• 完全無料の健美家の売却査定で、できるだけ速く・高く売却

×

  • 収益物件掲載募集
  • 不動産投資セミナー掲載募集

大家負担でリノベし、入居者の理想の住まい。「自分好み賃貸」で家賃1万6000円アップも乗り越えた課題【後編】

賃貸経営/リノベ・修繕 ニュース

2024/05/22 配信

関西地方に暮らす二代目大家の神吉(かんき)優美さんは、2019年から大家の費用負担で、入居希望者の理想の住空間を作り上げる「自分好み賃貸」を始めたことで入居率を78%まで改善させた。

昨日の前編では、入居率50%を切った築50年マンションの空室対策として「自分好み賃貸」を取り入れるまでのいきさつを紹介した。

後編では、実際のリノベーション工程と、神吉さんが大家の立場で予算と安全面をどのように考え、入居希望者の要望と向き合ってきたのか。これまでのトライ&エラーをもとに紹介していく。

部屋を縦半分で割り、水回り関係を片側に集めた個性的な部屋。もう片側にリビング、ベッドスペースがある。設計関係の仕事をする入居者が自らCADで図面化したものを、大家側の専門家チームが手直しし、実現させた

入居申し込み後、10万円の設計委託契約(後に初期費用へ充当)を始めた背景

改修前の住戸の間取り。約39㎡の3K。「自分好み賃貸」では入居希望者1人1人の好みを聞いてプランニングし、フルリノベーションする

ここで「自分好み賃貸」のプロセスについて紹介したい。(参照:「人と不動産」サイト)

1)入居申し込み

神吉さんとプロジェクトを一緒に行う不動産会社「人と不動産」のウェブサイトや大阪デザイナーズマンション専門サイト「極」で施工事例を見つけ、問い合わせや申し込みをしてくる入居者が多いという。

2)家賃債務保証会社の審査を受けてもらう

3)入居者と専門家を交えた現地打ち合わせ

神吉さん、不動産会社社長の小上馬さん、設計士、神吉さんの会社の大工、作業を補助する大工の妻らで構成する専門家チームを交えて、入居希望者のライフスタイルや要望を聞き取りする。

他の部屋の施工事例からイメージを膨らませる入居希望者も多く、希望に合わせ設計士が簡単な図面を引いていく。神吉さんは大家の立場から予算的に可能かどうか、大工は工事が可能かどうかを判断していく。

グループLINEを作り、打ち合わせをもとに設計士が数日以内に修正した図面を全参加者と共有。

LINEでやりとりしながらプランを固めていく。

4)設計の委託契約を結ぶ→入居希望者は10万円を支払う

希望のどおりの平面図ができた時点で設計委託契約を結び、入居希望者は10万円を支払う。その後、設計士が詳細平面図・電気配線図・展開図等工事に必要な書類図面を作成する。賃貸借契約時には初期費用からこの10万円を差し引く。

5)プラン・内装の最終確認打ち合わせ

入居希望者と設計士ら専門家チームがプランの最終確認を行う。壁紙、床材、塗装の色もこの時に決定する。

6)賃貸借契約を締結

間取りや設備の仕様が決まった後に契約。10万円の設計委託費用はこのとき礼金などの初期費用と相殺する。

7)工事期間 約3か月

神吉さんの会社の大工らが解体、フルリノベーション工事を行う。

8)完成引き渡し

これらが一連のプロセスとなる。とりわけよくできた仕組みだと感じたのは、入居希望者が10万円を支払い、設計委託契約を結ぶという工程だ。

「自分好み賃貸を始めて4戸目の入居申し込みをされた方だったと思います。設計士の図面が仕上がった後で初期費用が払えないと入居キャンセルとなったことがありました。

初期費用が払えず、今後の賃料の支払いができるかも分からない方の要望を汲み取って専門家に動いてもらったわけですから、やり切れない思いでした。

図面を作成された設計士さんには私から設計料をお支払いしました。小上馬さんと話し、以降は設計委託費として10万円を先にいただき、後で初期費用に充当する方法を取るようにしました」

膨らむ入居者の要望。個人の趣味のものは入居者が購入→大工取り付けで決着

クローゼット機能を玄関に集約した部屋。外で身につけていた衣服を玄関で着脱。花粉症や感染症対策にも良さそうだ

そのほかにも、専門家と共に入居希望者の要望を汲み取る過程において、なるほどと考えさせられることは多い。

「大家としては入居希望者の要望にできる限り応えたいと思っていますが、退去後の入居募集のことや安全面を考え冷静に判断する必要があると考えます」

たとえば、畳の小上がりを造作し、下に開閉式の収納をつくって欲しいとの要望があった際の対応だ。

「入居希望者は、材料費はそれほどかからないからと話をされたのですが、家具職人でもない当社の大工が人が上に乗る家具を造った場合の安全面を考えてお断りしました。

それに材料費がかからないとしても、開閉式の収納のついた小上がりを造作するとなれば、大工が何日かけて作るのかという話になります。大家の立場からできないことについては理由を含めて話しをし、本人に了承してもらうようにしました」

