前回の記事では貸している戸建て賃貸物件の屋根に、6メートルものアマチュア無線のアンテナが無断で取り付けられ、しかも壁には配線を通す穴まで開けられてしまっていたことまで紹介した。

今回は、この入居者と家主が一体どうなったのか、その結末を紹介しよう。
家主はここまでされたとしても、勝手にアンテナを撤去することはできず、「下ろしてください」という請求権しか持ち合わせていない。本人が下ろすことに同意しなければ、訴訟をしていくしかないのだ。
今回の場合、アンテナを素人で無策に取り付けてしまったため、相当屋根が傷んでおり、現実に雨漏りも確認されていた。早く取り除かなければ、屋根そのものだけでなく、建物全体にダメージを受けてしまう。
訴訟をしていると、その数か月の間に家はどんどん傷んでしまうことが明らかだった。そこで契約書の文言を上手くとりいれ、建物保全のために期限内に撤去しない場合には、家主側で対処する旨の内容証明郵便を送ったみた。
当然に賃借人は、抵抗してきた。「アマチュア無線は生きがいで、できなくなれば死ぬしかない」と嘆願してきたが、怯むわけにはいかない。毎日のようにかかってくる電話に、私はただ「期日までの撤去をお願いします」を繰り返すしかなかった。
業者に依頼しアンテナ撤去の決行も、1日では終わらず
こちらの要求する期限までに、賃借人はアンテナを撤去することはなかった。そこで予めスタンバイしてもらっていたアマチュア無線専門業者に正式依頼し、すかさず作業をしてもらうことになった。
期日が過ぎた頃には賃借人も諦め状態で、「お願いしますから……」と小さな声で嘆願するところまでトーンダウンしている。
あとは当日、賃借人が暴れなければ、アンテナは下ろすことができる。連日の電話攻撃に対応しながら、落ち着かない日々が続いた。
当日、家主、専門業者が揃った段階で、呼び鈴を鳴らす。すると覇気のない賃借人が出てきた。「今から作業しますね」と言うと、あっさり「はい」。
肩透かしを食らい、あの泣き落とし作戦は何だったのかと可笑しくなってきた。上手くいけばラッキーくらいに思っていたのだろうか。
アマチュア無線の専門業者が、具体的な作業を賃借人に直接説明し、時間通り作業はスタートする。彼自身もケーブルを再利用したいようで、自分で開けた穴からケーブルを抜く作業を淡々とやっていた。
プロの手が入ると、建物は刻々と外観を変えていく。絡み合っているように見える配線もなくなると、かなりスッキリした。作業は順調に進んだが、屋根の状態が思っていた以上に悪く、上に乗っての作業は最小限にしなければならないほどだった。


用意していたクレーン車ではアンテナ横まで届かず、屋根の上を歩いて作業していかねばならない。そのため日を改めて、アンテナ横まで届くクレーン車で作業をするほどだった。
壁の穴は業者がパテで埋め、これで賃借人は『生きがい』であるアマチュア無線ができなくなってしまった。

家主は「アマチュア無線ができないならすぐに退去するはず」と言ったが、本人は今後も引っ越す気はないとのこと。これでは屋根を治すこともできず、雨漏りで建物はどんどん傷んでくるはずだ。
出て行ってもらいたい家主と、居続けたい賃借人。さらに生活保護費から家賃は確実に支払われてくるため、家主は明け渡しの訴訟は避けたい意向。私の闘いは、まだまだ終わらない。
警察に被害届
友達の弁護士は「受理されないよ」と言ったが、民事の訴訟ができなければ、本人が居辛くなる状況を作るしかない。
アンテナを撤去するまでの様子や屋根の傷みに加え、開けられた壁の大きな穴を軸に、警察に被害届を出した。器物損壊か建造物損壊。
本人は今回自分がしたことを、まったく悪いことだと思っていない。だから交渉しても話がかみ合わない。ならば警察の判断に委ねようと思った。
今までの生活マナーの悪い賃借人たちも、警察がうろうろし出すと蜘蛛の子を散らしたように消えて行ったからだ。
警察側も写真の状況を見て「これはひどいね……」とため息。資料を作り込んでいって正解だった。その場で「現地確認に行きましょう」ということになった。
そして私も家主も、そこで驚愕の事実を知ることになるのだ。
なんと賃借人、パテで埋められた壁にパイプを入れてケーブルを通し、しゃあしゃあとアマチュア無線を続けているではないか。これにはびっくりしたとしか言いようがない。

アマチュア無線を続けているではないか
これで無抵抗だった理由が分かった。おそらく当初から、賃借人はこの手法を想定していたのだろう。
警察が「(屋根に設置していたアンテナ)これはやりすぎだよ。借りてるんでしょう?」と言うと、しどろもどろ。「室内見せてくれる?」には全力で抵抗し、任意に署で事情聴取に応じることを約束した。
この間のやりとりは約15分ほど。しかししっかり賃借人には爪痕を残すことができたようで、その後、1ヶ月後に賃借人は任意に退去した。
事件の相談を受けてから、3ヶ月強でのスピード解決。幸運にも訴訟をせずにアンテナを撤去することができ、また退去にまで持ち込むことができた。
まずこの勝因を分析していきたい。
1.契約書の文言で、次のものがあるかどうか。
建物の保全や管理上必要ある場合には家主側は本物件に立ち入ることができ、必要な処理を講ずることができる
こういった文言がある場合に、私は今回だけでなく、下階への水漏れ時やゴミ屋敷に突入してきた。もちろんいきなりは、絶対にいけない。文言を盾に、賃借人にアナウンスした上で対処してきた。その後金額の調整で訴訟となったこともあったが、入室に関し裁判所から咎められたことは一度もない。ここでのポイントは、まず3つ。
@ 必ず事前にアナウンスすること
A 当日まで何を言われても怯まないという態度を見せ続けること
B 当日怯まれたときのプランBを想定して備えておく
2.対処する場合には、レベルの高いプロに依頼する。
これは万が一の時に、相手からいちゃもん付けられることを防ぐため
3.明け渡しを望む場合、民事と並行して刑事も検討する
素行が悪い賃借人を民事で明け渡すには、それなりの証拠がないと厳しい。裁判所は家賃滞納以外、明け渡しの判決をそうそう言い渡してはくれない。
だからこそ「現場を知っている警察が動くほどなんだ」という心象を与えるためにも、刑事事件と並行することは効果的
以上の点からうまく歯車が噛み合って、早期解決に至ったのだと思う。
その上で、前回の冒頭にも伝えたが、賃貸トラブルに携わって感じることは、『物件は子どもと一緒』。目を離すとグレることを、覚えておいて欲しい。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
執筆:
(おおたがきあやこ)