別荘地でなら見たことがあろうが、都心への通勤圏でログハウスはおそらく、ここが唯一というのが川崎市麻生区、駅で言えば小田急多摩線で新百合ヶ丘駅からの急行停車駅栗平にある。新宿からは30分弱の場所だ。
建物は中庭を挟んで4棟8戸、1棟に2戸で2階建て。丸太を組んで建てられるカナディアンタイプとは異なり、ポスト&ビーム、つまり、柱(ポスト)と梁(ビーム)に丸太を使用もので、壁などは在来工法を取り入れており、外から見ると木の部分は意外に少ないようにも見える。
だが、室内に入ると枝のついた大きな柱がリビングに聳え、壁、床ももちろん、天然の無垢材である。材質は柱と梁に米松、壁にパイン材、床にはメープル材、キッチン、脱衣所の床にはコルクで、断熱性能、調湿効果などに加え、癒し効果もある。入居者の中にはここに住んで健康になったという声もある。
間取りは80㎡前後の2LDKあるいは3LDKにロフト付き。駐車場は1台分(うち、1戸だけは2台分)付きで、2004年竣工、相場よりはやや高めの賃料というが、築12年後の今も満室である。
だが、この物件の魅力は建物の珍しさ、希少性だけではない。オーナーの中山英男氏は世の中がコミュニティだなんだと言い出す前から入居者の心を掴むサービスを行い、それがこの物件を唯一無比のものにしてきた。
たとえば入居者の女性には誕生日と入居日の年に2回、花束が贈られる。最近は妻に花を贈る男性も増えているようだが、それが12年前からである。感動しないはずはない。
入居者に子どもが生まれた時にもプレゼントがあったり、自ら育て、収穫した野菜が配れることなども。最近ではこうした入居者サービスを聞くようになってきたが、それはここ数年のことだ。
クリスマスの飾り付けや植栽の手入れ、3年に1度の外装の手入れなどは中山さん自らが行っている。その手入れの良さに入居者も影響されるのだろう、各住戸前にも花などが飾られ、全体が美しい。そのため、築年数は全く感じられず、経年はプラスに働いているようだ。
また、ログコテージでは物件完成前からオーナー自らが手がける物件ホームページが稼働している。竣工時、オーナー自らが開催した内覧会で入居者の半分が決まったそうで、SNSなどが一般的になった今ならあり得ないことではないが、12年前と考えると、その柔軟なやり方に驚かされる。
ちなみに現在もホームページその他WEB記事経由での問合せ、入居者は続いており、情報発信の大事さを教えてくれる。
加えて、もうひとつのログコテージ名物は、春、夏、年末と、年3回行われるイベント。春は筍掘り、夏はバーベキューか流しそうめん、年末はクリスマスイルミネーションの飾り付けと餅つきが行われるそうで、中山さんの呼びかけで入居直後から度々開かれるようになり、今ではスケジュールが決まると入居者が自発的に手配してくれるようになっているとも。こうした入居者間のコミュニケーション促進のためのイベントも先駆と言ってよいだろう。
今年、何年かぶりに参加させていただいたのだが、驚いたことに敷地内には中山氏手作りというピザ窯が設置され、私が到着した時にはすでに火が入り、住民の一人が番をしていた。住民の要望で作ったものだそうで、その前にテーブルを出せば、ちょっとしたオープンカフェができるほどの出来栄え。
当日は各戸から料理や酒が持ち寄られ、ピザ窯では順にピザや料理が焼かれて大盛り上がり。近所に引っ越した人達やその子どもも集まるそうだ。ピザ窯は入居者が自宅でパーティーをする時などに使うこともあるそうで、そんな席に呼ばれることもあるんですよと中山氏。
入居者、大家という関係を越え、友人としての付き合いがあるようだ。入居者の中には竣工時に入居、そのまま1住み続けている人もいらっしゃり、その中にはこの何年か、海外勤務。それでも、帰ってくる日のためにと部屋をキープし続けている例もあるとか。物件そのものに加え、居心地の良い人間関係が魅力なのだろう。
賃貸経営はもちろん、収益を上げるためのものではあるが、そこに人間関係が生まれれば経営する側にも住む側にもそれ以上のものとなる。それが経営に好影響を与えるのはもちろん、互いを幸せにするとしたら、こんなに幸福なことはない。その良い例がログコテージだろうと思う。稀有な例だろうが、どうせ経営をするなら、ここまで愛される物件を作ってみたいものである。
健美家編集部(協力:中川寛子)