空いている時間帯に電車に
乗るとポイントがもらえる
ビジネスパーソンにとって、平日の通勤はルーティンのひとつ。都心部なら電車通勤が多いが、ラッシュアワーの混雑ぶりは異常なほどで、誰もがストレスに感じているだろう。それを避けるため、住まいを選んだり通勤時刻を調整することも珍しくない。
鉄道会社にとっても満員電車は根深い課題だ。事故やトラブルの温床であり、ダイヤの調整、路線の開発により少しでも解消しようとしてきた。いまは新型コロナの感染対策として、三密の状態も避けたいところ。マスクの着用や控えめな会話を促したり、車内換気への理解・協力などを呼び掛けているが、JR東日本はポイントを活用した、オフピーク通勤の普及に取り組んでいる。
それは、Suica通勤定期券(FREX定期券、通学定期券、グリーン定期券は対象外)のユーザーが対象で、次のような施策だ。
■対象エリア:JR東日本在来線首都圏エリア
■実施期間:2021年春から1年間の予定
■対象者:Suica通勤定期券のユーザーでJRE POINTサイトでエントリーした人
■ポイント還元方法:対象エリアの駅でポイント還元対象の時間帯に入場するとポイント付与。ポイント還元対象の時間帯は各駅の朝ピーク時間帯の前後に設定し、前後で異なるポイントを還元する。
具体的なポイント付与数は、ピーク時間帯の前は「早起き時間帯」として1日あたり15ポイント、ピーク時間帯後は「ゆったり時間帯」として1日当たり20ポイント。1日に複数回乗車してもカウントされるのは1回のみだ。例えば、ピーク時間帯が午前7時~8時30分なら、この時間帯に駅に入場してもポイントはもらえないが、それより前後すればポイント付与の対象になる。
付与されるのは「JRE POINT」で、たまったポイントは駅ビルやJR東日本のショッピングモールサイト「JRE MALL」の買い物代金に充当したり、JRE POINT WEBサイトで商品に交換することが可能。SuicaチャージやSuicaグリーン券に使うこともできる。
キャンペーンに参加するには、Suica通勤定期券が必要で、JRE POINTサイトでの登録も必要だが、毎日のオフピーク通勤でポイントがたまるのなら、とてもお得。1年間の期間限定とはいえ、通勤ラッシュの解消に役立つかもしれない。対象エリアや、駅ごとのピーク時間帯、サービスの開始時期は今後明らかになるそうだ。
JR東日本は同じタイミングで、Suica残高で乗車した人を対象に、JR東日本の在来線エリアで同じ運賃の区間を月に10回利用すると、運賃1回分相当のJRE POINTを付与するサービスも始める。さらに、月11回目以上は、1回ごとに運賃の10%相当のJRE POINTも還元されるので、定期券は持たないが同じ区間を何度も使う人にとって、非常のメリットがある。
ここでいう同一運賃区間は、東京―赤羽(IC運賃:220円)、東京―蒲田(IC運賃:220円)、品川―川崎(IC運賃:220円)のように、乗車区間は異なっても運賃が同一の区間を指す。新型コロナの影響でテレワークになり、定期券を持たなくなったビジネスパーソンは増えているが、定期的にオフィス通勤があれば、還元の対象に達するかもしれない。こちらも、オフピーク通勤でポイント付与と同じく、手持ちのSuicaをJRE POINTサイトで登録する必要がある。
JR西日本も2021年4月から22年3月末にかけて「時差通勤ポイント」として、同様の取り組みを実施する予定だ。同社のICカード「ICOCA」の定期券利用者が対象で、大阪都心部の駅で通勤ピーク後に出場すると、利用1回ごとにICOCAポイントが20ポイント付与される。
東京メトロは路線を限定して
オフピーク通勤のポイントを付与
オフピーク通勤に対するポイント付与は、東京メトロも昨年4月から今年3月末にかけて実施。同鉄道はICカードの「PASMO」を「メトロポイントクラブ」に登録のうえ対象路線に乗車するとポイントを付与する「乗車ポイント」のサービスを提供しているが、それに加え東西線と有楽町線豊洲駅が対象の「OFF PEAK PROJECT」を期間限定で始めている。
東西線といえば、首都圏屈指の混雑路線だが、朝のピークタイムをずらして乗車すると、メトポ(メトロポイント)が獲得できる。午前5時40分から10時30分の間に、「ゴールドタイム(25ポイント付与)」「シルバータイム(15ポイント付与)」「ブロンズタイム(10ポイント付与)」を設けていて、東葉勝田台駅から門前仲町駅の間で対象時間帯に乗車し、南砂町以西の東京メトロ前線の改札で降車・乗り換えるとポイントがもらえる。正午までがタイムリミットだ。
有楽町豊洲駅では、午前7時~10時30分の間の「ゴールド」「シルバー」「ブロンズ」の3つの時間帯に出場すると、ポイントが付与される。利用者の少ないとされる中央改札で出場すると、10ポイントが上乗せされる仕組みだ(時間帯のポイント付与は東西線と同様)。たまったメトポは10ポイント10円単位で、PASMOにチャージすることができる。
これらのプロジェクトは、今夏に予定されていた東京オリンピック・パラリンピックによる観戦者増の対策が目的だ。仮に2021年に開催されるとしたら、延長されるかもしれない。参加するにはPASMO定期券やPASMO、モバイルPASMOが必要で、メトポのWebサイトで仮登録のうえ、各駅設置の多機能券売機で本登録。さらに、メトポのマイページで各プロジェクトにエントリーしないといけない。
鉄道各社による、ポイントを使った混雑緩和策。コロナ対策になるばかりか、乗客が分散すると通勤などの移動が快適になり、鉄道会社もラッシュ時の車両・駅員を減らすことができ、コスト削減につながる。一定の効果が認められるなら他社にも広がるかもしれない。実際、大阪メトロも混雑緩和を目的に、時間帯に応じたポイント還元の検討を始めた。
また、こうした取り組みによりオフピーク通勤が定着して、通勤時間帯の混雑が緩和すると、「会社から遠くに住んでも構わない」「混雑しない路線に住みたい」など、どの路線・地域に住むかといった意識に変化をもたらす可能性もある。賃貸市場にも無関係な話ではないのかも?
健美家編集部(協力:大正谷成晴)