夫婦で賃貸アパートを新築し、賃料収入を得ようと許可を求めた男性裁判官に対し、最高裁は11月1日までに「不許可」とする裁決をしていたことがわかった。賃料収入が年間約1100万円に上り、「最も公正かつ廉潔であることが求められる裁判官には認められない」と判断したとのこと。裁決は10日25付。
裁判官は裁判所法第52条により、最高裁の許可を受けなければ兼業は出来ない。この裁判官は、裁決に先立つ2016年、兼業許可申請をしたものの不許可となっていた。そのため、外部委員会に不服を申し立てたものの、17年9月の答申で同委員会が最高裁の判断を支持したため、最高裁は改めて今回の裁決で不許可とした。
ところで、国家公務員の兼業大家さんは大勢いる。彼らの兼業は問題ないのだろうか。
まず、裁判官は内閣が任命する特別職の国家公務員であり、公務員試験を経ている一般職の公務員とは区別される。ここは押さえておきたい。
一般職の公務員は国家公務員法第104条により、やはり所属庁の長の許可がなければ兼業は出来ない。そしてこの許可がされる要件が「人事院規則14-8(営利企業の員等との兼業)」及び「人事院規則14ー8(営利企業の役員等との兼業)の運用について」で次のように定められている。(人事院発行の「義務違反防止ハンドブック」より不動産賃貸に関する部分を抜粋)。
◆ 自営に該当する基準及び承認基準
一定の規模以上の不動産等賃貸や太陽光電気の販売、農業等は、自営に該
当しますが、所轄庁の長等の承認を得た場合には行うことができます。
◆ 不動産等賃貸について
【自営に該当する基準】
イ 独立家屋の賃貸の場合 ・・・ 賃貸件数 5棟以上
ロ アパートなどの賃貸の場合 ・・・ 賃貸件数10室以上
ハ 土地の賃貸の場合 ・・・ 契約件数10件以上
二 駐車場の賃貸の場合 ・・・ 駐車台数10台以上
ホ 賃貸料収入が年額500万円以上 等
【承認基準】
@職員の官職と当該兼業との間に特別な利害関係の発生の恐れがないこと、
A兼業に係る業務を事業者に委ねることなどにより、職務遂行に支障が生じないことが明らかであること、
B公務の公正性及び信頼性の確保に支障が生じないこと
ここでのポイントは、まず「自営」に該当する不動産賃貸業は、承認を得た場合には行うことができるということ。
言い換えると、「自営」に該当しない小規模な不動産賃貸は承認を受けなくてもできるということである。次に「自営」に該当する基準は、不動産所得の事業的規模判定の形式基準である「5棟10室基準」と同じであることに加え、「賃貸料収入が年額500万円以上」であること。従って、所得税の申告では事業的規模と認められない場合でも、「自営」に該当し、承認が必要になる場合があるということである。
次に承認基準の方では、職務に関係のある者との間に特別な利害関係がある場合は当然として、物件の管理を第三者(親族を含む)に委ねることが要件となっている。
つまり自主管理はNGということだ。これは当然の話で、国家公務員には「職務専念義務」(国家公務員法第101条)があるため、自主管理などしていては本業に支障を来すからである。
以上をまとめると、人事院規則では、規模が大きくなっても、職務遂行に支障がなく、公務の公正性及び信頼性の確保に支障がない等承認基準さえ満たしていれば、兼業はOKということになる。
つまり、一般職の国家公務員は、許可を受けて不動産賃貸業を行っているのであり全く問題はないということだ。
ところが、裁判官というのは先述した通り「特別職」の国家公務員である。そしてこの「特別職」の国家公務員は、国家公務員法や人事院規則の規定が直接に及ばない。
この裁判官は「裁判所法」の兼業禁止規定により、アパート経営が「不許可」となったのである。
ちなみに、裁判所法の兼業禁止規定の運用には、明文化された規定はないが、最高裁はこれまですべての申請に対して兼業を許可してきた。但しこれまでの事案は、すべて相続か転勤に伴うリロケーションで、今回のように規模が大きくはなかったとのことである。今回の事案は12室のアパートであった。
最後に全くの余談であるが、今回の事案の裁判官氏は、相続で得た自己の所有地に1億3千万円を借入れて12室のアパートを建て、見込み年収は1100万円だったとのこと。
1室の家賃を計算すると月76,400円、フルローンで建物を建築したとして利回りは8.46パーセント! 建築予定地がどこかわからないためこれ以上のことは言えないが、城南3区であれば良い案件かもしれない(?)。不動産投資家諸氏はどのように考えるだろうか。
健美家編集部