う、事業用建物の用途のうちにさまざまな法令の制限があるなどと建物の使い方が多様化しており、それを正確に理解しないままに契約に至り、目的を達せられないことを不満として損害賠償を求める訴訟に発展しているケースが多くなっているのだという。どのような事例が発生しているのかを知り、トラブルを回避できるようにしたい。
事例@飲食店の排気ダクト設置不能
マンションの1階を飲食店として賃借したものの、消防法、建築基準法の関係から厨房排気ダクトを設置することができる、飲食店として営業できないことが判明。借主は契約を解除、貸主及び媒介業者に対して損害賠償を求めた(令和3年 東京高裁)
排気ダクトに関してはもう一例、地下1階の店舗をセントラルキッチン兼店舗として賃借したところ、排気ダクトの風量値の上限から使用できなかったとして、借主は契約解除、貸主・媒介業者に損害賠償を求めたというケースもある(令和3年 東京地裁)
事例A排煙が問題で使えず
地階部分の元飲食店舗をペット・飼育用品を販売するために借りたところ、排煙の問題から用途変更ができず、借主の目的使用ができなかった。そこで借主は契約を解除、媒介業者に対して用途変更に関する調査説明義務があった等として損害賠償を求めた(令和3年 東京地裁)
事例B福祉施設は規制多数
社会福祉サービス事務所として使うために共同住宅の一室を借りたものの、建物が複合用途対象物になることから、建物全体に自動火災報知設備(約500万円)の設置が必要なことが判明。借主は貸主に設置を要求したものの、断られために目的の用途として使えないとして退去。貸主・媒介業者に損害賠償を請求した(令和1年 東京地裁)
また、同メールマガジンでは賃貸借契約後のトラブル以外に収益物件を購入後、当初の目的が果たせず、損害賠償請求に発展した事例も紹介している。以下の内容である。
事例C駐車場を倉庫として使えなかった
買主は地下1階、地上11階建てのマンション1棟を投資用収益物件として購入。購入時点で空室となっていた1階部分を倉庫業者に賃貸する契約を締結したが、倉庫業者から1階部分の倉庫の間仕切り工事への建築確認が得られないため、倉庫業法上、適法に利用できないとして解約に至った。そのため、1階部分の用途制限の説明義務が果たされていなかったとして売主に対して損害賠償請求訴訟を提起した(令和2年 東京地裁)。
判例は貸主、売主勝訴だが……
これらの訴訟の結果はいずれも貸主、売主が勝訴している。借りる側が使えるかどうかを確認する必要があり、仲介業者は説明責任を果たしているとしているのだ。つまり、訴訟になっても貸主、売主が負けることはあまりないわけだが、訴訟に巻き込まれるのは楽しい経験ではなく、時間も精神的な負担も避けたいところ。
そのためにいくつか、知っておきたいポイントがある。まず、大きな点は法令上に制限のある用途で使いたいという場合には慎重さが必要であるという点。具体的にいえば飲食関係、福祉関係には注意したい。
事例でも厨房の排気ダクト、排煙が上がっているが、飲食業には制限が多い。もちろん、法令を知っていれば防げるはずだが、不動産会社にそこまでを求めるのは難しい。オーナー側から借主に要件を満たしているかを確認、曖昧な部分がある場合には建築士など専門家への相談を提案したほうが後日トラブルに発展させずに済むはずだ。
福祉系の用途にも注意が必要。事例では火災報知器の設置が問題になったが、それ以外にも建物の一部を福祉系の用途で使う場合には建物全体あるいはフロア全体にバリアフリーを求められるなど大きな改修を必要とするケースが少なくなく、その点を確認した上での申し込みかどうかは事前に知っておく必要がある。
もうひとつ、駐車場のトラブルもよく聞くもの。容積率を算定する際、駐車場は敷地内の建築物の延床面積の5分の1を限度として不算入にすることができるのだが、この特例を利用して容積率の限度一杯に建築確認申請を行った場合、駐車場を事務所や倉庫など、駐車場以外の用途で使うことができなくなる。駐車場を算入せずに容積率を使い切っているため、駐車場を事務所、倉庫などにすると容積率の制限を超過、違法建築物となってしまうのである。
これについてはオーナー側が分かっているはずであり、借主、買主に事前に伝えさえすればトラブルは回避できる。自分が買う側、借りる側になった時にも駐車場にはこうした懸念があることを知り、事前に確認さえすれば防げる話である。
借りたい、買いたいと言う人がいる場合、どんな人でも、どんな使い方でもいいからさっさと貸したい、売りたいと思いがちだが、相手が意図する使い方ができないと貸した後、売った後に揉めるのは面倒。借り手、売り手の意図を聞き、適切なアドバイスをして自分の身を守りたいものである。
ちなみにここまでの事例ではオーナー、仲介会社ともに勝訴しているが、用途地域や条例などによる建物の使用用途の制限、区分所有建物の場合の管理規約による建物の使用制限の有無、建物が違法建築であるかどうかの確認などを怠った場合には賠償責任を負っている例もある。
不動産の使い方が多様化している今、オーナーにも注意が必要というわけである。
健美家編集部(協力:
(なかがわひろこ))