2月28日、令和5年度予算案が衆議院で可決された。年度内成立を目指す過去最大規模といわれる予算案の中の国交省予算から、住宅・建築にかかわる施策を見ていこう。
コロナ以降転換していく日本の建築、住宅の方向がそこに現れていると思われるからだ。時代の変化がすでに始まっているとすれば、先行する動きをとらえることが重要になる。
その材料として、施策とそのキーワードを押さえていこう。

令和5年度住宅局関係予算の基本方針
令和5年度の国土交通省住宅局関係予算には以下の5つの分野が重点的取り組みとして示されている。
1.住宅・建築物におけるカーボンニュートラルの実現
2.住まい・暮らしの安全確保、良好な市街地環境の整備
3.誰もが安心して暮らせる多様な住まいの確保
4.既存ストックの有効活用と流通市場の形成
5.住宅・建築分野のDX・生産性向上の推進
この中でこれからの不動産市場に影響があるものとしては、1.のカーボンニュートラル推進と、4.の既存ストックの活用と市場の形成であろう。
もちろん、いずれも今年初めての施策ではないが一方は2050年カーボンニュートラル、2030年度温室効果ガス46%削減へのスタートダッシュのタイミングであるし、もう一方はこれも空き家問題や社会の高齢化に後ろを迫られつつ、いかにして新築中心の産業構造から軸足を移せるかという、これも時間との勝負になりつつある課題だ。
市場自体が変化した、と言えるようになるのはもちろんまだ先だが、少なくともその変化はすでに始まっているとすれば、先行する動きをとらえることが重要になる。
その材料として、施策の要点を押さえていこう。
住宅・建築物におけるカーボンニュートラルの実現がもたらす市場への影響
大きくは、省エネ対策と木材利用の促進の二つの柱が掲げられている。
省エネ対策についてみていくと二つの見直しがかけられている。
一つは、省エネ基準適合の融資要件化(住宅金融支援機構)である。
これは、フラット35の融資要件において、これまでは住宅支援機構基準が要件であった。これは設計時、建設時の仕様について目安とされるものであり、実際の建築自体の性能とは異なる。
今回の要件変更では、より一般的かつ実際の性能評価としての省エネ基準を要件としているため、住宅ラベリングにつながることで建設後の市場での中古住宅評価としても機能することになる。
年間新築で5万件、中古改修で1万5千件のフラット35利用数があり、それ自体も引き続きストックとなっていくことを考えても影響は大きいが、それ以上に融資要件としての省エネラベリングが必須化、常識化することが大きい。

市場については二つのシナリオが考えられる。
一つは、令和5年度以降のフラット35利用中古住宅とそれ以前のものとが今後中古住宅市場で比較されることだ。
同一地域に建つ住宅でも省エネ性能のラベリングの有無が出てくると、市場評価、価格に当然差がついてくる。フラット35の要件に追随する民間融資も出てくることを考えると、ラベリングの有無が中古物件価格に影響を与え始めるのは、思うより早くなるであろうことを、この制度見直しは示している。
もう一つは、付随して賃貸市場においても影響が出てくるであろうということだ。フラット35が利用されることがない賃貸住宅であっても、そこに省エネラベリングがあるかないかが居住の快適性、健康性につながるという常識が形成されていく時代には、やはりおのずと比較されていく。結果として省エネ性を含めた長寿命化改修などのアップデートを行わない賃貸物件は、これまでの老朽化以上に市場価値の相対的な低下を免れないという賃料の低下をもたらす未来が予見される。
さらに中古を色分けする住宅・建築物省エネ改修推進事業
もう一つ、住宅・建築物のカーボンニュートラルの実現に向け、既存住宅の省エネ改修を加速するため、住宅の省エネ改修等に係る支援メニューを見直し、設計・改修パッケージ補助が創設される。
住宅においては改修設計、工事費の4割から8割(上限あり)を、その他建築物においても診断、設計、改修で5600円/uから9600円/uを補助することで、省エネ基準適合レベルまたはZEH、ZEBレベルへの改修を後押しする。
昨年までに引き続き、省エネ改修をかなり強力に後押しする事業として各自治体は競って補助、助成を拡大する年になるだろう。
新築の融資要件としての省エネ住宅の増加と併せ、中古住宅においても省エネ改修の有無すなわち前述の省エネラベリングの有無がこちらでも要件となるため、同様に省エネ性が市場に与える影響は思った以上に早くなると予想されるのだ。

このほかLCCM住宅の整備の推進、地域型住宅グリーン化事業、優良木造建築物等整備推進事業などの施策があり、コロナ以降の建築・不動産が環境という要件を味方につけるべき潮流がこの予算案には大きな動きとしてみて取ることができるだろう。
これからの不動産投資において、住宅、建築の性能を専門家と協力しながら長期間の建物の活用のための投資のポイントを押さえていくことが大事だろう。
執筆:
(しんぼり まなぶ)