仙台市の地下鉄南北線で仙台駅から一駅、五橋(いつつばし)は東北大学、東北学院大学(土樋キャンパス)のあるまち。元々学生が多い地域だったことに加え、近くにあった仙台市立病院が2014年11月に同じ地下鉄路線の三駅先の長町一丁目駅に移転。
跡地に2023年4月に東北学院大学の新キャンパス(五橋キャンパス)が誕生、7000人ほどの学生が新たにこの地域で学ぶ予定になっている。
現在、同学のキャンパスは土樋、泉、多賀城の3カ所に別れており、それぞれに距離があるが、これによって土樋、五橋の2つに集約されることになる。首都圏でも郊外に移転したキャンパスが都心に回帰する流れがあるが、仙台でも同じことが起きているのである。
近年、少子化で減る学生を取り込む、グローバル教育を実践するなどの名目で学生寮を新設する動きがあることを考えると、学生が増えるからといって賃貸需要が増えるとは単純には言えないが、賑わいが保たれることは間違いない。
今回取り上げるURBAN FLATSはそんな五橋の、東北学院大学土樋キャンパスに隣接する立地。RC造、3階建てが3棟建っており、1965年に奥の二棟、翌年に公道寄りの一棟が建設された。築年でいえば55年超ということになる。
かつての写真を見ると、だいぶ、くたびれた感じになっており、入居者も徐々に減少かつ家賃も下がっていた。改修直前の家賃は3万円~3万5000円ほどで入居していたのは3戸のみ。近隣の中古物件の相場からしても半分とまではいかないが、かなり低額である。
問題は建替えか、改修か。これまでの仙台ではこうしたまとまった物件のフルリノベーションの事例はなく、建替えられるのが一般的。
ところが、この土地は所有者である地主のかつての屋敷があった土地。古い写真からするとちょうど門があった場所のようで、現在ある建物を取り壊すと土地の記憶がなくなると所有者は考えた。
幸い、地盤が良く、躯体の状況も宮城沖地震、東日本大震災を経ていながら使い続けても問題がないという調査結果が出た。立地的には前述したように将来を見込める場所でもある。
そこで、リノベーションを行うことになったのだが、大変だったのはリノベーションという概念を役員の方々に理解してもらうことだったと企画から施工までに関わったエコラの百田好徳氏。
「所有者ご本人はかつての海外渡航経験からリノベーションを知っていたものの、それ以外のご年配の役員の方々には基本から説明。高島平団地の、URと無印良品がコラボした部屋などを見学に行くなどしました」。
年代によっては今、普通に受け入れられているものに違和感を覚えることはよくある話。そんな場合には丁寧に説明、納得してもらってから進めたい。
改修では給排水その他の配管をやり直すところから始まり、断熱サッシへの入れ替え、設備その他の更新、間取りの変更と、コンクリートの躯体を残して、それ以外はすべてやり替えている。その結果、たとえば断熱では新築レベルの性能を備えた建物になっているなど住み心地も大きくアップしている。
元々は各階に4戸×3フロア×3棟で全体で36戸の住宅があり、専有面積33.32㎡~37.37㎡の2DKだったが、改修に当たっては広さに応じてワンルームと1LDKの2種類に。また、公道側の1階、4戸についてはオフィスとして貸すことになり、住宅は32戸になった。
建物内部については全面的にやり直しているが、奥の2棟の外装は塗り直しただけ。当初の姿が意外にモダンだったせいもあり、それでも古さは感じない。
公道側の一棟のみは1階のオフィスを公道側から入れるようにするため、バルコニーを撤去、ウッドデッキを作ってそこに入口を設けた。また、2階以上の窓には手すりに替えてルーバーを設置。これらの改装により、事情を知らない人には新築にしか見えないほどに。
これだけの規模のリノベーション自体が仙台では珍しかった上に、建物完成後にも地域では初に近い取組みが続いた。ひとつは無印良品、サンワカンパニーと連携してのモデルルーム設置。首都圏でも賃貸住宅でモデルルームを設置するのはそれほど多くないが、仙台ではさぞや話題になったことだろう。
もうひとつはウッドデッキを利用した完成直後のオープニングパーティー。飲食、グリーンの販売、無印良品による出店などもあり、それで決まった住戸もあったとか。もちろん、商品も売れた。
では、入居状況はどうだったのか。
「そもそも、工事中で仮囲いをしている時点から問合せが多い物件でした。立地の良さに加え、賃料も新築に比べれば2万円前後はお手頃。そのため、2019年の12月上旬に募集を始めて1カ月で満室になりました」。
学生の多いまちではあるものの、予想以上に社会人入居者が多く、また、1LDKでは約3分の1が2人入居だったというのが当初の想定とは多少違ったところとか。いずれにしても32戸が1カ月で満室とは、リノベーションは大成功といってよい。
賃料は改修前の3~3万5000円から7万円前後になり、そこに駐車場代1万5000円がプラスされる。以前の額でごくわずかの住戸しか埋まっていなかった時代に比べると毎月の家賃収入の大幅アップは言うまでもない。
もちろん、改修費の回収は必要だが、それも10年ほどで終わる計算だという。
「改修に要した費用は新築するのに比べ、約3分の1ほどで済んでおり、回収にもそれほどの時間はかかりません。本当はもっと大きな建物が建つ地域なので、目いっぱい新築するという手もありましたが、近い将来に相続があること、変化が早い時代であることを考えると、今、長期に渡る多額の負債を作るよりは短期で少額のほうが安心という経営判断もありました」。
しかも、建物はこれから20年持つことを要望されたと百田氏。今回の改修費が10年で終われば、残存期間の10年の家賃は大半が収益になる。建物の状態の良さと立地、その2つからリノベーションを判断したのが吉と出たわけである。
健美家編集部(協力:中川寛子)