我が家に足りない収納を外で借りようというのがトランクルームだが、使ってみようとすると近くにない、高いという問題が出て来る。それをクリアし、遊休不動産を活用しようというのが収納シェア。貸す側、借りる側のメリットを聞いた。
「近くにない」「高い」がトランクルームを使わなかった理由
コロナ禍で我が家にいる時間が増え、家に対する不満が顕在化している。もっと広いところに住み替えたい、モノが増えて手狭になったなどという声が代表的なものだが、それに対して収納での解決を模索する動きがある。
日本最大級のトランクルームポータル、LIFULLトランクルームを運営する株式会社LIFULL SPACEが2019年から始めた収納シェアという耳慣れない名称のビジネスがそれだ。
具体的には空きスペースと荷物を預けたい人を繋ぐ、収納シェアリングサービス「収納シェアβ版」である。
同社はトランクルームのポータルサイトとしてビジネスをスタートさせたが、トランクルーム利用を検討したものの、結局使わなかったという人たちにアンケートを取るとトランクルーム利用には2つの課題があることが分かったと同社代表取締役の奥村周平氏。
使わなかった理由は非常にシンプル
「使わなかった理由は近くに無かった(51%)、高かった(39%)が大半。つまり、近くにない、高い、この2点をクリアすれば利用者を増やせるかもしれないのです。
ただ、既存のトランクルームで解決を図ろうとしても難しいことも分かりました。新たにトランクルームを作ろうとしても用途地域によって建設できないところがあります。市街化調整区域では定めがなく、第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域は建設できず、第二種中高層住居専用地域も場所によって不可です。
また、高いと言われているからといって、これまでの額の半額で貸すことも難しい。つまり、これまでのトランクルームとは違うやり方で、トランクルームのように使えるスペースを生み出す必要がある。
そこで思いついたのが我が家やオフィス、店舗、空き家などの使っていない空間を収納のために貸すという手段でした」。
このやり方なら自宅の近くに、安価でモノを置く場所を見つけられるようになるかもしれないのである。
使っていない空間を貸し出す収納シェア
元々使っていない場所であれば、最初からいくらで貸そうと思って作られた空間よりも収益に対しての期待値が低い。多少でも収益が上がれば良いと考える人も多く、借りてもらいやすい価格設定が可能になる。同社では近隣相場の60%くらいの設定を推奨しているそうで、これならば安さで目を惹き、借りてもらいやすくなる。
また、我が家の空き部屋利用などであればトランクルーム建設ができない地域にも収納のために使える場を生み出すことが可能になる。
トランクルーム相場よりは安く貸すことになるとしても貸す側(以下ホスト)にもメリットがある。特に不動産を有するオーナーなどにとっては、保有する不動産を住居として貸す場合には内装、設備などにある程度の投資が必要になるが、収納シェアとして所有不動産の一部を貸すなどの場合にはほとんど初期投資は要らない。
まったくの空き家で管理されていない物件の場合にはこれまでしていなかった換気をするなど多少の出費は必要になるだろうが、それも住居として貸すケースに比べれば微々たるものだ。
また、貸す空間、広さを貸す側が決められる点もメリットだろう。1部屋まるまる、1棟まるまるを貸す必要はなく、自分が使っていない1畳分、半畳分、段ボール1個分だけを貸すなどという、これまでの賃貸では考えられないこともできるのである。
もちろん、貸す期間、料金も貸す側が自由に設定できるので、立地の良い場所であれば小割にして貸すことで住宅以上の収益になることもあり得る。面積単価で考えると住宅よりもトランクルーム等の料金のほうが高いからである。
ちなみに借りる期間としては引っ越し時に一時置かせて欲しいというものから、長期に渡るものまで利用者によってさまざま想定されるが、貸出し可能期間があらかじめ分かっているなら、それを明記して募集すれば良いという。
初期投資不要で、毎月自動的に入金
建物に対する初期投資以外も不要である。

「建物、設備に対する初期投資が要らないだけでなく、情報掲載に当たっても掲載料は不要です。必要なのは成約した後、成約手数料として成約金額の30%を成約期間中お支払いいただくこと。弊社で集金した後、決済手数料、事務手数料、保険料を含んだ成約手数料を控除した額をお支払いしますので、全く手間いらずで毎月、自動的に入金があることになります。

