仕事付き高齢者住宅という
新しいコンセプト
2021年、江戸川区の西一之江に空き家を改修して、高齢者向けのシェアハウスとして運用する「仕事付き高齢者住宅 フローラ西一之江」が開設された。

企画したのは空き家の利活用を通したまちづくりを目的に、新しい働き方・暮らし方を実現する高齢者向け住宅の普及を目指す団体「一般社団法人 生涯現役ハウス」である。
代表理事の持田昇一さんは、産学官連携ベンチャー企業のコンサルティング業を経て、IoTを使った「地域の見守りサービス」やシニア就業支援事業などを立ち上げている。不動産関連の事業はこれが初めてだ。
空き家を活用したシェアハウスを、ゆくゆくは内職などの仕事も提供できる家にしたいということで、「仕事付き高齢者住宅 フローラ西一之江」と名づけたという。
住宅確保要配慮者の住まいの問題と
地域の空き家の問題を同時に解決
空き家を活用した事業を始めたきっかけは、シニア就業支援を通じて、シニアは就業が難しいだけでなく、賃貸契約を結ぶことも難しいという現実を知ったことである。
また、都心部の空き家は価格が高く、権利関係が複雑なものが多いため、流通しにくいものもある。団塊の世代の相続問題もやがて深刻化するだろう。
こうした背景から持田さんは「シニアや住宅確保要配慮者の住まいの問題と、地域の空き家の問題を同時に解決できる方法を考えた」という。
それまで、シニア就業支援事業などで江戸川区の福祉部と連携していたこともあり、「空き家と活用希望者のマッチング事業」に登録されている空き家を活用し、生涯現役がコンセプトの「仕事付き高齢者住宅」をつくることができた。
「仕事付き高齢者住宅 フローラ西一之江」は、いわゆるサービス付き高齢者向け住宅とは全く異なる。「人生100年時代、元気なシニアが仕事をしながら地域で最期まで暮らしていける家を目指す」と持田さんは語る。
シェアハウスにした理由は、若者向けや外国人向けのシェアハウスはあってもシニア向けのものはほとんどないからだ。単身のシニアは増え続け、孤独死などの問題もある。助け合いが必要なシニアにこそ、シェアハウスが向いているのだ。
住宅セーフティネット制度等を活用し
改修や入居者への経済的な支援も
「仕事付き高齢者住宅 フローラ西一之江」は、国土交通省の「セーフティネット住宅」に登録されている。「セーフティネット住宅」とは住宅確保要配慮者の入居を拒まない住宅のこと。今後専用住宅とすることにより、改修費の援助や入居者負担の軽減などの支援を受けることも考えられる。

シェアハウスに改修するにあたり、建物2階の4部屋を、それぞれ個室に変更。
1階部分はキッチン、リビング、風呂などの共用部となっている。入居者がテレワークなどに使用できるワーキングスペースも用意した。洗濯機やエアコンなどの生活に必要な家電も備え付けられている。
何か問題があったときや、悩み事があるときは「一般社団法人 生涯現役ハウス」にLINEで相談できる。
改修費は江戸川区の空き家活用補助金を活用し、残りは家賃収入で償却する。
管理業務は、空き家を活用したシェアハウスの運営・管理の実績を持つ株式会社ブラザーフッド・アンド・カンパニーに委託した。
家賃は部屋ごとに異なっており、共益費込み(水道光熱費が含まれる)で4万6500円、6万1000円、6万5500円、6万7000円となっている。2022年2月時点では3部屋が埋まっているという。
家主と10年の定期建物賃貸借契約を結び
社団がリスクを負担することで空き家活用を促進
物件はサブリース方式で運営されており、家主と「一般社団法人 生涯現役ハウス」の間でマスターリース契約が結ばれている。期間10年の定期建物賃貸借契約である。
「シェアハウスに改修することは家主さんにとって勇気がいる判断。10年定借でのサブリースなら所有しているだけで収益を得られるため協力を得やすい」と持田さん。
今後は、介護が必要な人向けのケアハウスや、障がいがある人向けの「グループホーム」なども空き家を活用してつくっていく。

これを10軒、20軒と拡大することで空き家活用事業のモデルエリアをつくり、最終的には小規模不動産特定共同事業としてクラウドファンディングに対応した環境を整備する。不動産投資家から出資を募り、収益を分配する不動産ファンド化を視野に入れているという。
空き家問題と住宅確保要配慮者の住まいの問題の解決につながり、なおかつ不動産投資も視野に入れたプロジェクトはまだ始まったばかり。まずは江戸川区でモデルエリアをつくり、それを日本全国に広めていく。
健美家編集部(協力:
(とやまたけし))