総務省の発表によれば、2018年10月の段階で日本の空き家は846万戸。13年度の調査から26万戸が増加し過去最高を更新し、その数は今後も増加すると言われている。こうした空き家を収益が出る形で活用することはできないのだろうか?
民泊やレンタルスペースへの転用といった事例も出てきているが、シェアハウスも有効な活用事例の1つである。
小田急線「祖師ヶ谷大蔵駅」から徒歩約6分、築30年の一軒家もその1つ。コンセプトシェアハウスとして活用される物件だ。
3階建て・6LDKの木造住宅の内、5部屋を賃貸個室とし、 15畳のLDKと4畳半の和室・バスなどは共用スペースとなる。建物自体、間取りの変更工事はなく、基本的には断捨離、クリーニングにエアコン設置や防音対策など最低限のリフォームを実施。そこに、コンセプトシェアハウスのための投資も行い、以下の家賃収入を実現している。
●本体工事費:220万円
●リフォーム総額(設備含む):660万円
●延床面積:148.7m2
●家賃:28万円/1カ月(1室50,000~65,000円の家賃設定)
オーナーからの相談に対し、この物件をシェアハウスへと提案し、現在管理の委託を受けるオンコの田中宗樹氏は、5LDK以上の物件であれば、まるごと1棟賃貸に出すよりシェアハウスとして活用する方がニーズもあり収益性も安定する可能性が高いという。
少子化と核家族化が進む中で、なかなか5LDK以上の物件はニーズがない。しかも築年数が経っていれば、借り手がつかず近隣の家賃相場から低めに設定せざるを得なくなる。
その点、シェアハウスであれば、個室ごとの契約で空き室リスクを下げ、全室賃貸契約が結べれば、1棟まるごとよりも結果として月の家賃収入をアップさせることができるというわけだ。
「祖師谷の物件であれば、1棟まるごと賃貸とした際の家賃相場は21万円程度。そもそも借り手探しが難航しがちですし、ニーズがなければ家賃を下げていかなければなりません。シェアハウスの場合、全戸での家賃は28万円。実際にこの物件ではオープン1週間で全室入居者が決まる人気ぶりでした。現状1室だけ空室がありますが空室リスクもシビアにはなりません」(田中氏)
・狙うはコンセプトシェアハウス
ただし、個室の空き室リスクをなくすには、やみくもにシェアハウスをうたえばいいというわけではない。そこにはコンセプトが重要になってくる。同社が提案しているのは、ペット共生型というコンセプトだ。紹介した祖師谷の一軒家の例も犬猫のペット可の物件。シェアハウスの特長とペットの飼い主のニーズは親和性が高いそうだ。
シェアハウスというのは、共有スペースでのコミュニケーションが1つの魅力とされるが、ペットを飼う者同士という同じ嗜好がより、家族のような共同意識を生みやすい。
また、単身者がペットを飼育する場合、家を留守にする際の不安が大きいが、こうしたシェアハウスであれば急用時や出張などの場合にも、飼育を入居者にお願いできるなど共助のメリットが出やすい。
さらに、ペットを飼っている人は、散歩がしやすい環境を求めることから、郊外の物件でもニーズが出てくるのが特徴だ。
シェアハウスと言うと、安い賃料が一番のメリットとして若年層の入居者が集まるイメージがある。入居者は低所得層が多く、定着率も低いと考えられがちだが、こうしたコンセプトシェアハウスでは、必ずしも当てはまらない。
同社では現在20棟のペット共生シェアハウスの提案・運営を行ってきたが、入居者の平均年齢は32.5歳と高め。学生だけではなく、40代のビジネスパーソンなどの入居も多い。シェアハウスの居住期間は、1年未満が46.5%(※1)に上るほど定着率が低いが、同社では平均しても2年弱の居住期間となる。
シェアハウスでの失敗というと、「かぼちゃの馬車」事件が記憶に新しいが、同じシェアハウスといっても様相はかなり異なる。「かぼちゃの馬車」が打ち出したのは女性専用のシェアハウスで、家賃は管理費を含めて4万円程度。家賃の安さを前面に押し出したが、共有部にリビングのようなくつろげるスペースは作っておらず、個室もほとんどが5畳未満。共生が1つのメリットであるシェアハウスの魅力を備えておらず、空室を多くかかえる結果となってしまった。
ペット共生型シェアハウスでは共有スペースを広めに確保する。それができる間取りかどうかもシェアハウスとして適しているかどうか判断する1つのポイントだ。
※1国土交通省「貸しルームにおける入居実態等に関する調査」(平成25年度調査)
・ペット型シェアハウスには「電子錠」と「ゴミBOX」は必須
既存物件をシェアハウスにするには、もちろんリフォーム時に設備投資も必要になる。田中氏によれば、「電子錠」と「ゴミBOX」の設置は必須としているという。
電子錠は、ペット共生型シェアハウスという場で共生とプライバシーの両立を図る上で利便性が高い。自身のペットの世話を誰かにしてもらう際には、時に自室に入ってもらう必要がある。電子錠であれば、その時に開錠のナンバーを教えたとしてもすぐに変更が可能であり、フレキシブルなセキュリティを確保できる。また、入居者の利便性、近隣住宅とのトラブルを避けるためにも、ゴミBOXは必須の設備投資と同社では考えている。
もちろん、リフォーム時にはそのほかにも工夫も必要だ。居室内にキャットウォ―クなどを設置するのはもちろんのこと、玄関にペットシンクを置いたり、ニオイ対策として床材や壁紙には消臭効果のあるものを採用する。また、ペットのしつけには個人差があるため、入居者同士がトラブルにならないよう運営上のノウハウも必要だ。
同社では、こうした施工や運営上のノウハウを蓄積し、シェアハウスの運営を手掛けるほか、ゆくゆくはフランチャイズ形式に似た形でオーナーが直接物件管理を手掛けられる「パートナーシステム」も用意。スタッフの各種研修とマニュアル提供、開業時のパンフレットや管理運営帳票類の作成指導と活動指導などが行われる。
ただし、加盟金が100万円とまとまった金額となるため、複数物件の運営を視野に入れた際の利用が望ましいだろう。
健美家編集部(協力:福島朋子)