保険料はスペースに置いている荷物に破損や汚損、盗難、紛失などが発生した場合、最大10万円までを補償するというもので、これによって場所を貸す側、借りる側がともに安心して場所を貸し借りできることになります」。
子どもが巣立って子ども部屋が空いている、貸しているアパートで空室が出た、通勤する人が減ってオフィスに使われていない空間が生まれた、店舗のストックヤードが空いているなど場所を貸し出す理由はさまざま。
今の段階では完全に空き家になって手が入っていないという建物はほとんど掲載されておらず、自宅外の倉庫くらいまでは掲載があるものの、それ以外は居住、あるいは事務所や店舗として庇護が介在している建物が9割ほどと大半を占める。
数としては個人が貸しているケースが多いものの、法人がスペースを貸している例も。

「たとえばヤマト運輸さんでは荷物を置いている営業所の一画を箱単位、カート単位で貸し出していますし、シェアハウスで入居者が減ったので開いている部屋を貸します、梱包作業をしている障害者就労支援施設で荷物を置くスペースがあるので貸しますなど、様々なケースがあります」。
搬入、搬出のやりとりを見守りに使おうという考えも
荷物を預け入れる方法には本人が搬入して対面で渡す、宅配便に託すという2つの方法がある。相手のいる時間でなければ搬入、搬出ともできないため、日程、時間調整で何度かホスト、借りる人(ゲスト)は電話、メールなどでやりとりをする必要がある。面倒では?と思ったが、「数か月に1度の出し入れに対し、連絡を取る数分はそれほど大きなハードルではありません」と利用者から言われているとのこと。
それよりも面白いのは荷物の預け入れ、受け出しでのやりとり、あるいは定期的に荷物の受け渡しがあることを交流、見守りに役立てられないかという発想があるということ。
「京都にあるサービス付き高齢者住宅を運営している会社から入居している高齢者の自宅、現在はまだ自宅に住んでいる高齢者宅を収納シェアの場として使えないかという相談がありました。
ただ、現時点では高齢者宅に若い人がモノを預けに行くのはあまり奨励できません。この状況が過ぎたら、収納シェアを通じてまちの交流の一環になる、やりとりが生まれるようになれば面白いと思います」と同社の岩澤正輝氏。
収納シェアの市場規模は100億円以上?
現時点で提供されている場所の数は300ほど。まだまだ少ないのは大きな課題で、トランクルーム自体、認知度が低く、さらに収納シェアはそれの発展形。知らない人が多いのは無理もない。
だが、100億円規模の市場が想定され、化ける可能性はあると奥村氏。
「トランクルームのニーズは人口の分布と比例します。部屋が狭くて人が密集している都市圏でこそニーズがあり、そこにはチャンスもあると考えています。
また、独自のアンケートでは収納シェアがトランクルームの半額程度であれば利用してみたいという人が30%ほどおり、トランクルームの市場が800億円程度のため、800億円(市場規模)×50%(トランクルーム半額の価格)=400億円と考え、400億円×30%(利用者割合)とすると市場は120億円ほどと想定されます。今後、大きな市場になっていく可能性があるのです。
これまでのトランクルームは土地、建物などを借りてそれをサブリースすることで経営されており、その時点で家賃以上に収益が上がるものであることはお分かりいただけるでしょう。
それを自分の所有する土地、不動産でやるとしたら、借りてやるよりはずっと効率が良いはず。庭の空いている場所に物置を置いて貸すとしたら必要な投資は物置代だけ。
あるいは人が入っていないアパートの壁を抜いてスペースを小分けにして貸している、ビルの内部にロッカーを並べて貸している例もありますが、居住用のように内装、設備に気を遣わなくても良い分、必要費用は最低限で済みます。
加えて居住用、店舗用のように立地、視認性などを気にしなくて良いというメリットもあります。トランクルームは車利用で搬入、搬出が行われることが多いので、駅から遠くても車で利用しやすい幹線道路沿いなどであれば人気が出ます。居住用としてはうるさいと敬遠される場所が逆にプラスになるのです。住宅の場合の地下階や、店舗の場合の2階以上なども同様。市場が広がっていけば可能性も広がっていくものと考えています」。
個人的にはシェアリングエコノミーの進展で、貸す側、借りる側の関係が「お客様は神様」から「お互いさま」とよりフラットなものに変化しつつあるという点に興味を惹かれた。メルカリ、ジモティなどのサービスを利用している人なら分かるだろうが、これらの世界では売る人は買う人でもあり、関係は上下でも絶対でもなく、互いが互いを評価し合う。
不動産の世界では長らくお金を払う人が偉いという状態が続いてきたと思うが、シェアという仕組みを取り入れることでお互い様になるというのであれば、大家と店子の関係も変わってくるかもしれない。貸す側にとっては喜ばしいことと思うが、どうだろう。