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転用投資物件の落とし穴に注意「建築知識の不動産投資ニュース026」

不動産投資全般/建築知識 ニュース

2023/01/12 配信

最近相談を受けた事例に、事務所ビル→ホテルの用途変更が関係しているものがあった。その事例では問題がなかったのだが一般的な既存ビルの活用において用途変更に伴うチェックポイントを振り返っておくことで、気づかないままにリスクを冒すことを避けよう。

空きビル改修の前に
用途変更の場合は空きビル改修の前に、さまざまな確認が必要となる

これは脱法ホテルか?

先日、既存ビル一棟の購入検討に際し建築的なデューディリジェンスをお手伝いいただきたいという依頼がありまずはドキュメント調査から手を付け始めた。

確認申請書はあるようでそこには事務所・店舗という主要用途が記されている。ほか提供された現況プランでは、3,4,5階で非常に小さな区割りの間仕切りが引かれていて、これはなんだろうと読み込んでいくと、どうやらドミトリー形式の宿泊施設利用のようだった。

建築の安全を担保する建築基準法では、「特殊建築物」という、一般以上に安全性を確保すべき建物用途を規定している。本文内ではなく、末尾に添付されている「法別表1」である。
建築基準法別表1(e-Gov)

この(い)の項に定められた用途の建築を「特殊建築物」といい、規模要件と併せて「耐火建築物」に当たる性能を要求される。すなわちより火災等に対して安全なつくりを行うことが法で定められているということだ。

この別表の分類(二)に「病院、診療所(患者の収容施設があるものに限る。)、ホテル、旅館、下宿、共同住宅、寄宿舎その他これらに類するもので政令で定めるもの」とあり、大まかに夜間、多数の人間が「宿泊」使用する用途がある。

したがって、事務所→ドミトリー=ホテル、旅館という転用では、非特殊建築物から特殊建築物への用途変更であるため、改めて確認申請が必要となるのだ。

中にブース的間仕切りをセットし、水周りを多少追加する、というような今風ドミトリー転用だったので、プランを見たときに不安になった。

一般に、非特殊建築物から特殊建築物に転用するには、
1.耐火建築物化(防火構造を強化する必要がある)
2.避難計画の強化
3.防災設備の強化
4.防火区画の厳密化

が必要になるため、内装と衛生設備だけの改修ですまないことが多いのだ。

また、建築基準法と同時に、消防法的にも用途が変わると規制区分が変わるため、そちらの協議申請も必要となる。それらがすべて終わった時点で旅館業法の申請を出す、という順番になるのだ。

それだけの手間をかけてドミトリーというスタイルのどちらかといえば客単価が低いビジネスをするかどうか。スルーして脱法的に改修しているケースもゼロではないので、今回ももしかしたら、という不安を感じたのだ。

法不適合と既存不適格について確認しておこう

脱法ドミトリーは、文字通り建築基準法不適合なので、本来旅館業申請も出せないはずだ。しかし転用の確認申請を出さずに旅館業だけ申請が出て受理されているケースとしか考えられない事例もゼロではないように感じられる。

本来当たり前すぎることが、管轄が違い、法令も違うため双方チェックが見落とされることもあるのかもしれない。

しかし、それぞれの法規において、建築の面から、消防の面から、また旅館運用の面から、安全は大前提となっているのであり、それを遵守することは事業主、所有者側の責務であることは言うまでもない。
事業主、所有者の社会的責務としての資産の遵法性を維持していくことは、すなわち不作為による資産の価値減から自分の財産を守る行為であることを理解してほしい。

そして、もう一つ改修という投資行為の前に思い出しておいてほしいことが「既存不適格」という状態のことだ。

これは、既存の建築とその時点の建築基準法との関係についての言葉で、建設時=確認申請審査時には(当然ながら)その時点での建築基準法に合致して建てられた建築が、その後の建築基準法の「改正」によって変わった基準からは外れてしまった状態をいう。

「状態」としては現時点の建築基準のレベルの「安全」を担保されているとは言えないが、「行為」として建築確認は遵法的に行われている、という建築基準法に特有の状態のことだ。

補足しておくと「既存不適格」状態自体は「違法建築」ではない。それは建築基準法がそもそも「状態」よりも「建築行為」の安全性担保によってつくられているそのうえで、手続きは遵法的に行われているためである。

しかしながら、この「既存不適格」を現状の建築基準法に合致させなければならない時点がある。すなわち確認申請を必要とする改修、用途変更時だ。

既存ビルの要件

すなわち、今回の例でいえば用途変更自体の確認が必要であっただけでなく、建物の建設時以降の法改正に対して「既存不適格」を解消するための補正が必要なのだ。

近年の法改正とは、
・構造安全性の強化
・バリアフリー対応
・アスベスト使用への対応
・シックハウス対策

などなど、構造と環境における安全性の向上を目指したものがいくつかある。

それらに対する知識をアップデートしつつ、既存建築が持つポテンシャルを生かす計画を創り出していくことが、これからの不動産投資家の基礎的な体力となっていく時代だと考えている。

そして、それらの遵法性に瑕疵がない物件を見抜く不動産投資家が一般化することで、遵法性の瑕疵の有無で物件評価、市場価値に差が出てくる時代だといえるだろう。

なお、冒頭に出た既存事務所ビルはその後の調査で無事用途転用の確認申請が行われていたことが判明した。購入者はその確認によって安心して物件取得の準備を行っている。

執筆:新堀 学(しんぼり まなぶ)

新堀 学

■ 主な経歴

建築家。1964年埼玉県生まれ。東京大学工学部建築学科卒業。安藤忠雄建築研究所所員を経て、1999年より新堀アトリエ一級建築士事務所主宰。独立後、リノベーションを中心として、設計のみならず建築の保存再生から地域文化活動へと広く携わり、建築の企画から利活用にわたり、技術と制度を活用した柔軟な提案を行っている。
一般社団法人HEAD研究会理事、一般社団法人住宅遺産トラスト理事。

■ 主な著書

  • 2002年:リノベーション・スタディーズ(lixil出版)共著
  • 2004年:コンバージョン設計マニュアル(エクスナレッジ出版)共著
  • 2005年:リノベーションの現場(彰国社)共著
  • 2016年:建築再生学(市ヶ谷出版)共著 ほか

※ 記事の内容は執筆時点での情報を基にしています。投資等のご判断は各個人の責任でお願いします。

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