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築古80%空室のビルを、用途を変えて再生、内覧会で即満室に

賃貸経営/リノベ・修繕 ニュース

2022/05/30 配信

古いビルなのに、物件名は妙にポップ
古いビルなのに、物件名は妙にポップ

大阪市の中央部、大阪メトロ四つ橋線「なんば」駅から徒歩8分、同御堂筋線「大国町」駅から徒歩5分と立地には問題がないにも関わらず、古くかつ長らく放置されていたことから空室率80%にもなっていたビルを大阪、神戸、沖縄でリノベーションを手がける株式会社アートアンドクラフトが再生した。

しかも、内覧会で即日3フロア3部屋に申し込みが入ったという。それはコロナ禍で変化した住む人のニーズを的確に捉え、それに即した物件を作った結果だった。

60㎡台1フロアのオフィスにはニーズ無と判断

舞台となったなんばポプラビルは築55年、鉄筋コンクリート造の4階建て。元々は東側にある6階建て、西側にある2階建てと同じオーナーが一体で建築、所有していたようで、それが時間を経て所有者が分かれた。

戸数は1階に2戸、2~4階に3戸、全5戸で、アートアンドクラフトに相談が来た時点で入居していたのは1階の1戸のみ。8割空室という状態である。

オーナーは取り壊して新築することを検討していた時期もあったようだが、敷地境界、建築確認の有無などがあいまいな上、両側の建物と界壁を共有しており、新築建替えはハードルが高い。

オーナーが同社の手掛けた新桜川ビルを見学していたことから同社に相談が来た。現地に行ってみると1階の2店舗がそれぞれ統一感のないテントを出しているなど、メンテナンス不足は感じたものの、2階以上は階段室と一区画の賃貸オフィスでプライベート感がある。外から見ると連続窓が印象的で手を入れればなんとかなりそうという印象を受けたという。

だが、賃貸オフィスとしては難しいと判断したとコンサルティング、設計監理を担当した枇杷健一氏。

「ワンフロア64㎡弱というと数人くらいで使う感じでしょうか、でもすでに空室期間も長く、コロナ禍で在宅ワークも増えて、オフィス市場はあまりよろしくない。オフィスとしてかっこよく再生してもリーシングは難しいだろうと考え、仕事場と住まいを合体させた賃貸住宅にしようと企画しました」。

外装で手を入れたのは1階のテント庇程度。それだけで雰囲気が変わった
外装で手を入れたのは1階のテント庇程度。それだけで雰囲気が変わった

一方で1階は市内中心部の路面でもあり、店舗そのままで行けるだろうと上階の完成前から募集を開始、無事にクラフトバーガーの店舗の入居申込み、オープンに向けて進捗中。1階については外観の印象を変えるテント庇を統一感のあるものに変更し、塗装をした程度で大きな手は入れていない。

「仕事場と住まいの合体」がコンセプト

4フロアあるうちの3階、4階の改装前、改装後の間取り図。1階は従前と変わらず、2階は3階と変わらないため、省略した。3階は住居メイン、4階は仕事場メインであることがお分かりいただけよう
4フロアあるうちの3階、4階の改装前、改装後の間取り図。1階は従前と変わらず、2階は3階と変わらないため、省略した。3階は住居メイン、4階は仕事場メインであることがお分かりいただけよう

大きく変えたのは2~4階である。内容を簡単に言うと「仕事場と住まいの合体」というコンセプトでフロアに間仕切り壁、段差を作って仕事場と住まいを分け、住まい部分にはキッチンなどの水回りを新設するというもの。さらに2階、3階は賃貸住宅に用途変更し、4階は賃貸オフィスのままにしてある。

これは用途変更の範囲が200㎡を超えると建築確認申請が必要になり、手続きが面倒になるため。どのフロアも基本的には仕事場+住まいのコンセプトで改装されてはいるが、2階、3階は住宅メイン、4階はオフィスメインとすることで用途を変更、固定資産税の軽減を図ったのである。

住宅メインの2階、3階の仕事場。左に見えているのが居住スペース。段差が分かる
住宅メインの2階、3階の仕事場。左に見えているのが居住スペース。段差が分かる

改装では仕事場の部分、住まいの部分を同じフロア内で切り分けられるようにした。仕事場は土間のスラブはそのまま、天井も現しで、照明器具は蛍光灯、グレーを基調にした武骨な空間である。

居住部分はこちら。かなり雰囲気が違うことが一目で分かるはず
居住部分はこちら。かなり雰囲気が違うことが一目で分かるはず

一方の住まいは天井を貼り、真っ白な空間に。コントラストがはっきりしており、気分、雰囲気が切り替えられるようになっている。

2022_0428_0516また、トイレの位置をどちらからもアクセスできるようにしてあるのもポイント。使える既存設備等は極力活用している。

この作りには枇杷氏の昔の経験が生きている。

「20代後半で設計事務所を経営していた頃は無駄と思いながらオフィスと住宅を別々に借りていました。今も同じように2軒借りている人なら、2つの空間がある部屋があれば借りたいはず。また、今、自宅でテレワークしている人にすると来客を呼びにくい、気分が切り替えられないことを不便に思っているはず。ニーズはあると考えました」。

仕事場メインの4階の、右側が住居空間。新たに作つた壁の高いところにある窓もポイント。風、光が入り、インテリアのアクセントにも
仕事場メインの4階の、右側が住居空間。新たに作つた壁の高いところにある窓もポイント。風、光が入り、インテリアのアクセントにも

実際、内覧会時には参加者から、こういう物件をずっと探していたという声が出た。実は同社ではコロナ前にも似たような物件を作っているのだが、その時には不発。時代がようやく、同社の考えについてきたわけである。

