海外では家具・家電付の賃貸住宅は一般的だが、日本では単身赴任、長期出張者などを対象にした、比較的高額なサービスアパートメントというジャンルはあるものの、それほどメジャーとは言い難い。
学生寮なども家具・家電付だが、これもそれほど多いものではない。つまり、家具付は日本では少数派になるわけだ。
その少数派である家具付を売りにしているのが株式会社デモクラシ。である。カスタムアパートメントという自社ブランドに加え、他社物件の企画などで住宅プラスアルファの物件を出しており、人気も上々。どこに新味があるのか、聞いて来た。
ちょっといい家電、家具やスーツケースなどを借り放題

取材にお邪魔したのは小田急線・JR南武線の交差する川崎市登戸。駅から歩いて5分、多摩川沿いにあるカスタムアパートメント多摩川だ。1階にカフェが入っており、その一画にはアイロンや掃除機などの家電類などが置かれている。

賃貸住宅は2階以降に8戸あり、取材に訪れた2020年12月頭の時点では空きは1戸のみ。専有面積は15u台で賃料は7万円台。管理費は6000円で、相場からするとかなり強気な設定である。

同物件では室内にベッド、冷蔵庫、洗濯機、エアコンが備え付けられており、それ以外の照明、椅子その他の家具や家電製品、スーツケースやダンベル、ヨガマットなど様々な品を借り放題で使える。
しかも、品を見てみるとバルミューダの家電、リモアのスーツケース、ダイソンの掃除機など憧れではあるが、自分で買うにはちょっと手が出にくいブランドで揃えてある。
ハウスメーカーに30年勤務後、独立したデモクラシ。の佐野章氏は日本の家具・家電付賃貸住宅はつまらないという。
「海外では部屋ごとに個性があって、もっと面白い。日本ではとりあえず、使えるものが置いてあればよいという程度で、置かれているものの差別化ができていません。でも、ここでは憧れのブランドの商品などを置き、入居者間でモノをシェアする。たとえば単身者はいつもアイロンを使うわけではありませんから、所有する必要はない。そんな品を週に一度借りて使い、部屋に置かないようにすれば部屋はいつもすっきりです」。

1階のカフェに置かれている椅子、ソファなども利用可能で、その時々に好きなものを借りてインテリアを楽しむということもできる。部屋自体は15u台と広いとは言い難いが、モノを持たなければ広く使える。
また、入居者は1階のカフェを半額で使える。朝昼晩と終日使えるので、ここを我が家のキッチン、ダイニングと考えれば、これまた部屋は広く使える。今なら仕事場としても使うのも手だ。
「東京では49%の世帯が単身者とか。その人たち向けにコンパクト、でもプレミアムな住まいができないかと考えたら、こういう形になりました」。
家具・家電類についてはオープン時に100万円ほどの予算で購入、その後、毎年20万円分くらいを少しずつ入れ替えているという。
水回りを圧縮、限られた面積を広く

貸出用にブランド品を揃える一方で室内の限られたスペースを無駄なく使う工夫もある。たとえば水回り。スペースを節約しようとした場合、一般にはシャワーブースを入れる。
だが、同社物件の場合はよくあるバスルームの半分ほどの面積にシャワーブース+バスタブが入る自社製品を開発。ガラス貼りで、コンパクトながら閉塞感のない作りになっている。それ以外でも洗面台、キッチンなどのダウンサイジングで21uのワンルームを内見した25uのワンルームに住んでいる人が「この部屋のほうが広い」と言ったほどとか。
佐野氏が前職時代に作ったという6畳のワンルームの間取りも見せていただいたが、奥に小上がり形式の畳スペースを作り、壁掛け式テレビを設置するなどコンパクトながら窮屈さを感じさせない部屋になっており、なるほどと思った。
10年前、20年前に比べると、同じ面積をより広く、使い勝手よくするノウハウは格段に進化しているわけである。
21uで25u並みの広さの部屋が作れるとすればオーナーとしても嬉しいし、そこでモノを持たずに、でも、豊かな生活ができれば住む人もハッピー。家具付+家電のサブスクには両者にとってメリットがあるわけだ。

1階にカフェ、つまりサブスク用の品が置けない物件の場合には室内に家具・家電一式を設置することにしている。
ポータルでの不利をSNS広告でカバー
ただ、ポータルでの掲載になるとコンパクトさは不利な要件。実際の広さ、家具・家電付であることより、専有面積という数字が目立つことになるためだ。そこで祐天寺の物件の場合にはSNS広告を主体にした。
「数値を中心にした広告、ライフスタイルをアピールした広告で効果を測定してみたところ、数値中心のもののほうがクリック率は高いものの、問合せなど実際の行動には繋がっておらず、ライフスタイル軸のほうはクリック数は少ないものの、実際の行動を起こす人が多いということが分かりました。広告でも今後は独自のやり方を打ち出していきたいと考えています」。
現在は多摩川、神戸、要町に物件があり、来年以降で奥沢、自由が丘、九品仏(リノベ―ション物件。DIY可になる予定)、経堂などが登場する予定。
「ここまでやってきてコンパクトでも使い勝手の良い空間であり、家具等のサブスクなどの仕組みを組み合わせれば狭くても空かないことが分かってきたので、今後は15u、12u、10uのような、でも、おざなりではない、良い空間を作っていきたいと思っています」。
世田谷では高齢者と学生をマッチングするような開発案件も手掛けているとのことで、次にどんなアイディアの物件が登場するか、楽しみにしたい。
健美家編集部(協力:中川寛子)