2020年10月の東急住宅リースのプレスリリースに興味深いシステムの紹介があった。賃貸マンションの共用部の予約、鍵解錠から決済までをLINEでシームレスに行う仕組みを導入したというのである。
これはいろいろに使えるのではないか。そう考えて、システムを開発したConnected Design 株式会社の刑部氏、寺島氏とオーナーである伊藤憲治氏に話を聞いた。
屋内駐車場をシェア型防音スペースに改装
その物件「センチュリー川崎高津」の最寄り駅は東急田園都市線梶が谷駅又は溝の口駅。
一部屋が20u弱の単身者向きの物件で、住んでいるのは若い人たち。近隣には音楽大学があり、学生の入居者もいる。近隣には同様の単身者向き物件もあり、差別化のためとオーナーが作ったのは屋内の駐車スペースを利用した2室のシェア型防音スペース「OTOHEYA 」である。
「学生入居者の中には高い楽器を所有している人もおり、突然の雨などを考えると大学まで行って練習というより、建物の1階にいけばいつでも練習できるという環境は差別化になると考えました。
あくまで防音スペースは、近隣賃貸物件との差別化の一手段であり、収益重視ではないので、貸出のために管理人を置くことまでは負担が重い。そこでリアルとシステムが一致、シームレスに無人で使えるConnected Designのシステムは面白いのではないかと思いました」。
開発側としては以前より展開していたスマートホームサービスがLINEで操作できることはユーザーから好評を得ていたためシェアスペースユーザーにも手軽に操作できるLINEを活用したアプリは以前から開発を考えていたもののひとつなのだとか。LINEでできるというだけで操作が簡単と思われるメリットがあるのだ。
友だち追加で予約から決済までがシームレス
実際の利用のためにはまず、利用したいスペースのLINE 公式アカウントを「友だち登録 」する。それによってシェアスペースの予約、利用時のスマートロック解錠操作、LINE Payでの決済までを一気にできるようになる。また、感染症予防に配慮した取組みとしてシェアスペース利用開始・終了時間に照明、エアコンが連動して自動で制御される。非接触の家電操作ができるのである。

利用に当たって設備的に必要な要件としてはおもにインターネット環境、電気である。共用部でインターネットが使える環境ならそのままで使える。
今回の事例では防音スペースを作るところからのスタートだったため、あらかじめスマートロックが設置できる鍵を導入したので問題はなかったが、既存のものがあったとしても適用できればそのまま、そうでなくても別の方法で設置する方法を検討するとのこと(※電気錠には対応していない)。ほぼどこでも使えると考えて良い。
今後は様々な利用を想定
今回はシェア型の防音スペースの貸出に利用しているが、今後は様々な使い方が想定できる。
「在宅勤務が増えているが自宅内では集中できない、でも、駅前のカフェまで行くのはちょっというような場合に、建物内の空き室を共用でシェアして使うスペースに転換、このシステムで利用できるようになったら面白いかもしれませんね。
分譲だと共用部にコワーキングスペースを作る例もあるようですが、賃貸だとレンタブル比から考えるので、なかなかそういうものは作りません。でも、今後はありうるかもしれませんね」と伊藤氏。
その昔は学生は図書館で勉強をしたものだが、今は自習室がビジネスとして成り立つ時代である。であれば、学生、社会人を問わず、仕事、学習などに使える場はビジネスとしてありうる。ゲストルームの貸出にもこのシステムは使える。
それ以外では賃貸住宅内覧の予約や店舗などを時間貸しする際にも使える。最近では夜間しかやらない店舗を昼間、違う事業者に貸すケースがあるが、その際にこのシステムを使えば鍵の受け渡しは不要になり、利用料の支払い忘れなども無くなる。店舗の開いている時間を新たな収益源にしようと考えている事業者には手間なく貸せるようになるのだ。
決済方法の多様化が今後の課題?
料金については基本のシステム利用料に加え決済に当たり、LINE Payに手数料を払う、インターネットの利用料金が必要という程度。今後の実際の運用、導入に当たっては現地の様子その他から想定していくことになろうという。
また、今後、検討したい点としては決済方法の手段を増やすこととConnected Designの寺島氏。LINEは使っていても決済方法としてLINE Payはまだ使っていない人もおり、もう少し他の決済方法が選択できるようにしたほうが利用が広がるのではないかというのである。
だが、それをすることで仕組みが複雑にならないようにしたいとも。ここは非常に大事な点だろうと思う。機能充実、いろいろなことができるシステムはボタンだらけで分かりにくくなる。それよりは後付けできる仕組みで汎用性が高く、かつ小規模な事業者でも利用できる点は大事だろうと思う。
少し前に東急住宅リース担当者にご案内いただき、東京ポートシティ竹芝レジデンスタワーを見学したのだが、そこでは住宅内外に関する様々な機能をひとつにまとめたアプリが開発されていた。
非常に便利そう、生活が変わると思ったが、そこまでのものは戸数のある大規模な住宅でなければ導入できないし、使えない。それ以外の、小規模で無駄に費用をかけられない物件で使え、それによって入居者の生活を豊かにするシステムがあれば、今後、広く使われるようになるのではなかろうか。
伊藤氏の物件では11月に導入、12月からは実際に料金(月〜金は1時間200円、土日は350円)を受領しての運用が始まる。
来春以降に向けて、近隣の大学に向けて物件の独自性をPRしていく予定もあるとか。シェア型の専用防音スペースがあることで物件全体の稼働率を上げ、長く住んでもらえることを目指すという差別化策、そしてこのシステムの今後に期待したい。
※Connected Space Shareは商標登録出願中です。
健美家編集部(協力:中川寛子)