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2022年夏の家具の展覧会二つ「フィン・ユール展」「ジャン・プルーヴェ展」。「生活の価値づくり」のヒントへ 「不動産投資家の建築知識021」

不動産投資全般/建築知識 ニュース

2022/08/11 配信

今年2022年の夏は東京で二つの大きな家具・建築の展覧会が開かれている。それぞれ歴史的にも高い評価を与えられている家具製作者の展覧会であり、実際の作品に触れる体験からは生活空間の質をあげるためのヒントが得られるだろう。

所有する建築物で実際にどのような生活が可能か、そのイメージを広げるヒントを得るためにもぜひ訪れてみてほしい。

2022年の家具の展覧会
2022年の家具の展覧会

北欧の生活文化の精髄としてのフィン・ユールの家具に
生活のビジョンを見る

近年、リフォーム、リノベーション、DIY、インテリアデザインなどでキーワードとされている「北欧モダンデザイン」。

その源流は20世紀初頭のデンマークにおいて、先行するヨーロッパのバウハウスやデ・スティル、またる・コルビュジェなどの近代運動に影響を受ける形で、王立アカデミーを一つの軸として人間工学的な考え方がデザイナーに普及し、そこにもとからあったマイスター制度の土壌が数々の名作の実現をもたらしたのだ。

特に20世紀の中盤までの時期にデンマークでは多くの家具デザイナー、建築家が名作といわれる家具、什器、インテリア、建築を設計している。

その背景と質の高さを確かめる展覧会として、まずは2022年7月23日より10月9日まで上野の東京都立美術館で行われている、「フィン・ユールとデンマークの椅子展」について紹介する。

フィン・ユール展
フィン・ユール展

フィン・ユール(Finn Juhl)はデンマークの建築家、家具デザイナーだ。アルネ・ヤコブセン、ハンス・J・ウェグナーと共にデンマークの近代家具デザインにおける代表的なデザイナーとされている。

椅子の巨匠といえばウェグナーだが、数ではかなわないにしても一つ一つのデザインの突き詰め方が極められている点で、このフィン・ユールの椅子を最高とする人も多いデザイナーであり、近年インテリア、リフォーム、DIYなどでも一般化している「北欧スタイル」の本物の中の本物がこの展覧会では見ることができるという貴重な機会だ。

展覧会は大きく二つの階ごとの展示となっている。
上の階では、フィン・ユールを生んだ北欧デザインの中心であるデンマークでどのように家具文化が形成されてきたかという背景と、その代表的な作家たちの作品を概観することができる。

こちらのパートだけでも、一般の人が家具やデザインに親しむ展覧会として成立するほどのわかりやすくまたバランスの良い展示になっている。20世紀の初頭から中盤にかけて、どのように北欧においてものづくりと生活の近代化が発展していったか、その概要を具体的な名作をたどりながら展示している。

そしてもう一つの階でその流れの中において生まれたフィン・ユールというデザイナーの業績をこれも各作品を展示しつつ示している。

どちらのパートにおいても、家具という独立した製品、作品が、同時に生活空間を形作ることを明確にイメージしていること、そしてその空間のイメージが逆に家具を適切に選択し使うことでより質を高めていく様子が展示会場の具体的なコーナーづくりからも体感できるようになっている。

また展示の最後には、実際に座ることのできる椅子の展示もあり、それらの座り心地、素材感などを体験することで、本物の価値のイメージを持つために役立つだろう。

特に仕上げと素材感というものは体験したことがなければたとえば自分がインテリアをコーディネートするときに提案も選択もできないものである。その体験の記憶の引き出しを増やすことが大切なのだ。

ここに集められた家具の多くは、北海道の東川町の「織田コレクション」という世界的にも有数のコレクションから選ばれた、通常では実物を見ることのできない最初のオリジナル品の数々であり一般の目に触れることが少ない。今回の展覧会を貴重な機会として、是非訪れてみてほしい。

生活を支える工業化の発明「ジャン・プルーヴェ展」から、
家具から建築までを一体に考える見方を学ぶ

ジャン・プルーヴェ展
ジャン・プルーヴェ展

また、インテリア、DIY界隈のもう一つのキーワードである「ミッドセンチュリー」。

こちらについては、字のごとく1950年代を中心にした時期の製作物群を指している。大量生産の産業構造が立ち上がり、それまでは一部の高所得者のためのものであった品物が市民層へ普及していく、その過渡期の試行的な、また夢を担った製品群は、その後の市場化でメジャーな一般品に淘汰され退屈になる前の豊かさが改めて評価されている。

