都心部や首都圏人気エリアで人の動きが変わってきている。
これまで、比較的スグ決まっていた都心部や首都圏人気エリアの物件が、繁忙期を過ぎてもなかなか決まらないとのこと。
特に学生物件で顕著であり、やむなく社会人向けにリノベをして決めたなどの声も聞く。
一方で多少郊外でもいいから広くて快適な部屋を探す人も増えている。
新型コロナ感染拡大で「駅近」「大学近」といった利便性よりも「住みやすさ」を求める傾向にあるのだろうか。その傾向と対策について論じたい。

コロナ禍でニーズが変化。「インターネット通信環境の充実」と
「都市部よりも郊外の広く自然豊かな物件」に
アットホームが、2020年9月にした不動産会社向けの調査で「新型コロナウイルス感染症流行前と比べた消費者の住まい探しの傾向」によると、「変わった」と答えた不動産店舗は68.1%。「変わらない」と答えた31.9%を大きく上回った。
では、「どう変わったのか」を聞くと、「インターネット通信環境の充実」と答えた不動産店舗が43.5%、「都市部よりも郊外の広く自然豊かな物件」と答えた不動産店舗が36.1%、書斎またはワークスペース(集中できる静かな個室)と答えた不動産店舗が33.6%であった。

「オンライン授業」「テレワーク」といった生活の変化でネット環境の充実を求める入居希望者が多くなったことで、「この部屋のネットは無料ですか」「スピードは速いですか」と聞かれるケースが多くなっている。
また、「駅に近いけど、結構狭いですね。テレワークも多いし、ちょっと駅から離れていても安くて広い方がいいかな」「オンライン授業もまだまだあるし、あまり外出しないから、高い駅近物件よりも、のんびりすごしやすい物件にします」と、お部屋探しの「駅近神話」が崩れてきてるかもしれない。
これまで決まっていた都心部がなかなか決まらないのは、ちょっと遠くてもステイホームの生活環境が豊かな物件に比べて、「狭くて高い」という判断があってのことだろう。
たしかに現場では、これまでならスグ決まった「駅近物件」や「学校に近い物件」がなかなか決まらず、ちょっと駅から離れていても広く快適な物件が選ばれたという声をよく聞いた。

新築・築浅が高い
かといって築古物件はどうか
また、新築や築浅の設定賃料がかなり高いという事情もある。「これまで決まっていた駅近が決まらない」というケースでは「新築が相場よりも1万〜2万強気なので、なかなか満室にならない」という事情もある。

円安・人件費高騰に加えて、木材価格の高騰というウッドショック、そしてウクライナ危機などの影響でのエネルギーコストの上昇は、建築費の高騰を招いている。
たとえば、人気駅のひとつである日吉駅周辺の物件にいて調べてみよう。単身者を想定して、ワンルーム・1K・1DKの賃料相場を、ポータルサイトスーモの4月の掲載物件の募集賃料から調べてみよう。

平均賃料6.3万円のマーケットに新築が8.1万円で供給されている。2万円近く高い。学生や社会人若手にしてみれば、毎月2万円の出費増は正直厳しい。
となれば、築20年を超える古い物件とするか、あるいは急行が停まらない別の駅から通ってもう少し家賃の安いエリアで探そうか、という事になる。人気駅は相場賃料が高く、新築・築浅はさらに高いからだ。
では新築・築浅の家賃が高いのであれば、入居者はどう考えるだろうか。
ならば、「築古で駅近」なのか「築浅で駅・勤務地・学校から遠い」なのか、はたまた「築古で遠い」と考えるのが順当だ。
新型コロナウイルス感染拡大に伴い、「都市部よりも郊外の広く自然豊かな物件」を、アンケートデータのように求める人が増えてきたならば、立地で不利な物件にはチャンスである。

