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賃料査定の真実【後編】同じ物件で賃料査定額に2万円以上の差。査定する側にも思惑が!

賃貸経営/空室対策 ニュース

2023/04/04 配信

前回の記事では大手管理会社ハウスメイトで賃貸住宅の賃料査定や管理契約を多く行う、ハウスメイトパートナーズ東京本部東京営業部長の田中利幸氏に同社の場合の賃料査定の現場を伺った。

新築時には情報が揃っていない時点で賃料査定をせざるを得ず、精度の低い査定に基づいて物件が建設される場合があることをご紹介した。

では、新築時でも精度の高い賃料査定をするためにはどうすれば良いのか。査定に差が生まれるのはなぜかなど、今回はコンセプト賃貸、リノベーションという特徴のある賃貸住宅を手がける2社のお二人を中心に聞いた。

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競合物件との徹底比較から検討スタート

アトリエ付き賃貸、焼き菓子工房付賃貸など独自のコンセプト賃貸を次々に生み出してきたPM工房社の久保田大介氏の賃料査定はまず、コンセプト部分以外の、それがない普通の物件だったらいくらかを検討することから始める。

「昔、オーナーズエージェントの藤澤雅義さんがセミナーで話していらっしゃったやり方を自分なりにアレンジ、10数年そのやり方を磨いてきました。

具体的には査定対象物件の競合となりそうな物件、条件が似ている物件を5〜6棟くらいセレクト。募集の条件、最寄り駅からの距離や築年数、ゴミ置き場の有無、外観、共用部、セキュリティ、専有部、収納など40項目くらいを並べてみます。内見できるようなら内見しますし、できない場合は室内写真などをチェック。自分の意図ではなく、客観的な目で比較していきます。

比べた後で違いが明らかな項目を10〜15項目くらい選び、それでいくら賃料に差が出るかを考えていきます。徒歩2分と徒歩5分でこの街だったら、いくら賃料差があれば借りてもらえるかを1000円単位で検討するというやり方です。この作業を繰り返し、最大と最初の差はいくらか、平均で見るといくらになるか。

これをやると近隣相場という数字から離れられます。よく、このあたりは坪いくらというざくっとした言い方がありますが、実際の物件は一棟ごとに違いがあり、個性があってそれが価格差になっています。それを細かく見て行くことで数字が現実に近くなっていくのです。

実際、これをやりだしてから提案する金額で決まるようになりました。具体的な数字の積み上げがあるのでオーナーにも納得していただきやすい。逆にエアコンがないから3000円安いと伝えて交渉することもあります」。

コンセプト部分のプラスαは市場リサーチで決定

こうした地道な数字の積み上げの上にコンセプト部分のプラスαを載せるのだが、それについても「大体、いくらでしょ」といった雑なやり方はしない。

「コンセプト物件は市場調査を踏まえて企画を決定。提案しています。事前に自社メディアで記事を書いたり、企画の段階で探している人と接したりしてまずはリサーチ。

3割、4割乗せられるのか、1割くらいなのか、市場リサーチの数を増やすことで大体読めるようになります。同時にそのコンセプトで実際に探している人を空き待ちとして登録、事前に想定入居者を集めることもやっています」。

久保田氏の目からすると自分の都合で賃料付けをしている人が多いという。いくらコストをかけたから、いくらで貸さないと成り立たないという考え方だ。しかし、久保田氏は市場ありきでスタートする。市場を調査し、そこでのニーズを拾って形にしているのである。

査定額が異なる背景

前回の田中氏、今回の久保田氏の査定法は物件本位で借りる人目線があって緻密だが、そうではない査定をするところも多い。方法がいい加減ということに加え、査定する側の思惑が査定額を決めることもある。

「渋谷区幡ヶ谷でやった物件では大手都銀さんの査定が8万円。私が10万5000円で2万5000円の差。オーナーとしては私より大手都銀が正しいのではと思いかけたところで査定の根拠を教えてもらってくださいとお伝えしました。

そうしたところ、査定のベースは幡ヶ谷駅周辺全物件の平均値でした。駅から2分、20分も、新築、築30年も一緒にした平均が信用できますか?とオーナーに質問。結局10万5000円で募集、決めることができました」。

このケースでは大手都銀はこの物件では収益が上がらないと思わせて売却を勧め、それを頭金に多額の融資をしてオーナーに他の不動産を買わせたかったそうだ。

「あるいは目黒区の4階建て、14室の物件で建てたのは大手ハウスメーカー。その会社の査定は14万円。私の査定は16万5000円。大手さんはサブリースをとりたかったようで安く査定してオーナーに支払う額を減らしたかったのでしょう。実際に貸す時にいくらで貸すかは別問題ですから。

結局、間をとって15万5000円で出しましたが、8月のお盆時期に1週間で決まりました。オーナーさんは早く決まって喜んでくださいましたが、安いのですから当然です。2014年の新築ですが、今でも退去がある度に賃料を上げ続けていますが、それでも決まります。まだまだ上げる余地があるからです」。

地域の違う不動産会社だと査定額が異なることもある。地元の不動産会社は地元客を想定した査定をするが、幅広い地域から客を集めている駅の不動産会社はもう少し強気だったりすることもあるそうだ。

誰とどんな物件をやるかでも賃料は異なる

久保田氏の話を聞いて思ったのは査定、ひいては不動産経営は誰とどんな物件でビジネスするのかでも異なるということ。コンセプト物件自体は真似できないものではない。だが、それをきちんと客付けできるかは別問題。

