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風呂無しアパートか、銭湯付きアパートか。高円寺・小杉湯の逆転の発想とは?

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2020/08/17 配信

登録有形文化財に答申されたほどの歴史ある建物
登録有形文化財に答申されたほどの歴史ある建物(写真提供/小杉湯。以下すべて)

杉並区高円寺に1933年創業、87年の歴史をもつ小杉湯という銭湯がある。この3年ほどの間に何度かテレビ、雑誌やWebメディアにも登場しているから、聞いたことがあるという人もいるだろう。現在は20代で住宅メーカーに勤務、30代で人材関連の会社を創業したという経験を持つ平松佑介氏が三代目として経営に当たっている。

名称はごくシンプルに「小杉湯となり」。こうしたセンスも面白い
名称はごくシンプルに「小杉湯となり」。こうしたセンスも面白い

その小杉湯の隣に2020年春、「小杉湯となり」という3階建ての複合施設が誕生した。以前は老朽化した木造アパートがあり、当初は1階にカフェを併設したコインランドリーのある住宅への建替えが想定されていた。

3層の窓、開口部のたくさんある風が抜ける建物である
3層の窓、開口部のたくさんある風が抜ける建物である

だが、取壊し前の木造アパートを利用、1年間かけて銭湯のある暮らしの意味を考えるプロジェクト「銭湯ぐらし」を経て、最終的に完成したのは住宅ではなかった。1階に食堂のような空間、2階に畳のある寛ぎの場であり、仕事もできる空間、そして3階にコンパクトな住居という複合施設だったのである。

1階。奥にキッチンがあり、こちらは入口側を見たところ
1階。奥にキッチンがあり、こちらは入口側を見たところ

竣工時には銭湯利用者、会員が利用できる場所としての利用が考えられていたが、コロナ禍で不特定多数が使う場としては難しいということになり、最終的には会員制の「銭湯付きのセカンドハウス」として使われることに。2万円の月会費を払うと、小杉湯と「小杉湯となり」を使い放題になるというものである。

2階の書斎的な空間。書棚なども置かれており、窓からは隣にある銭湯も見える
2階の書斎的な空間。書棚なども置かれており、窓からは隣にある銭湯も見える

5月にWeb上で告知が行われ、なんと70人ほどが内見を希望。最終的にはそのうちの50人ほどが会員となった。会員になった人はたとえば昼間は「小杉湯となり」の2階でリモートワークをし、夕方に小杉湯でひと風呂浴びて1階でご飯を食べて、といった暮らしができる。利用は朝9時から夜の22時まで。全員が同じ時間に集中することはなく、また週に1回程度の利用者もいることから、それほど混雑することはない。

面白いのは、これが可能になるのであれば自分の部屋にすべての機能を求めなくても良くなるということ。普通は多少賃料が高くなっても風呂、キッチンのある部屋を借りようと考えるが、定額(今どきの言葉でいえばサブスクリプションサービス)で風呂、食事が利用できるなら我が家にはその機能は無くても良いとも考えられる。

中央線沿線のように昔から学生、単身者が多く住んできたまちにはいまだに古い風呂無しアパートがあるが、小杉湯が近くにあれば、風呂無しアパートは銭湯付きアパートとなるのである。単身者向けの狭いユニットバスと銭湯の大きな風呂で考えれば、風呂無しアパート+銭湯のほうが豊かな生活が送れる気もする。

また、面白いことに銭湯には平松氏いうところの「サイレントコミュニケーション」がある。熱心に会話するほどではないものの、顔を見たことがある、会釈をする程度という関係だが、初めての土地で一人暮らしあるいは家族以外に知る人のない土地に暮らす人には、そうした関係が支えになる。小杉湯に通うようになって精神的に救われたという人が少なくないのはそのためだ。

そのうちには小杉湯の近くに住みたいと引っ越してくる人もいる。「小杉湯となり」を運営する銭湯ぐらしではいずれは不動産を手がけることも考えているそうで、地元を、銭湯のある暮らしを知り尽くした人が仲介に当たれれば、風呂無しアパート以外でも住む人が満足できる住まいを提供できるはずである。

また、小杉湯の活動に共感をした地元の人のうちには空いている不動産を「小杉湯となり」のような形で活用することを希望する例も出ている。銭湯という、一見不動産とは関係のない場がまちを、周辺の不動産を動かしつつあるのである。

この例からいくつか考えられることがある。ひとつはこれから不動産を借りる、買う人は不動産以外の入り口から入ってくることがありうるということ。小杉湯の例は銭湯だが、それ以外の趣味や生活の興味関心からの入り口もありうるはずで、いずれ記事でも紹介する予定だが、インテリアショップが不動産会社と組んで物件の案内をしている例も出てきている。

もうひとつはまちにある魅力、まちの魅力が不動産に大きな影響力を持つということ。ここしばらく言われて来たことであるが、まちが魅力的でなければ、そこにある不動産の価値は維持、向上しないのである。

とすれば不動産所有者はまちをもっと見なくてはいけないし、魅力を育てている人たちに協力する必要もあろう。さらに自分の物件の、不動産会社的な視点以外の魅力、入口を見つける努力、作る努力も必要ではなかろうか。

ちなみに小杉湯の動きについて不動産所有者の勉強会で話をしたことがあるが、その時、銭湯と組みたいと考えているという声を聞いた。場所によっては利用者が減っていることもあるが、銭湯は昔から地域の人が集まる場所にあり、地域の歴史を知っている空間。うまく連携できれば不動産にも良い影響があるはずである。

健美家編集部(協力:中川寛子)

※ 記事の内容は執筆時点での情報を基にしています。投資等のご判断は各個人の責任でお願いします。

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