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擁壁のある土地を買う前に!工事の概算費用も分かる「宅地擁壁の健全度判定・予防保全対策マニュアル」

不動産投資全般/災害・防災 ニュース

2022/08/15 配信

熱海の土石流の動画に衝撃を受けた人も多いはず
熱海の土石流の動画に衝撃を受けた人も多いはず

土砂災害への関心が高まっている。台風、豪雨などによって実際に被害が頻発している結果で、たとえば国土交通省砂防部が2021年度の土砂災害をまとめた冊子(画像、グラフは同冊子から)によると多くの人の記憶に新しい静岡県熱海市での土石流に始まり、長野県岡谷市、広島県広島市その他972件の災害が発生しており、死者32名(災害関連死は除く)、全壊家屋83戸などとなっている。

平均値を見ていくと増加傾向にあることが分かる
平均値を見ていくと増加傾向にあることが分かる

近年で被害の多かった2018年に比べると少なくはあるが、1982年以降の土砂災害発生件数の推移を見ると確実に増加傾向にある。

また、宅地の安全を守るべく作られている擁壁の崩落もしばしば起きている。2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震、2018年の北海道胆振東部地震その他の地震に加え、豪雨での被害も記憶にあろう。2021年にはそうした自然災害とは別に突然に擁壁が崩れ、住宅が崩落する事故もあった。

こうした事故を受けてか、国土交通省はこれまで(案)としていた公開していた「宅地擁壁老朽化判定マニュアル」(2002年)に代わる「宅地擁壁の健全度判定・予防保全対策マニュアル」を正式に発表した。

不適格擁壁の種類を知っておこう

同マニュアルは基本、地方公共団体の職員等の利用を想定しているが、それほど難解な内容ではなく、関心のある人なら読みこなせるはず。都市部では擁壁の含まれる不動産が少なくないだけに、危険を読み取れるようになることは経営にプラスになろう。以下、マニュアルから知っておきたい点をピックアップしていこう。

マニュアルは
①総説
②宅地擁壁の健全度判定
③宅地擁壁の予防保全対策
の3部構成となっており、その後に参考資料が添付されている。

まず見ておきたいのは冒頭の総説2~5ページ。ここでは擁壁の種類が説明されており、これが理解できていないと以降の健全度判定その他でまごつくことになる。健全度判定は擁壁の種類ごとに見るべき点が異なっているためだ。

7種類掲載されているうち、上の3種類以外は不適格
7種類掲載されているうち、上の3種類以外は不適格

分かりやすいのは3ページの写真付き一覧表だ。よく見かける7種類の擁壁が紹介されており、そのうち、適法なものは①練石積み造擁壁、②重力式コンクリート擁壁、③鉄筋コンクリート擁壁(プレキャストを含む)のみ。④以降は不適格擁壁であり、よほどのことがなければこうした擁壁のある土地、土地の背後にこうした擁壁がある土地は避けたほうが賢明である。

また、4ページには一覧表には出てこないが、比較的見かける擁壁がどこに分類されるかがまとめられている。一般に危険とされているが大谷石積み造の擁壁のうちには大臣認定を受けているものがあるなど、役に立つ知識が記されているのでよく見ておきたい。

ちなみにブロックを積んだ擁壁は紹介されていないが、それはそもそもブロックは擁壁を作る際に使うべき材料ではないため。ブロック塀背面に盛土されている場合は増積み擁壁扱いになるが、増積み擁壁は不適格擁壁。ブロック積みの擁壁も避けたほうが良いもののひとつというわけである。

不適格擁壁のある不動産も売られている

ここまで見てくれば注意したい擁壁の種類が分かるが、問題は実際の不動産市場ではこうした擁壁のある土地、住宅が普通に販売されているという点。接道要件などと違い、注意を呼び掛ける文言がないままに情報が公開されていることもあり、買う側が注意する必要がある。

また、自分が購入する土地、住宅に擁壁がある場合だけでなく、背後、側面などに擁壁があり、それが不適格というケースもあり得る。

自分が所有者になるなら費用が掛かるとしても自分で危険に対処できるから良いが、所有者が隣地などである場合には対処を依頼しても応じてもらえるとは限らない。斜面地での購入では自分が買おうとしている不動産周辺の擁壁にも注意が必要というわけである。

擁壁の危険度は水と高さがポイント

どのタイプの擁壁かが分かったところで、健全度を判定することになるが、それにあたって2つ、気にしたい点がある。

ひとつは湧水、排水など水に関する状況である。擁壁は内部に水が溜まることによって問題が生じることが多い。溜まった水の水圧が土を押し、擁壁を変形させると考えれば分かりやすいだろう。その危険を察知するためには擁壁に水が染み出ていないかどうか。

