空き家をどう活用するか。さまざまな試みが行われているが、そのひとつとして改修された大田区の一戸建てを見学してきた。もともとはごく普通の一戸建てを店舗・事務所併用住宅として改修、手を入れるところ、入れないところを明確にしてコストを削減するなど空き家を活用する際にはもちろん、それ以外で不動産を活用する際にも役に立ちそうな事例である。加えて、改修費を事業者が負担、物件を転貸することで改修費を回収するという手法も参考になる。
一戸建てを併用住宅にリノベーション

物件が所在するのは東急池上線長原駅から歩いて7分ほどの住宅街。それほど遠いわけではないが、駅に近いとまでは言い難く、周辺は低層の住宅が並ぶ一帯。これまでであれば住宅としての活用以外は考えられなかったであろう地域である。
それが「WORKING HOUSE上池台」、稼ぐ住宅として改修された。店舗・事務所併用住宅として使えるのである。
コロナ禍は社会にさまざまな変化をもたらしたが、不動産においてはいくつかの新たなニーズが生まれた。そのひとつがリモートワークが可能になり、オフィスが都心、駅前でなくても成立することが明らかになったこと。以前から営業などで外に出る機会がある業種は別として、オフィスは作業場という業種では駅から離れた立地もあり得たが、それが広がった感じである。
ちなみにこの物件、改修自体は昨年春に完成しており、その後1カ月ほど入居者を募集をしていたそうで、その時に見学に来た業種としては建築事務所、デザイン事務所、システム開発、ゴーストレストランなどがあったとか。幅広い業種にニーズがあるわけだ。ゴーストレストランもコロナ禍でニーズが見えるようになったもののひとつだ。
なぜ、その時に入居者を決めなかったかといえば、そのタイミングで国土交通省の「住宅市場を活用した空き家対策モデル事業」にこの建物の改修その他を企画したJapan. asset management(以下Jam)が運営主体となっている「空き家リノベラボ」が採択されたため。その助成金を利用、この建物を空き家活用のショールームとして使っていたそうである。
オーナーの費用負担無で改修をする仕組み

建物は1979年築(築43年)、延べ床面積134.68uの木造2階建てで、所有者は相続でこの住宅を取得。すぐに手放すのもどうかということで相談があったもの。


大きな改修をしたのは壁を抜いて大きなワンルーム状態になっている1階のみ。2階は個室3室(うち、1室は和室)と広いストレージがあり、清掃と照明の交換程度に手を入れたとのこと。

1階も間取りは変更されているものの、キッチンや水回りなどにはほとんど手を入れていない。キッチンはガスレンジ、レンジフード、コンロは交換したものの、それ以外は既存を使い、洗面台も既存、浴室もそのままにしてシャワーを追加、浴室ではなく、シャワールームとして使うことを前提にした。


トイレもクロス張り替え、塗装などはしたものの、便器自体は既存を使い、洗浄機能付きの便座を新しくした。
「住宅だけの用途で考えると水回りの改修が必要になりますが、それをやると改修費は1000万円を超えることに。
この物件は私たち事業者負担で改修を行い、所有者から改修後の建物を借りて転貸、所有者には相場賃料の半額程度の賃料を払い、私たちは実際の賃料と借り上げた賃料の差額から改修費を最長10年で回収する仕組みをとっています。この物件も10年、借り上げる予定です。
そのため、改修費に多額を投じると回収に時間がかかるなど、所有者にも、私たちにもプラスになりません。収支を考えつつ、メリハリをつけて改修する必要があり、そこで水回りには大きく手を入れないことにしました」とJamの澤田剛希氏。

店舗・事務所併用としたことで水回りにかける費用を抑えることができたわけである。コスト削減では天井を現しにしてもいる。その一方でかけるところには費用をかけている。

「道路脇のサッシは交換し、店舗として使えるようにしましたし、門扉が邪魔して1台しか止められなかった駐車場は壁を壊して2台分に。また、憩いの空間として使えるように縁側を設置しています。エアコンは2台新設、照明のダクトレールを設置、冬、ガスストーブが使えるように配管もしてあるなど、目的に即して必要と思われる部分は改修、新設などしています」。
住宅として貸すよりも賃料は高めに設定
その結果、改修費用は住宅としてフルに改装するのに比べて少額に収まった。現在は月額30万円(税抜き。共益費は賃料に含む)、敷金2カ月(税抜)、償却1カ月で定期借家契約、契約期間3年で募集を始めている。
「賃料の中には周辺相場1台約2.5万円の駐車場台が2台分含まれており、また、契約時の諸費用は一般の店舗・事務所物件を借りる場合よりも安めに設定してあります。もうひとつ、借りやすくするために内容の確認は必要ですが、原状回復を不要とし、複数者、複数社でのコンソーシアム契約を可能としてあります。ペット飼育も可能です」。
前回、一時募集していた時の賃料はやや高めの40万円としていたそうで、それでも10数件の見学があったことを考えると、現在の賃料は比較的リーズナブルといえるのかもしれない。このエリアで住宅として貸す場合の相場は20万円ほどというから、使い方を変えることでコストを削減、賃料を上げることに成功しているわけである。
空き家活用、再生をあの手この手で
最後に「空き家リノベラボ」の説明を。前述のJamともう一社、不動産仲介・分譲や建築設計、空き家再生などを幅広く手掛けるエンジョイワークスが主体となって進めているもので、連携パートナーとともに空き家再生に取り組んでいる点が新しいところ。
空き家の活用、再生には様々な手が考えられるが、一社だけで取り組むとなると解決策が固定されてしまう。その会社ができることしか提案できないからである。
だが、複数の会社が関われるとなれば、打つ手も増えてくる。
たとえば今回のプロジェクトでは借り上げて事業者が改修費を負担という手だったが、投資型クラウドファンディングで投資を募り、所有者の負担ゼロで改修するという手もあり得る。また、部屋単位で耐震改修をするという手もあり、今後、連携するパートナーが増えれば手法も増えていくことになる。どういう手が生まれてくるか、注目したいところである。
健美家編集部(協力:中川寛子(なかがわひろこ))