不動産の世界の変化同様、建築の世界でも不動産との間を埋め、不動産を再生する新たなプレイヤーが登場、注目を集めている。そうしたプレイヤーのうちでも近年引っ張りだこの2人のトークイベントを聞いてきた。
その2人とは不動産会社が見落としがちな視点から建物を再生に導く創造系不動産の高橋寿太郎氏、建物の法律家として違法建築の適法改修を専門に行う建築再構企画の佐久間悠氏。お二人とも同じ大学の建築学科を卒業、同じ設計事務所で働いていたが、現在はその知識を活かして今までにない仕事を創出している。
具体的にどんな仕事をしているか。まず、高橋氏だが、着目しているのは不動産会社と建築家のモノの見方の違い。例えば並んだ2つの土地があったとして不動産会社はそれを平面で見る。きっと南側の土地のほうが日当たりがいいはずと根拠なく考える。

だが、それを建築家が断面で考えると事態は変わってくる。周囲の状況その他にもよるが、北側にある土地のほうが実際には日当たりのいい住宅が建つことがあるのである。
また、同じ広さの土地でも立地が違えば、建てられる建物の大きさも、部屋の条件の良し悪しも変わるはず。かけた費用の効果を最大化したいと思うのであれば不動産的に平面と価格からだけで土地を見るのではなく、建築家的に断面でも同時に考える必要があるのだ。
また、高橋氏には建築について知識のない銀行担当者を納得させる知識があり、建築家にはできない収支計算ができる。それが生きたのが以前、このコーナーでもご紹介した江東区森下にあるイマケンビルの改修である。
築後50余年のビルにフルローンを付けるなど一般には考えられないはずだが、建築と不動産、両方の知識を有したコンサルタントが入れば不可能は可能になるのである。
もう一方の佐久間氏。トークイベントではいくつかの改修例を挙げて仕事を説明してくださったのだが、それが面白かったのでご紹介しよう。
最初の例は京都のオフィスビルをホテルに改装するというもの。用途変更の確認申請が必要だが、既存建物は本来駐車場だったはずの地下1階にテナントを入れており、その時点で容積率をオーバーしていることになる。
また、6階の本来はテラスとして容積に入っていなかったはずの空間に屋根をかけてしまってもいた。これらを単純に元に戻すという考えもあるが、地下のテナントは非常に収益性が高いため、オーナーとしては残したいという意向があった。また、6階も単純に屋根を外してしまうだけだとホテルとして使う空間が減る。

そこで佐久間氏が考えたのは建物2階に駐輪場を作って容積から抜くという手。さらに6階は天井を抜いたスペースを日本庭園として部屋の付加価値にした。中には露天風呂を設けた部屋もあり、これなら屋根が無くても部屋として使っているのと同じ。風呂には番傘を立てて雨を防ぐなど、外国人客に喜ばれそうなアイディアも散りばめられている。
この建物では非常階段に見えた階段が法的に合致しなくなる可能性があったり、狭いエントランスホールをカフェ・バー兼用にする必要があるなど、それ以外にもオーナーの利益を最大化するためのハードルが多々。それをどうクリアしていったか、佐久間氏の話は謎解きのようだった。
もうひとつの事例もやはり京都のもので、機械式駐車場だった地下2層をオフィス化するというもの。旧耐震であったため、増築はできない、地上への接点はカーリフトのみという空間をどうやってオフィスに変えたか。
ここでは避難安全検証法という、おそらく一般の人なら誰も知らないであろう法律を駆使して解決に導いたそうだが、そういうことができるのは世にそれほど多くはいないだろう。こうした事例についてはこの秋以降に書籍が出るそうなので、関心のある人は注目しておいていただきたい。
イベントではお二人の仕事説明に続き、質疑応答が行われたのだが、そこでひとつ、興味深かったのはこの7年ほどでコンプライアンスがこれまで以上に重視されるようになったという点。以前は検査済証が無くても受けられることもあった融資が今ではほぼダメという。特に地銀レベルだと建築関係の書類への理解度が低く、分からないから融資しないという例がほとんどだという。
「リノベーションを前提に古い建物を探すと違法というケースが大半。銀行が貸してくれないだけでなく、学校、保育施設、介護施設などは開業の認可取得でも完成済証がないと難しい。完成済証に替えて建築士の調査という手もありますが、それも手間がかかる。適法性が大事な時代になってきました」と佐久間氏。
築古の建物をなんとかしたいという場合には十分注意が必要というわけである。
健美家編集部(協力:中川寛子)