その時期を作り上げた一人であるジャン・プルーヴェの展覧会は、木場の東京都現代美術館で2022年7月16日から10月16日まで開催されている。

ジャン・プルーヴェ(Jean Prouve)はフランスの建築家、デザイナーで、建築生産の工業化のパイオニアとして大きな役割を果たしたとされている人物だ。

父親の代から、アール・ヌーボーの工房などとの親交があり、その影響によって自ら工房を持ちながらデザインをするという、異色のキャリアを持つデザイナーだ。家具、什器だけではなくいわゆるプレファブ形式の住宅まで、社会の要請に応じて工業的に作り出した功績は、その後の産業に与える影響も大きいとされる。

展覧会では、これも世界的な前澤コレクションをベースにしつつ、オリジナルを集め、近年評価の高い家具から、建築のパーツである外皮、サッシュ、そして戸建ての住宅までを、現代美術館の大きな空間を生かしながら展示している。

こちらでは、工房という出自が色濃く出ている展示物が多く、たとえば素材にしてもまたその河口にしても、工房で働く職人の手仕事の感覚を強く感じるものが多い。

無印良品の生活用品のラインナップにも影響を与えていると感じられる、生活を形作る道具、家具、内装、建築、などすべてに「作り手(職人)」が居て、その人たちの労働によって私たちの世界が成り立っていることを強く感じさせる全体像だ。

と同時に、そこに使われている素材についてもそれぞれ理由があるということが初期の工業化の様子として理解できるだろう。私たちの生活空間は、すべて誰かが働いて作ったものによって作り上げられている、ということを改めて発見することができる展示だ。

プルーヴェの製作したものの近年の高い評価は、一つには工房から生み出された、「人の手の仕事」の質に対する評価だといえよう。

作っている「誰か」の存在が伝わってくる手仕事の感覚はまた最近見直されている「民藝」で柳宗悦が提唱したものと重なっている。大量生産では平均的になって消えてしまった輝きが、このプルーヴェの工業化の始まりの時点ではまだ残っているのだ。

もう一つは、その手仕事の結果を単なる偶然で欠陥としないように性能を保証する「設計・デザイン」の巧みさだ。人間の仕事においてばらつきは必ずある。それが許容範囲であれば手仕事の味としてむしろ評価されるが、不具合の域に至らないように枠を示すのが、設計なのだということが、プルーヴェのデザインから見て取れる。

こういった考え方は、近年のリノベーション工事などで仕上げ部分を除却して、中の構造をあらわしたスケルトン状態を仕上げとする考え方にも通じる。

手仕事の価値と、理性的な設計・デザインの二面を考えることが、これからの生活空間の作り方のヒントを与えてくれるのではないだろうか。

そして、もう一つ。これら展覧会に集められた家具のコレクションは、近年大変に評価が上がって高い価値をつけているという。建築にも「住宅遺産トラスト」など関係する動きが見えているが、長く丁寧に使うことの大事さと、そのように使われてきたものへの評価が社会的に共有される流れが生まれている。そういった考え方を確かめるためにこの二つの展覧会を訪れてみてはどうだろうか。

執筆:新堀 学(しんぼり まなぶ)

新堀 学

■ 主な経歴

建築家。1964年埼玉県生まれ。東京大学工学部建築学科卒業。安藤忠雄建築研究所所員を経て、1999年より新堀アトリエ一級建築士事務所主宰。独立後、リノベーションを中心として、設計のみならず建築の保存再生から地域文化活動へと広く携わり、建築の企画から利活用にわたり、技術と制度を活用した柔軟な提案を行っている。
一般社団法人HEAD研究会理事、一般社団法人住宅遺産トラスト理事。

■ 主な著書

  • 2002年:リノベーション・スタディーズ(lixil出版)共著
  • 2004年:コンバージョン設計マニュアル(エクスナレッジ出版)共著
  • 2005年:リノベーションの現場(彰国社)共著
  • 2016年:建築再生学(市ヶ谷出版)共著 ほか

※ 記事の内容は執筆時点での情報を基にしています。投資等のご判断は各個人の責任でお願いします。

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