かの名著「金持ち父さん 貧乏父さん」をはじめとして、「自分のためにお金を働かせる」ことの重要さを説いて、そのための手法やノウハウを紹介してくれる媒体は多い。さらに上記の本は、読んだ人の多くに行動を起こさせた点でも秀逸だったと評される。
一方で、そのように行動を起こした人達も単純に考えると二つに分類される。一つはその取り組みが奏功し継続できている人、もう一つは上手くいかずに市場から退場・撤退せざるを得なくなった人。その成否を分ける違いはどこにあるのか。生身の人間が取り組む以上、その手法やノウハウもさることながら、「制御すべきマインド」によるという仮説が成り立つのではないか。
今回、ゴールドスワンキャピタル株式会社(関連リンク)代表の伊藤 邦生氏にお話を伺い、不動産投資・大家業にも当てはまるであろう「投資の世界で勝ち続けるための鉄則」に関して、ご自身の著書からの内容も交えてメッセージをもらった。

「お金を働かせる」ために知るべき”不都合な真実”
伊藤氏は11年間を証券会社で勤務した経験も踏まえ、自著の中で繰り返し「投資でお金を増やすことは簡単ではない」と書いている。お金持ちになるための法則として、「自分のお金をつくる」そして「自分のお金を働かせてお金を生ませる」という2つのステップに整理しているが、まずはその前半ステップを3つに分けて解説する。
アリのステージ:
伊藤氏は資本主義の社会をアリの社会に例えて、「少数の女王アリのために働き続ける多くの働きアリのように、一握りの資産家のために働き続けるサラリーマン」とも表現している。
「入ってくるお金をすべて使ってしまい、そもそも『自分のお金をつくる』ができていない状態です。当然お金を働かせることもできませんし、例えばせっかく働いて稼いだお金で新車を買ってしまえば、自動車メーカーの株主に配当として支払われ、結局は資産家の財布にお金が流れてしまうのです。」

カモのステージ:
投資には意欲的だが視点が定まらず、「元本保証の高利回り」「今しかない」などの言葉に弱く、深く調べたり勉強することなく投資してお金を奪われることになるタイプを指す。
「しっかりと勉強することなく安易に投資に手を出し、投資ビジネスの餌食になる人が少なくありません。『勤務先の将来が不安だから投資で稼ごう』という考えは分かります。しかし、そうした気持ちにつけ込み金儲けを企んでいる業者がたくさんいることを理解しておいてください。」

カメのステージ:
サラリーマンの中で一番多いのはこのタイプだろう、と伊藤氏は言う。守りは固い(しっかりお金は貯められる)が、そこからなかなか資産を増やせないタイプを指す。
「カメのステージにいるといったんは自分の懐にお金が入ってきます。しかし、とにかくリスクを取って預金残高が減ってしまうことが耐えられないので、そういう人にとって一番安心なのが預金をマイホーム購入の頭金にすることなのです。
しかし、日本の住宅システムは資本家の作った典型的なトラップです。投資スキルがないままに住宅ローンを組むと、約30年間それなりの支出が確定し、そうなると働き続けるしかなくなります。こうして、サラリーマンの給料は国と建設会社と銀行が回収する仕組みになっているのです。

アリは資産家のために働き続け、カメは国のために一生働き続ける従順な下僕となる。投資のスキルがないと、アリかカメとして生きていくしかないのです。」
「自分のお金を働かせる」ために必要な5つの資質
さらに伊藤氏は、「投資でお金を増やすことは簡単ではない」のは「作ったお金を働かせる」ステップが簡単には実行できないからだ、と述べる。いざ投資の世界に舵を切るにあたり、備えるべき5つの資質についても解説する。
「1つ目は『優位性』です。不動産投資であれば、情報網、金融機関との関係、地方の土地勘、特定のセグメントにおける相場観、など人それぞれですが、勝ち続ける投資家には、その投資家なりの『優位性』が必ず存在します。
前述のカモのステージにいる人のように、あれもこれもと手を出す人は資産を増やすことができません。なぜなら、投資で儲ける上で最も大事な『優位性』を築けないからです。
2つ目は『規律』です。これがないと、不動産会社のセールストークに騙されて大してよくない物件を高値で買ってしまったり、他の人の意見に流されたりします。自分が熟知して判断できるもの以外には投資してはいけないのです。
3つ目は『忍耐』です。前述のようにカメのステージにいる人は極度にリスクを恐れ、『素人は投資では儲けられない』という考え方をしますが、ある意味では正しいと言えます。なぜなら、少し勉強したくらいでは優位性は築けないからです。しっかりと勉強など準備をして自分の戦略を見つけるまでは投資してはいけないのです。
4つ目は『リスク管理力』です。不動産投資であれば突発的な修繕の発生に備えておくとか、金利の上昇で含み損を抱えるリスクを考慮に入れるとか、『自分の取れる範囲内でリスクを取る』という点を厳格に守ることが一番重要です。
5つ目は『覚悟』です。最悪のケースを想定し、その損失が実際に発生した際には早急にポジションを閉じるのです。それを前提にしなければ投資に手を出してはいけません。業者に言われるがままの姿勢はダメですし、トラブルになりがちなサブリース契約も、『絶対に空室リスクは許容できない』という覚悟のなさがかえって損失を引き起こしているとも言えます。
賃貸経営で最も大切な募集賃料の設定も含めた『入居者付け』をサブリースという形で外注してしまうのは、覚悟のなさから『自分で判断する』という最も大切な点を放棄する行為だからです。」

これから不動産投資に飛び込む方へのメッセージ
伊藤氏は自身の経験も振り返りながら総括する。
「『優位性』を築き上げるためには、『こうなりたい』というモデルケースの成功者に会いにいくことも有効です。その人と接する機会が増えると思考も似てきます。
わたしも過去、藤山勇司さんに面談をお願いしたり、泉正人さんのIZUMI塾に参加したり、ジム・ロジャーズに会うためにシンガポールまで行ったこともあります。結局はどこまで本気でやりたいか、という1点が『覚悟』までも決めるのではないでしょうか。」
伊藤氏の著書や解説は、不動産投資・大家業に取り組む上で非常に大きな戒めとなるだろう。
執筆:
(さんとうりゅうおおや)