個室以外のリビングやキッチン、お風呂などを共有し、他の入居者と共有する「シェアハウス」。
その居住スタイルは一般化し、都市部を中心に珍しくない。個人、法人とも参入者も増え、少人数がまるで学生寮に暮らす様なスタイル、あるいは個室にほぼすべての設備が揃い、コミュニケーション目的のスペースを用意するホテルライクなスタイルなど、多様性に富んでいる。
いまは、投資家向けに新築シェアハウスを用地探しから建築、運営までをワンストップサービスで提供する事業者もいるほどだ。
「シェアハウスは入居者にとって、同じ様な広さの部屋に住むより家賃が安くなったり、運営者にとっても各部屋にお風呂やキッチンを用意する必要がなく設備面で費用を下げられる、大人数の入居者がいることで高利回りが期待できるなど、両者にとってメリットのある住まいのカタチです」
こう話すのは、神奈川県の横浜・湘南エリアでシェアハウスや一棟アパート、区分マンションを運営する、オモローズ不動産研究所の代表、青山幸成氏だ。
2011年に横浜市で古民家を購入したことをきっかけに、当時はまだ珍しかった共同住宅スタイルの運営方法を選んだ。
「もともと2世帯住宅の10LDK級、家族向けには広すぎる家で、どう活用するか考えていたところピンときたのが当時流行し始めたシェアハウスでした。リノベして個室を作り満室にすれば、効率よく回せると考えました」
いまや、都心で区分マンションや1棟物件を持ったとしても、利回りは3~4%といったところ。
しかしながら、青山氏の場合、総投資額3億7000万円に対して年間家賃収入は5000万円超、投資全体の利回りは約15%、そのうち古民家シェアでは20%超、新築でも10~12%の水準だという。
「私のように業者に任せず、自主管理すれば手間はかかるものの利回りは良くなります。通常の不動産投資と異なるノウハウは必要ですが、当時、お任せしたいと思える管理会社もなく、ならばと自分で運営することにしました。
もともと人好きなせいか運営自体も楽しみながら現在は6棟にまで増えました。運営の知識を学んだ元入居者がのれん分けして独立し、同じく湘南エリアでシェアハウスを経営していますが、姉妹シェアハウスとして緩やかに連携して一大グループを形成しています」
シェアハウス最大の難関は「寄宿舎」の要件を満たすこと
投資的な観点でも魅力的に映るシェアハウスだが、いざ自分が始めるとしたら、何に注意すべきだろうか。
先述のようにシェアハウスに特化した事業者から買う場合は問題なさそうだが、そうでない場合は…? 青山氏に尋ねてみたところ「企業秘密もありますが…(笑)、基本的な考え方をお伝えします」と、いくつかノウハウを教えてくれることに。
「シェアハウスは建築基準法上『寄宿舎』に分類されるので、新築にするなら、この要件を満たす土地を仕入れないといけません。都内は規制緩和されて接道間口2mの旗竿地でも建築できる場合もでてきましたが、全国的には接道3m、4m以上必要など建物規模に応じて制限があるので注意が必要です。
他にも、避難動線の見地から一定の敷地内通路幅が必要で、それを満たすと十分な大きさの建物が建てられず当初計画が破綻するなんてこともあります」。
初心者は見落としがちらしく、事前にシェアハウスプロデュース会社や設計士など詳しい人に確認することが大切なようだ。
また、アパートの新築等と一緒で、融資を利用する場合は評価の低い土地では融資額が伸びないということも。受ける際の条件として「評価の高い土地」を探すのもポイントだとか。
「つまりは、割安な土地、広くて安い土地です。路線価から評価を算出してテーブルに載るのか確認の上で銀行へ持ち込むなどしています」
立地や環境も考えたい。青山氏の場合、シェアハウスの供給が増え、一方で人口減少のトレンドを考慮し、中長期的に需要が見込める立地、環境であることを重視している。
「基本的に駅から徒歩10分以内。個人的な好みになりますが、湘南エリアであれば海のそば、高台、敷地・庭が広い物件につい目が向きますね。建物・設備についても通常の賃貸住宅にはなかなかない、遊んだデザインにしています」
また、屋内のインテリアもセカンドハンドやアンティークショップなどで、リーズナブルだが1点モノの可愛いアイテムを自身で選ぶそうだ。「シェアハウスなのでどうしても汚れたり壊れたりします。その際に自分がガッカリしない程度の価格帯のモノ(笑)」というのがポイントだそうだ。
中古住宅をシェアハウスとして使うには、いくつもハードルを越える必要が!
現在の建築基準法上、シェアハウスは寄宿舎の要件を満たす必要がある = 既存の住宅をそのままシェアハウスに転用することはできない。中古物件で始める際は、以下の点に注意することだ。
A、100㎡を超えない物件:<寄宿舎>の基準にあわせたリフォームをしないといけない
B、100㎡を超える物件:<寄宿舎>に用途変更しないといけない
「第一に設計士などと協議して、合法的にシェアハウスとして運用できる物件なのかどうかを精査すること。最近では寄宿舎の要件を満たさないと銀行がそもそも融資を出しませんから『シェアハウス事業を始める』という内容で相談する時は、それを証明する必要があります」
そう考えると、中古物件を買って転用するよりも、新築の方がハードルは低く、最近の事業者は最初から融資可能な新築にシフトしているそうだ。または、以下のような状況になっている。
A、知ってか知らずか寄宿舎要件を無視してシェアハウスを運営している
B、行政の指導のもとに寄宿舎要件を満たしてリフォームして運営している
言わずもがな、Aに該当すると「脱法ハウス」として捉えられ、行政の査察等が入ると指導を受けることになる。法律に基づいた運用を心がけるべきだ。
では、中古住宅をシェアハウスにリノベーションする場合は、具体的にどうすればいいのだろうか。
青山氏は基本的なスタンスとして、「こればかりは、設計士を入れて行政と協議しながら進めること。ある程度知識があるなら直接協議してもいいでしょう」とアドバイスする。
一方で、100㎡を超える物件で用途変更が必要になると、かなりハードルが高くなるという。
「耐震性能や耐火性能、防災基準など、一般住宅より基準が高く、建築当時の設計図書がないとクリアできない(しにくい)こともあり、それこそ素人では対応が難しいです」
なお、RCや鉄骨造りは耐震性能について設計図書をなくして後から証明するのは難しく、木造の方がまだハードルは低い。3階建ても要求基準が厳しくなるので2階以下の方が無難だそうだ。
次回(1月4日掲載)の【後編】に続く
■取材協力
青山幸成(あおやま・こうせい)氏Facebook:http://www.facebook.com/kosei.aoyama
健美家編集部(協力:大正谷成晴)