また、擁壁には3㎡に1カ所以上の内径75ミリ以上の水抜き穴を設置しなければいけないことになっているが、それがきちんと配され、機能しているかどうかも大事なポイント。水抜き穴がないのはもちろん、穴にごみなどが詰まっている、草や木が生えている場合には機能不全が疑われるのだ。

もうひとつは擁壁の高さ。擁壁は高くなればなるほど変形しやすくなる。3m以上の場合には要注意である。

それを知った上でマニュアルの8ページ以降の、具体的なチェックポイントを見ていけば危険がどの程度かが分かってくる。劣化状況など分かりやすく図化されているので、マニュアルを見ながら現地をチェックしてみるのも手だろう。

マニュアルではこうしたチェックポイントを一枚の記録シートにまとめ、その評点で危険度を採点する。5点未満なら当面に危険性はない、9点以上の場合には危険といった具合である。実際の記録シートは非常に細かく確認することになっており、素人がそれを全部やろうとするには無理があるが、大まかに危険な箇所が多いか、それほどないかくらいは分かるはずである。

予防保全対策の費用の目安が分かる

③の宅地擁壁の予防保全対策の項では予防対策にはどのような方法があるか、それにおおよそいくらくらいかかるかの目安が示されており、これはこれまでになかったもの。

住宅の場合にはどの工事にいくらくらいかかるかは、様々な形で示されており、なんとなく推察できる。ところが擁壁工事についてはいくら調べても明確な数字が無かったのがこれまで。ところが、今回、このマニュアルではどの工法でどのくらいの面積を施工したらいくらかかるかの概算工事費が示されている。

具体的には改めて作り直す(再構築)、補強する、補修するという3つのケース別の採用される工法、工法の概要、どんな場合に適用される工法かと概算工事費が示されているのだが、やはり、どのやり方をとってもそれなりにかかることが分かる。

再構築となると百万円単位の出費に

たとえば3つのケースのうち補修がもっとも安くつくものだが、そのうちでもっとも安い吹付工法でも高さ3mの擁壁を10m分施工した場合で30万円(諸経費率60%と仮定して算定。以下すべて同じ)となっており、補修でも高いものだと90万円(法枠工法)、110万円(沿打工法)などとなっている。

当然、再構築となると240万円(重力式コンクリート擁壁工法)から550万円(練石積み造擁壁工法)と高額に及ぶ。

以降のページでは劣化した擁壁ごとにどの工法を選ぶべきかのフローチャートが掲載されているのだが、それを見ると擁壁の工事では安いからこの工法でやろうという選択が難しいことが分かる。

立地、劣化度その他擁壁ごとの状況、条件に合わせてこの工法がベスト、この工法でしかできないということがあるのだ。それを考えると、擁壁のある不動産、特に劣化が進んでいると思われるものはあらかじめその予算を見込んで、それでも収益が出るなら良いが、そうでなければ選ばないほうが良いかもしれないのである。

自治体によっては助成も

参考資料中で最後に見ておきたいのは参考資料-8の地方公共団体の独自の支援策(例)。擁壁工事には費用がかかるが、放置しておくと被害が周囲に及ぶ可能性もある。そのため、斜面地の多い自治体を中心に融資制度、助成金制度などを作っている。

たとえば融資では住宅金融支援機構、仙台市、横浜市、金沢市、京都市、呉市、北九州市、福岡市に制度があり、助成金では仙台市、高崎市、横浜市、川崎市、横須賀市など。こうした自治体にある物件であれば制度が使えないかを調べ、それ以外の自治体の場合にもなにかしら使える制度がないかを調べてみるのも手だろう。

擁壁のある、あるいは隣接した不動産は価格面でメリットがあったり、眺望や採光などに恵まれることがあるなど、プラス面もある。だが、マイナス面がある可能性も高く、購入時には両面を見る必要がある。

また、もし、すでに擁壁の含まれる、隣接する不動産を所有しているようなら、状況を把握、水抜き穴が適切に使われるように清掃するなど、維持管理に努めたいところである。

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健美家編集部(協力:中川寛子(なかがわひろこ))

中川寛子

株式会社東京情報堂

■ 主な経歴

住まいと街の解説者。40年近く不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービス、空き家、まちづくり、地方創生その他まちをテーマにした取材、原稿が多い。
宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。

■ 主な著書

  • 「ど素人が始める不動産投資の本」(翔泳社)
  • 「この街に住んではいけない」(マガジンハウス)
  • 「解決!空き家問題」「東京格差 浮かぶ街、沈む街」(ちくま新書)
  • 「空き家再生でみんなが稼げる地元をつくる がもよんモデルの秘密」(学芸出版)など。

※ 記事の内容は執筆時点での情報を基にしています。投資等のご判断は各個人の責任でお願いします。

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