世の中物価上昇が激しい。国は、「物価上昇インフレ率」<「賃金上昇率」を民間企業に要請している。そう簡単には賃金水準を引き上げることは出来ないという声も多いが、国民の生活水準を維持する上でも、「物価上昇インフレ率」<「賃金上昇率」は、重要だ。
その一方で収益物件のオーナーの可処分所得を考えると、「物価上昇インフレ率」<「収益額の上昇率」としたいところ。それには満室経営ならびに家賃デフレからの脱却が必要である。
今回は、そのために必要な施策として「エアコン」「24時間ゴミ出し可」「無料インターネット」がポイントとなることを解説します。

物価上昇すれども
家賃はそう簡単に上がらない
これまでもこの連載で述べたように、そう簡単には家賃は上がらない。
「来年から家賃が上がります」と言われて、「はいそうですか」という入居者は、そうお目にかかれない。むしろ家賃は築年を経ると下がっていく傾向にあり、人口減少・空室増の中、オーナーと取り巻く環境は厳しい。
そんな中、家賃は「新築」と「築古」での格差が広がっており、その要因は築年そのもののみならず、設備などで、築古物件は劣位であることが主たる原因であることをこれまでの連載で述べてきた。
下記のように、日吉駅近隣の単身物件の相場は、平均で6.3万円であるが、新築では8.1万でありながら、築30年では5.5万円まで下がるという状況である。
この現象は、日吉駅に限った話ではなく、全国で起こっている現象で、新築の家賃の半額で築30年越えの物件が募集しているというケースが、私が講演していても体感値としても大きい。
しかし、築10年、20年、30年で入居希望者が、段階的に減るというよりは、設備面で築年が古いと下記のように劣位となっていることが要因であり、設備を強化することで、家賃のデフレを食い止める事が可能ではないかと思われる。
下記の表であれば、築30年になったからと、6.2万の家賃を5.5万まで下げずとも、例えば、バストイレ別にし温水洗浄便座をつけ5.9万ぐらいで満室にしましょうという話である。

では、
なにをどう強化すべきなのか
こうした考察で重要となるのは、では入居者はどういうサービスや設備を強化すれば、入居してくれるのかという問いである。
訪問する設備会社やリノベーション会社は、いずれも「自社の商材が最も優位性が高い」と営業する。収益物件オーナーとしては、ではどの打ち手が有効かと悩んでしまう。

ともすれば、オーナー自身が「使いたい」「それは入居者が喜ぶだろう」という設備を強化しても、入居希望者とは世代が異なり、残念ながら過剰投資となってしまうこともある。今の入居者がなにを希望しているのかをしっかりと見極める必要がある
家具家電は、
ニーズが二極化している
「家具・家電付き物件にすれば決まるのではないか」という声をよく聞く。海外では一般的に家具家電付きが多く、ホテル感覚での賃貸が普及している。国内でも大手のレオパレスなどが有名だ。
インドの大手ホテル会社OYO(オヨ)とヤフー株式会社によって設立された、「OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN 株式会社」が2019年3月から開始した賃貸サービス「OYO LIFE」が登場したときには、家賃アップの戦略も含めて注目をされた。

しかし、21C住環境研究会が、実際に部屋探しをした入居希望者に聞くと、家具家電付きについての評価は二分された。
「前の入居者が使っていた家具・家電を使う事に抵抗があるので検討対象外」という人が22.7%存在し、「既に持っている家具・家電があるので検討対象外」という人も25.7%存在し、すべての人が歓迎というわけではない。
とはいえ、残り半数の人検討したいと答えており、家賃デフレ対策には有効な打ち手のひとではある。
■家具・家電付きマンションに関する考え方をお伺いいたします。あなたの利用意向に近いものを一つ選択してください。

プリンシプル住まい総研作成
自己負担してもほしい設備、
一位は、「エアコン」
この「2020年度賃貸契約者にみる部屋探しの実態調査」では「あなたが、自己負担(家賃などの増額)をしてでも欲しい設備・サービス・リフォーム箇所はなんですか。あてはまるものを、すべてお選びください。」という調査もしている。
こちらで、家具家電として具体的に指定された一位は「エアコン」であった
■あなたが、自己負担(家賃などの増額)をしてでも欲しい設備・サービス・リフォーム箇所はなんですか。あてはまるものを、すべてお選びください。

より、プリンシプル住まい総研独自加工
他人が使った洗濯機や冷蔵庫に抵抗はあったとしても、エアコンは住宅設備として抵抗感がない。設置には工事がかかり、取り外しも素人では難しく、まさに設置してあるとリーズナブルというわけだ。
温暖化で暑くなっていることを踏まえても、設置していなければ是非とも強化したい設備である。既に設置率が高いのも実情であるが、「寝室とリビングにつける」「居室だけでなく、台所や着替え室にもつけてあげよう」「省エネタイプの新品にしよう」といった強化策は有効であろう。


強化したい仕様として
「24時間ゴミ出しOK」
なにか設備投資を行うという方法以外にも、同調査では「設備・仕様」という項目でも入居者に聞いている。こちらの調査での一位は、「24時間ゴミ出し可能」という仕様であった。
■あなたが、自己負担(家賃などの増額)をしてでも欲しい設備・サービス・リフォーム箇所はなんですか。あてはまるものを、すべてお選びください。

より、プリンシプル住まい総研独自加工
宅配ボックスや追い焚き機能は、ふたり暮らしでは高く、注目される内容であるが、24時間ゴミが出せるというベネフィットは、すべての入居者の意向が高い。
これを実現する為には、例えば、駐車場などに大きなゴミステーションなり、ゴミ箱を設置し、毎週のゴミ回収にあわせて、それを移動するといった手もある。
それなりにランニングコストがかかることが想定されるが、事業用のゴミとして、行政のゴミ回収とは別に処理をするなど、新しい工夫もありえる。なにしろ「あなたが、自己負担(家賃などの増額)をしてでも欲しい」と聞いており、家賃転嫁を想定すれば、施策の選択肢は拡がるだろう。

中が見えないようにするなどの工夫をするとさらに良い。
サービス」としての魅力一位は、
「ネット無料」
■あなたが、自己負担(家賃などの増額)をしてでも欲しい設備・サービス・リフォーム箇所はなんですか。あてはまるものを、すべてお選びください。

より、プリンシプル住まい総研独自加工
同調査で、「サービス」としてカテゴライズされたものの中での一位は、「無料インターネット」であった。
他のランキングなどでも常に高い順位である「ネット無料」は、テレワークやオンライン授業だけでなく、動画配信コンテンツやゲームなどでかなり望まれている。
個人で光回線をひけば5,000円〜6,000円が月額かかってしまうため、1,000円〜3,000円程度家賃があがったとしても、入居者にとっては、生活費が低減される。
これからのインフレ時代には、こうした「エアコン」「24時間ゴミ出しOK」「ネット無料」などの設備強化・サービス強化をすることで、家賃の下落を抑え、出来れば新規募集では少し強気の賃料設定で勝負していくべきだろう。

執筆:
(うえののりゆき)