
一住戸の中に土間仕上げのフレキシブルに使える空間と居室がセットになった、新しい形の賃貸住宅が誕生した。
元々は東京メトロの宿泊所で休憩室と宿泊室がセットになっているという珍しい作りで、それをリノベーション。今の時代にふさわしい、使う人が使い方を考えられる物件として再生された。
バッファのある、住み手が好きに使える空間を
このところ、住宅に住む以外の機能が求められるようになっている。コロナ禍で自宅で働く人が増え、オフィス機能が求められているのは広く知られている通り。
加えて副業・複業可の流れを受けて作業場、ギャラリー、小商い、教室などに使える場を求める声もあり、また一方で住宅内で体を動かしたり、趣味を深めたいというニーズもある。
そうした様々なニーズに応えられそうなのが代々木上原に誕生したメトロステージ代々木上原(企画・プロデュース/株式会社リビタ、所有者/東京地下鉄株式会社)である。
これは東京メトロの宿泊所をリノベーションしたもので、もともとは休憩室と宿泊室がセットになったユニットが3セットと共用トイレ、管理人室、倉庫があった建物。
従来の間取りそのままでは3部屋しか取れず、無駄な空間が生まれるし、壁を撤去して新たな間取りを考えるとすると休憩室と宿泊室の間のRC造の構造壁が邪魔になる。取り壊すとなると構造的な検証、補強が必要になるのだ。
既存建物にはない水回りを各戸に設ける必要もあり……とリノベーションはかなり大変だったと推察するが、最終的に生まれたのは土間のフレキシブルに使える空間と居室がセットになった住戸5戸。
同物件では前者の空間をBUFFER(従来からの意味でいえば緩衝装置などを指すが、最近ではコンピュータが即座に処理しきれないデータを一時的に保存しておくための記憶領域を指す意があり、そこからいざという時のためのゆとり、余裕などを指すことも。この場合には余白空間と取ると分かりやすい)と呼んでおり、言ってみれば住む人が好きなように使える空間。
バッファとなる休憩室と宿泊室の繋がりをそのまま生かした住戸のほかに、以前の管理人室と廊下を介して向かい合う共用トイレをバッファとして利用した住戸などもあり、広さ、想定される使い方などは各戸それぞれである。
個性的な間取りが5タイプ
いくつか、使い方を考えながら部屋を見ていこう。

1階には居室とは廊下を挟んで10uほどの土間空間がある部屋がある。居室とは離れた別空間なのでコンパクトながら仕事場、作業場、アトリエなどのほか、子ども部屋、趣味スペースなどなんとでも使える。贅沢に収納部屋にするという手もあろう。

1階の他の2室はそれぞれ18〜19u強と広い土間空間があり、こちらは自分のオフィスにするほか、2〜3人と一緒に作業をしたり、会議をしたり、教室などとしても使えそう。来客が多い人なら接客スペース、ダイニングスペースとしても使える。

こちらの2室はバッファゾーンへの入口がガラス扉になっており、使われ方が垣間見えるようになっているのも面白いところ。どんな人が住んでいるのか、入居者が互いを知るよすがとなろう。
2階には入ったところが土間になっており、そこに面してカウンターのある大きなキッチンスペースがある部屋がある。見た途端に想起したのは料理教室。土間スペースを教室としてその前のキッチンでレクチャーすると考えると実に自然だ。
想定される使い方に合わせて水回りを配置

どの部屋もこう使ったら、あるいはこうも使えるなということが入った途端に人それぞれにイメージできるのが面白いところ。そして、よくよく間取りを見ると、そうした使い方を想定、トイレなどが配されている。
たとえば2階の料理教室をイメージした部屋ではトイレは土間側に扉が設けられており、来訪者に使いやすい配置である。

1階の作業、会議などで来訪者が想定できる間取りでは居室の、バッファ空間に近いところにトイレ、キッチンが設けられており、来訪者などにも利用しやすい配置。居室内の寝室部分はそこから見えにくく、囲われるように作られてもいる。


平面図を見るとまるでパズルのようだが、なるほど、こういう作り方があり得るのかという意味で参考になる。今後、既存建物を改装する時には立地によるが、居室のみならず、プラスαのある住戸を作ってみても面白いかもしれない。
追記:9月の頭に取材をさせていただき、その後、10月末近くに物件担当者とたまたまお目にかかる機会があった。聞くと1カ月ほどで全戸入居が決まったそうである。ニーズは確実にある。
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健美家編集部(協力:
(なかがわひろこ))