■賃貸住宅の平均居住期間は
単身用とファミリー用で違う
賃貸経営は、できるだけ長く住んでもらうことでキャッシュフローを安定させることができる。ひとたび退去が発生すれば、退去時精算(ハウスクリーニングや原状回復)やリーシング(募集活動)が発生する。
その結果、大家にとっても修繕や募集に伴う費用負担が発生してしまう。
通常、平均解約率は単身者向け:20-25%、ファミリー向け:15-20%である。言い換えれば単身者は4~5年間、ファミリーは5~6年間居住することになる。実感としてはもっと短い期間で退去をしているように見えるが、中には10年くらい住んでいただけるありがたい入居者がいて、この方達が平均値を押し上げている。
できるだけ長く住んでもらいたいのに、なぜ「退去(解約)」が発生してしまうのか。
■入居者の退去理由ベスト10
退去理由は様々であるが、その内容は把握できているだろうか。管理会社から明確に伝えられない限り、うやむやなまま次の入居者を迎え入れることになる。ところがせっかく入居してもらっても、半年も経たずにまた退去となれば、賃貸経営が安定しない。物件に起因する理由が明確にあるのであれば、何かしらの手立てを打たなければずっとこの状態が続いてしまうからである。
これはある管理会社で、退去理由を1年間にわたりまとめたものを抜粋してある。そのほとんどが明確な理由があるために退去をしているが、「防げる可能性がある退去」もある。
たとえば、「気分転換」「安い物件へ引っ越す」「物件の問題」と、これらでも1割程度あるのだから、事前にアプローチしていれば退去を未然に防げた可能性がある。
■そのまま住むことが
お得と感じさせる
物件の建物や設備のような、ハード的な問題に関しては、修繕をして改善をしていく必要がある。しかし「安い物件に引っ越す」とか「気分転換」という人には、飽きさせず、お得に感じてもらっていれば退去を防げる可能性がある。
たとえば、以前、全国5都市でアンケート調査を行った時、同時に5〜6名程度を集めて直接ヒアリングを行ったことがある。話を聞いてみると、誰もが引っ越しするのは手間だと感じており、また費用が改めてかかることにネガティブな印象を抱いていた。当然、敷金や仲介手数料、火災保険に滞納保証会社など、まとめればそれなりの費用捻出が必要となる。
大家としても、退去に伴い費用が発生するし、退去期間が延びればその間は家賃収入を生まないためストレスとなる。
入居者に「更新時または2年に一回、2~3000円程度家賃が下がって、換気扇やエアコンなどを清掃してくれたら、そのまま住み続けますか?」と、質問をしてみた。すると、驚くことに8割程度の人が、そのまま住み続けたいと言ったのだ。
確かに他の部屋は自分が入居した時より安くなっているのに、一番長く住んでいる自分が、一番高い家賃を払っているとなれば、お得感というか損をしている気分になってしまう。
■入居者との関係性を作る
管理会社も多数の空室物件を抱え、なかなか一つの物件だけに細かな機転を効かせるのが難しい。そのため、入居者との関係性は機械的な付き合いのみになる。そもそも「大家」と「店子」は、古典落語にも度々でてくるように、ハートフルな人間関係があったはずだ。
実際に私が以前9年近く住んでいたアパートの大家は、手作りの野菜を毎月のようにドアノブに袋一杯の野菜をぶら下げてくれていた。2回目の更新の時、退去をしようと思っていた矢先に、大家側から「今回の更新で、家賃を3000円下げます」という提示があり、結局そのまま住み続けることになった。
その結果、9年もの間、居住した。大家さんの勝ちである(笑)
そこまでの関係性を持つ必要などないが、ひと手間かけるだけで入居者に喜んでもらうことはたくさんある。一手間がかかるが、大家として入居者が喜んでくれれば、こちらも嬉しい。
【例】
・入浴剤をプレゼント(または、ご自由にお取りください)
・更新時に選べる、ダスキンのギフトカード
・クリスマスのイルミネーション設置
・床屋の大家さんは、カット半額
・飲食店経営の大家さんは、ランチ20%オフ
・ハロウィーンには、共用部にお菓子を置いておく
■現場を知ることで
課題は見えてくる
ちなみに、私の物件は、ここ数ヶ月で退去数が4世帯とかなり多かった。退去してもすぐに入居者が見つかるから良いものの、やはり気になる。
前々回の記事、「空室の原因は”現場”にあり!」でも書いた通り、「答えはいつも現場にあり」ということで現地へ行くと、大きな問題点を発見した。白い壁面なので、汚れは目立ちやすいのだが、久々に見た物件は苔で汚れていた。しかも、入居者が目にするところが著しく汚れている。


先日、管理会社に依頼して高圧洗浄をしてもらったが、床面しか実行されていないため、逆に汚れが目立つ。「清潔さ」は、何よりも重要な要素だ。これが退去の決定的な理由とは言えないが、大きく影響をしていることには間違いない。
大家自らが現地に赴き「入居者目線」を感じることを大切にしなければ、供給過剰なご時世で安定した長期入居をしてもらうことは難しいだろう。
自らが住みたい家であれば、きっと入居希望者にも選んでもらえるはずである。
文・今井基次(いまいもとつぐ)
■プロフィール
株式会社ideaman 代表取締役。
保有資格:1級FP技能士,CFP,CPM,CCIMなど多数。賃貸・売買仲介の実務を経て、中堅不動産管理会社へ入社。収益不動産売買仲介の実務の後、不動産管理会社への業務コンサルティングを14年間行い、これまで200社以上の企業を担当。
管理会社へのコンサルティングを通じて、多くの大家さんの稼働率向上を行ってきた。
オーナーセミナーや不動産会社向け研修など、毎年80回以上講演を行い延べ3万人以上もの人が聴講してきた。自らも不動産投資を行なっている。
著書:ラクして稼ぐ不動産投資33の法則 -成功大家さんへの道は管理会社で決まる!-
連載:健美家、月刊不動産