今、私たち不動産オーナーを取り巻く環境に新たな難題が浮上している。長引くコロナ禍に半導体不足、ウクライナ危機、そして20年ぶりと言われている円安…それらの要因によって引き起こされた急激な資材・設備の高騰が賃貸経営を圧迫している。

価格改定続々、4割値上げも!
2022年の年明け以降、建築資材メーカーが相次いで「値上げ」を発表している。4月には住宅設備大手のLIXILが最大39%の値上げを実施したほか、建材大手のDAIKENやキッチン・洗面台等のタカラスタンダードも約10%の値上げを断行。
トイレ・浴室設備でおなじみのTOTOも、この秋に最大20%の値上げを予定していると発表した。そのほかパナソニック、YKK AP、サンゲツ、ノーリツなど、価格改定を発表した企業の中には、住まいづくりに欠かせないメーカーの名前がずらりと並ぶ。
価格高騰の主な原因は5つの「ショック」と言われている。コロナショック(製造・流通難)・オイルショック(原油高)の影響は、すでに身の回りの食品や日用品の値上げによって実感するところだろう。
さらにウッドショック(木材不足)・アイアンショック(鋼材不足)が同時多発的に起こったことで、各メーカーとも原材料の安価な調達が困難に。
多くの企業が値上げの実施時期を4月としたため、3月の原状回復ラッシュへの影響が最小限で済んだことは幸運とも言えるが、そこへきて5つ目のショック「円安」が多くの資材を輸入に頼る日本を直撃している。
今後の修繕・リフォームにおいて、工事費用が膨らんでしまうことからは、逃れることができないだろう。
工事を抑制、入居長期化戦略
工事費の上昇は賃貸経営の利益に直結する。不動産オーナーとしては、なんとかして建物の維持・修繕コストを下げたいところではあるが、この世界的な物価上昇に個人の力で立ち向かうことは不可能と言える。
唯一対策できる方法があるのならば、それは「工事発生回数の抑制」である。
もちろん、入居者の安心な暮らしが損なわれるような、不具合・故障を放置することはできないが、たとえば「原状回復工事」ならどうだろう。
入居者にもっと心地よい暮らしを提供し、少しでも長く入居してもらうことで、原状回復工事の発生数を最小限に抑える…、そんな前向きな工事費節減対策も可能なはずだ。
こうした入居期間長期化戦略のことを「テナント・リテンション(入居者保持)」と言うが、たとえば、次のような施策は検討する価値があるのではないだろうか。
(1)現状の不満調査と改善…入居満足度調査を実施し、抽出された問題点を解決。Google Formなどのアンケートツールを使えば、短期間にリアルな情報を収集することが可能。
(2)契約更新のお礼…カタログギフトや室内クリーニング券(エアコンや水回り)等をプレゼント
(3)長期入居のお礼…一定以上の入居を条件に壁紙や網戸、設備等の交換をサービス
(4)家賃の減額…近隣の相場家賃と比較して、退去されたら明らかに家賃が下がると言うことであれば、先手を打ち2000-3000円程度でも、相場に合わせて減額する。
長期入居者の増加は退去工事費の抑制のみならず、解約に伴う空室損や再募集費用(広告費)の節減にもつながるため、オーナーにとってはメリットしかない。
「究極の空室対策」は、空室を出さないことである。つまり入居者にどうやったら住み続けてもらえるのか、しっかりとした対策が必要なのである。
そのためのテナント・リテンションには多少のコストが伴うが、長い目で見れば施策コスト以上のメリットが手に入るだろう。
余談ではあるが、筆者は以前住んでいた賃貸住宅でこんなエピソードがある。4年住んで更新のタイミングが訪れたとき、そろそろ引越しでもしようかと考えていた。そんな矢先、オーナーから3000円減額の提案があり、ふたつ返事で更新することを決めた。結局、その後も住み続け、なんと結局9年半もの長期間その物件に住み続けた。
オーナーからしてみれば、もしその時に退去をされていたら、当然家賃を下げて空室期間も発生していたはずだが、オーナーが先手を打ったことで実際は「損して得とる」形となったわけだ。
国際情勢は、まだまだ安定の兆しが見えないどころか環境はどんどん悪化している。
物価高による家計の圧迫が、借主の「もっと家賃の安い部屋に引っ越したい」というニーズを掘り起こしてしまう可能性も十分に考えられる。そんな時だからこそ「今の入居者を大切にする」という考えは、さらなる状況悪化に備える意味でも最重要戦略と言ってもよいだろう。
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執筆:
(いまいもとつぐ)