改装では元々がオフィスでトイレしかなかったところにキッチン、洗面所、洗濯機置き場バスルーム(4階はシャワールーム)を作るという水回りの新設が課題だった。

「構造は堅牢で十分今後も持つと感じたのですが、水回りはオフィス仕様ということもあり、脆弱で水圧や水量も少ない。部屋の中に入らないと水道メーターが読めないようにもなっており、今後のメンテナンスを考えると非常に不便。そこで階段室に水道管の系統を新たに作り、室内のものは使わないことにしました」。

住宅、オフィススペースの段差は実はそのために生まれたもの。必要な段差でもあったのだ。

全額事業融資で借入、約7年で回収、表面利回りは約15%

5月1週目にリリースし、2週目の金曜日、土曜日で内覧会を開催したところ、見学者が多く集まり、そのうちから3室すべてに申し込みがあった。枇杷氏の仮説は正しかったのである。

ちなみに2階、3階の「暮らしの中で働く住まい」には、30代、40代、50代のいずれも制作や撮影を行うクリエイター系の3組が事務所兼住居として使いたいと申し込んだ。4階の「寝泊り可能な仕事場」に申し込んだのは同様の30代、WEB制作の事務所である。

屋上を使えるスペースにしたことで階段のない、でも、屋上に近い4階の価値を上げた
屋上を使えるスペースにしたことで階段のない、でも、屋上に近い4階の価値を上げた

同じ広さで、エレベーターが無い分、4階が不利なように思うが、それに対してはこれまで使われていなかった屋上を改修して、使えるようにした。

この物件にはバルコニーがないのだが、物干しを屋上に設置、喫煙スペースも屋上に作ったのである。市内中心部ながら周辺は抜けていて開放的な空間だそうで、これがすぐワンフロア上にあるなら4階も悪くないと思えるはずだ。

従前の賃料はずっと空室だったため、正確には分からないが、近隣相場以下で募集しても埋まらなかったとか。現在は2階、3階は10万7000円に共益費が5000円、4階が11万5000円で、共益費が5000円に消費税となっている。

オーナーは今回の計画について全額を事業融資として銀行から借り入れており、事業は10年計画で設定。約7年で回収を終え、残り約3年は収益期間となり、表面利回りは約15%と枇杷氏。だが、本当はもっと良い事業計画だったとも。

「改装工事が進み、少しずつ建物がきれいになってくるとオーナーの目線では工事対象外部分の古さが気になり始め、追加工事が増えてしまうことはよくあることです(笑)。本件でも追加工事をいくつか実施、当初約6年で回収の予定が結果的に約7年で回収ということになりました。愛着が涌くという点では良いことなので一概に否定はできないのですが」。

ドア、階段などは古さをそのままに、サインなどで新しさをプラス
ドア、階段などは古さをそのままに、サインなどで新しさをプラス

建物が変化していく過程を見ていると愛着が涌く一方で、大事なことはやり過ぎないことだと枇杷氏。

「古さを刷新したことが賃料に反映できる部分に投資することは重要ですが、単にきれいにすることにはあまり意味を感じません。やり過ぎない、きれいにし過ぎないこともストックの魅力を活かすためには大事なポイントです。古さを無かったことにして新築と競い合う方向に進むことはリノベーションではマイナスになることが多いと個人的には感じています」。

競争力のない古ビルは複合用途での改装を

最後に現在のオフィスビル市況について。今回のビルは1フロア63.47㎡。築年数や設備面を鑑みて、この広さは微妙だとリーシングに当たった山田輝氏。

「通勤する人が減った結果、もっと小さい20~30㎡のオフィスに移る動きや、自宅で作業していた人がやはり作業場が欲しいと15㎡、20㎡ほどのオフィスを借りる例はありますし、一方で数人規模に最適な60㎡前後の需要が下降傾向というのが現状の肌感覚です」。

また、古いビルでセキュリティに不安がある、エレベーターがない、エントランスの印象が悪いとなるとオフィスとしては借りられなくなる。

住宅の場合なら来客があるわけでなし、エントランスは気にしないという人もいるが、オフィスは会社の顔である。来客が多い会社だと階段で4階までというのはハードルが高い。もちろん、社員にも受けないだろう。

だが、こうしたビルは市場に多数ある。新しいところと競合すると負けるため、投資もされず、借り手もつかずと放置されがちだが、今回、これまでにないニーズがあることが分かった。

枇杷氏は表層的にきれいにするだけが解決策ではないという。

「使い方を変える、ユーザー層を変えることで入居者は見つけられます。特に3区画、4区画くらいなら入居者を見つけるのはそれほど難しくはありません。コロナ禍でニーズは高まっているにも関わらず、まだほとんど作られておらず、同様の商品は探しても出てこないからです。だとしたら、今はチャンスかもしれません」。

中途半端なサイズのオフィスビルの空室に悩んでいるのであれば、新しい使い方にチャレンジ。満室を目指してみてはいかがだろう。

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健美家編集部(協力:中川寛子(なかがわひろこ))

中川寛子

株式会社東京情報堂

■ 主な経歴

住まいと街の解説者。40年近く不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービス、空き家、まちづくり、地方創生その他まちをテーマにした取材、原稿が多い。
宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。

■ 主な著書

  • 「ど素人が始める不動産投資の本」(翔泳社)
  • 「この街に住んではいけない」(マガジンハウス)
  • 「解決!空き家問題」「東京格差 浮かぶ街、沈む街」(ちくま新書)
  • 「空き家再生でみんなが稼げる地元をつくる がもよんモデルの秘密」(学芸出版)など。

※ 記事の内容は執筆時点での情報を基にしています。投資等のご判断は各個人の責任でお願いします。

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