ほか、個人の趣味と考えらえるものについては、入居希望者に現物を用意してもらい、大工が設置するようにした。

これまでに「サーフボードを壁にかけるためのスタンドを設置して欲しい」「ハンモックを吊るしたい」といった要望があったといい、なかには「ペンキはこのメーカーのこの色でないと嫌」といったこだわりを持つ入居希望者もいた。最近は特にアメリカンスイッチを取り付けたいと希望する人が多いという。

これらの材料は入居希望者に購入してもらい、神吉さんの会社の大工が取り付けている。

「自分好み賃貸」と聞いて、どんな要望も叶えてもらえると期待が膨らむ入居希望者に対し、予算、工期、工事を行う大工の労力を考え、できること、できないことの判断を下すのは大家の仕事だ。

初期の頃には、入居希望者からの要望で彫金用のテーブル(半円状にへこんだ作業台)を造作したものの仕事の都合から1年で退去となったケースもあった。次の入居募集時には、入居者層を狭めてしまうことからやむをえずこの彫金制作用のテーブルは撤去することになったという。

このようにお金と手間をかけて入居者好みにカスタマイズしたものの、残念ながら長期入居に結びつかなかったケースもあったのは事実だ。

こうしたトライ&エラーを重ねる中で、前出のように個人の趣味のものについては入居者に購入してもらうよう変えていった。

工期についても調整を重ねている。

当初は2か月の工期で間取り変更を含むフルリノベーション工事をしていたが、神吉さんの会社所有の他の物件の修繕が入ることもあるので、大工が日曜日も「自分好み賃貸」の現場に入り入居日に間に合わせることもあったそうだ。そのため大工の負担が大きくならないように、入居予定日から逆算し3か月の工期を確保するようにした。

玄関を入ってすぐの土間にアイランドキッチンのある部屋。料理人である入居者からの希望だった。写真正面の棚は大工が造作した
写真上下。入居後の部屋の写真。私物を入れると部屋の印象はさらに変わる。カフェのようなおしゃれな空間へ

1戸あたりのリノベーションにかかる大家の負担金額は、改修のための材料費と、大工らの人件費となる。

プロジェクトを始めた5年前は1住戸あたりの材料費は外部委託のユニットバス設置費やガス工事代などを含めて150万円程度だったが、その後の資材高騰で200万円程度にまで上がった。そこに神吉さんの会社の専属大工らの人件費が加わるという。

こうした取り組みができるのも、無借金だからということに尽きるだろう。神吉さんの父が所有するすべての賃貸物件での銀行返済は終わっており、「自分好み賃貸」プロジェクトにおいても借入はない。

父が残した複数の借家からの家賃というスケールメリットがプロジェクトを進める上でプラスに働いたことは間違いない。

コモンリビングを設け多世代&国境を越えたコミュニティ形成

2024年からは、マンションのコモンリビングを地域の子どもたちの居場所にと活用

2019年から「自分好み賃貸」を始めたことで神吉さんのマンションには、50年近く暮らす高齢の入居者、ベトナム人技能実習生、「自分好み賃貸」で入居した若者などバラエティに富んだ住人が暮らす。

「彼らがつながるともっと面白いマンションになるのではないかと考え、2020年には空室を利用した新年会を企画しました。全戸の郵便受けにチラシを入れ、出会った人には直接声をかけました」

地域の民生委員、市役所、社会福祉協議会のスタッフらも加わり、43人での賑やかな新年会が開催された。その後、退去して空いた1階の1戸をリノベーションし、コミュニケーションの場としてコモンリビングを設けた。

今年(2024年)4月からは、このコモンリビングで小中学生向けの学習支援「宿題ひろば 学びの船」を始めた。子どもも保護者も希望者は無償での参加が可能だ。

「困っている子どもをサポートしたいとずっと思ってきました。うまくいくかどうか分からないけど、まずは一歩踏み出してやってみることにしました」と、学習支援を始めた思いを神吉さんは語る。

「父親の残したこの築50年マンションで、子どもからお年寄り、そして外国人といった多様な入居者と地域の人を巻き込んだコミュニティを形成していきたい」と神吉さん。今日もほうきを片手に共用部を掃除しながら、新たな物件活用に取り組んでいる。

執筆:スドウミキ(すどうみき)

スドウミキ

■ 主な経歴

出版業界で20年勤務。不動産分野を専門とする雑誌での取材・編集をきっかけにサラリーマン大家の夫と出会い結婚。2022年宅地建物取引士の資格を取得。夫の勧めで法人を設立し、築古アパート1棟を購入する。1歳の子どもを持つ一児の母。

※ 記事の内容は執筆時点での情報を基にしています。投資等のご判断は各個人の責任でお願いします。

アクセスランキング

  • 今日
  • 週間
  • 月間

不動産投資ニュースのライターさんを募集します。詳しくはこちら


ニュースリリースについて

編集部宛てのニュースリリースは、以下のメールアドレスで受け付けています。
press@kenbiya.com
※ 送付いただいたニュースリリースに関しては、取材や掲載を保証するものではございません。あらかじめご了承ください。

最新の不動産投資ニュース

ページの
トップへ