一方で「築古で駅近」の物件は、こうした環境変化の中で、選ばれるために工夫を考えねばならない。

さて、この日吉駅には、有名大学もあり、古くから学生向け・社会人向けの物件が多い。スーモに掲載されている単身向け物件は、なんと4013件。そして全体の43%が築30年以上と古い。掲載物件の7割は築20年以上である。
「新築がかなり高く、都市部よりも郊外の広く自然豊かな物件を求めるから、苦戦なのですよ」
と言われても、オーナーからすれば
「新築よりもかなり家賃を安くしているのにどうしたらいいの。立地条件は変えられないじゃないか」
と不満が出るはずだ。では、さらにもう一段家賃を下げるのか(新築は強気の家賃設定なのに)という、家賃相場の乖離は、オーナーにしてみればそう簡単に納得できる話ではない。
ほんとうに
「古いから敬遠されている」のだろうか
では、入居希望者は、「新築は高いし、古いものは古いから嫌だから郊外にしよ」と考えているのだろうか。
確かに新築は「誰も住んでいない。自分だけが最初に使う。新生活が新しい物件」という魅力に満ちている。しかし、その新築はかなり高い。ならば、築古がもっと成約していても良いのではないか。
そもそも「新築」に対して「中古」と対比して考えると、築2年でも10年でも25年でも、同じ「中古」だ。
お酒やジーパンやクルマのようなものと異なり、「築年数での違い」はさほどないのではないか。「やっぱり、築17年ものは、築23年ものよりも優れている」と感じるような「築年に伴う老朽感」のようななにかなど、本当にあるのだろうか。

「見た目の老朽感」の前に
「検索項目での設備の差」
実際にこのエリアで、スーモでよく使われるであろう項目で検索してみた。

ここまで、調べると「自然がないから決まらない」「見た目が老朽感があるから決まらない」というわけでもないことが一目瞭然だ。
新築は平均賃料が8.1万円と高いが、6割がネット無料で、バストイレ別でエアコン・温水洗浄便座・TVモニター付きインターフォン、宅配ボックスがついている。
築5年未満は平均賃料は5000円安いが、このエリアでは宅配ボックスがついていない。ならば付けたらどうだろうか?
ネット無料物件も48%に減る。仮に自分でネット回線をひけば3000円ぐらいはかかるので、5000円安いと言われても、新築のネット無料物件のほうがお得となるかもしれない。
築5年〜10年は、さらに平均賃料は5000円下がるが、ネット無料物件は41.9%に減る。
そして、築10-20年物件は、さほど家賃を下げていない。が、ネット無料物件は17.3%に激減する。温水洗浄便座は、半分ぐらいしか設置されていない。だったら、同じ家賃で築浅の物件を選ぶかもしれない。
築20年を超えると、さらに1万円以上家賃が下がる。しかし、ネット無料物件は激減し、バストイレは一緒。温水洗浄便座も極端に減る。ならばこれらの設備を設置して、「ステイホームの長い滞在時間となる住まいでの生活をより豊かにしたい」と考えることは当然ではないだろうか。
そう、この調査は4月に行っている。すなわち「繁忙期に決まらなかった物件」であり「このままだとこの先1年空いたままになるかもしれないリスクのある物件」である。なにも手を打たないで、競争に打ち勝つことは難しいのではないだろうか。

「人気の駅近」ほど
設備設置が少ない
さて、前回のこの連載でレポートしたように、23区での設備設置率は下記の状況だ。たとえば、温水洗浄便座の設置率は23区では50.1%だ。なのに人気の日吉駅周辺は、36.8%である。日吉の人は、お尻を洗いたくない・・・わけはない。
そのほかの項目も軒並み、23区平均よりも設置率が低い。そう、「設置率が低くても決まっていたから、わざわざ投資をしなかった」だけなのだ。そしてステイホームという環境変化で、人気駅に近い「だけ」では決まりにくいのに、繁忙期に手を打たずに空室のまま4月を迎えた、というわけである。

これから留学生がやってくる
留学生が必要とする設備は日本人と少し違う
さて、環境変化はマイナスだけではない。新型コロナ感染での入国制限が緩和され、これから海外から留学生が入ってくる。
1日あたりの入国者の上限は、3/1は5000人、3/14には7000人に増加。それでも、在留資格の認定を受けながら来日できていない外国人は約40万人にのぼる。
留学生だけでも11万人ほどが入国待ちの状態だ。今回取り上げた日吉駅に限らず、首都圏築古物件では朗報である。
外国人入居者が多いシェアハウスを運営する会社からは、3月は前年に比べ申込が7.5倍に増えたという声も上がっている。外国人専門の家賃債務保証会社であるGTNでも、3月の業績は過去最高水準だった。

ならば、一安心、外国人で「なにもしなくても満室」・・・になるだろうか。
特にネット環境は、本国とのやりとりやオンライン授業など、外国人留学生にとっても魅力的だ。なんとか入居先を探してから、自分でネット回線をひく、のはかなりの負荷。ならば、ネット代はオーナーが負担して差し上げ、選んでいただく。
海外では湯船につかる習慣があまりなく、バストイレは一緒でも気にしない。温水洗浄便座の普及も海外はそこまで高くない。となれば手を打つべきはなにか。特に人気エリアこそ、これまでとは事情が違うという前提で、空室対策に取り組んでいただきたい。

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執筆:
(うえののりゆき)