少し前に世田谷区下北沢のボーナストラックという商業施設が話題になった。それを真似して建物を作った話を聞いたが、作った建設会社も、客付けを依頼された不動産会社も物件のコンセプトを理解しておらず、そうした物件を求めている人にアプローチする方法も分からないまま、空室が続き……。こうした例は他にも聞く。

これについてはもう1社、大阪のアートアンドクラフトの西川純司氏にも聞いた。同社は大阪のみならず、日本のリノベーションの先駆けとなった会社。設計から工事を請けるだけでなく、リーシングまでを一気通貫に行っており、それが大きな強み。現場のニーズを誰よりも知っているのである。

「リノベーションの会社は収支が合うかどうかよりも難しいことをやりたがりますが、私たちはリーシングまでを一貫してやるので実現可能な、投資がそれほど長期に及ばずに回収できるような計画を考えます。

たとえば鉄骨造5階建てのオフィスビルで1階が自社オフィス、2階以上が空いていた例では用途変更で住宅にすると初期投資が大きくなる。そこで既存用途のまま、無理に変えずにという提案をしました。そのため、この数年で投資が回収できています。ただ、2年後くらいに一度、オーナーから賃料、もっと頑張れたんじゃないのという話がありました」。

だが、最初からもっと上げた額で行けたかというと難しいところがある。同物件のように2階以上が全く空きビル状態の場合、早く埋めて一度ビル全体を活性化、2回転目から賃料を上げていくというやり方のほうが現実的な場合があるからだ。

特に同物件の場合、これまで同社がオフィスとして募集したことのないエリアだった。最近では住宅地に近い、これまでオフィスエリアとして認知されていない場所でもオフィスが成り立つことが分かってきたが、その前の時点ではトライアルである。そこで2階、3階にまず着手、様子を見て4階、5階と順に手をつけてきた。

また、「共用部があったり、コミュニティ性が魅力となる物件の場合、とにかく人が入らないとその機能が形成できない。シェアハウスもそうです。できたばかり、誰も住んでいないシェアハウスより、ある程度コミュニティができ、温かい雰囲気ができたあとの物件のほうが賃料を上げやすくなります」とも。

物件の魅力が何かを考え、無理をしない範囲でスタート、そこから上げていくというやり方なのである。実際、同社では最初の賃料以降、賃料を下げることはほぼないとか。一戸建て、マンションの一室のように人が入ることでの価値を生みにくいものですら2回転目で上げているそうで、そもそも古くなったら下がるという感覚ではないのだ。

もうひとつ、面白いと思ったのは西川氏の「借りる人は空間だけを借りようとしているのではない」という言葉。周辺も含めて借りたいと思うはずで、駅も街も見て借りようと思うと考えるとそのエリアの魅力を伝えることもポイント。逆に自分たちの言葉をテキストにできない、ただ便利なだけが売りというような街、物件は難しいとも。

この点、言い方は異なるが、前回の田中氏も、久保田氏も同じことを言っている気がする。そこでどのような暮らしができるかを想定、それを価値として伝える、そのツールとして適切な賃料査定がある、そういうことである。

長く価値を保ち、賃料を上げていける物件を作る、それをきちんと客付けしようと考えると、それができる不動産会社と早めに組むことは大事なポイントというわけだ。

「尖った物件を作る時はもちろん、商品が決まっているメーカーと建てる時でも不動産会社が入る時が早ければ早いほど価値を上げられる物件が作れるのではないかと思います」。

早く決まるのは正義か?

さて、早く決まるのが正義か?という疑問に対して、3人の決まるまでの期間についての意見を書いてある種の答えとしたい。

西川氏の目安は3カ月くらい。半年までかかるとなると値付けを見直したほうが良いかもしれないという。

田中氏も竣工して2〜3カ月で緩やかに決まっていくのがベストだという。

「早く決まり過ぎるのは賃料が安いと思われます。ただ、4ヵ月は行き過ぎですし、それ以上かかって礼敷ゼロゼロのキャンペーンを展開しなくてはいけないのは論外です」。

久保田氏はオーナーの希望次第と言いつつも、査定時点では1カ月くらいで決まるラインを提案。多少時間はかかっても良いという場合にはもう少し高値で出し、様子を見るというやり方をする。反応がなかった場合には1カ月ラインに戻せばよい。

逆に竣工後満室にして売りたいという場合には半年かけても相場よりかなり高値で満室を目指すというやり方もするそうで、最終的にはオーナーの判断次第。オーナーとして判断できるよう、本気で収益を目指したいなら「近隣相場はいくらです」という言葉に納得せず、自分で周辺事例を研究するなどの努力も必要だろう。

ちなみに満室までの目安は2〜3カ月としても最初の1カ月で無反応という場合にも再考は必要かもしれない。

健美家編集部(協力:中川寛子(なかがわひろこ))

中川寛子

株式会社東京情報堂

■ 主な経歴

住まいと街の解説者。40年近く不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービス、空き家、まちづくり、地方創生その他まちをテーマにした取材、原稿が多い。
宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。

■ 主な著書

  • 「ど素人が始める不動産投資の本」(翔泳社)
  • 「この街に住んではいけない」(マガジンハウス)
  • 「解決!空き家問題」「東京格差 浮かぶ街、沈む街」(ちくま新書)
  • 「空き家再生でみんなが稼げる地元をつくる がもよんモデルの秘密」(学芸出版)など。

※ 記事の内容は執筆時点での情報を基にしています。投資等のご判断は各個人の責任でお願いします。

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