これまで健美家ニュースでもたびたび生産緑地の2022年問題を取り上げてきた。期限が迫るなか日経新聞(5月19日付)が、2022年に生産緑地の税制優遇措置が切れる面積の8割近くの所有者が延長を申請していることが自治体などへの調査で明らかになったと報じた。
これによる賃貸住宅市場への影響は? 不動産投資やアパートオーナーは、アパート経営にこの件をどう活かすべきか? 生産緑地の2022年問題をいち早く指摘していたニッセイ基礎研究所 都市政策調査室長の塩澤誠一郎氏に話を聞いた。

不動産市場への影響は全体としては限定的だが、
エリアによっては賃貸住宅市場に影響も?
生産緑地とは都市圏の市街化区域内の農地のうち、生産緑地法で指定された農地を指す。
生産緑地として指定されている限り、農業を行うことが義務になるが、固定資産税の軽減や相続税の納税猶予といった税制面での恩恵を受けることができる。
1992年に改正された生産緑地法で、生産緑地の指定は30年間とされている。30年後、つまり2022年になると生産緑地指定が解除され、宅地化する土地が一気に増えるのではないかと危惧されてきた。これが生産緑地の2022年問題である。
塩澤氏はすでに2018年3月に「2022年問題の不動産市場への影響〜生産緑地の宅地化で、地価は暴落しない〜」と題したレポートを公表し、生産緑地の宅地化による不動産市場への影響は限定的で、地価が暴落するようなことはないと述べていた。
むしろ、2022年問題は都市から農地が失われる問題として捉えた方がよいと指摘していた。
今回の日経新部の報道を受けて、塩澤氏は賃貸住宅市場への影響を次のように語る。
「今回の新聞報道でも私のレポートでも2022年をめどに1割程度の宅地化が予想されるが、残りは特定生産緑地として生産緑地が維持され、地価が暴落するようなことにはならず、全体としては大きな影響はないと考えています。とはいえ、地域よって多少の違いは生じるでしょう」
たとえば土地値の高い東京都区部などでは宅地化される割合が1割でも、売値や賃料に住宅需要の高さが反映されることが予想される。逆に郊外の土地値の安いところで宅地化され、アパートが新築された場合、空室を増やすことにつながる可能性が想定できる。
特に注意すべきは、賃貸住宅のニーズが少ないところで土地を持っているオーナーが、農地を宅地化して、アパートを新築することだ。空室が埋まらないことも懸念されるため、「より慎重になるべきでしょう」と塩澤氏は注意を促す。
延長の期限は10年、10年後も
同様の問題に直面。2032年問題に備えて
特定生産緑地は10年の期限があるため、10年後にも同様の問題に直面することになる。2022年問題の次は、2032年問題が待っていることになる。
「10年後は、今よりもさらに人口減少が進んでいる可能性があり、さらに賃貸住宅経営は厳しくなっているかもしれません。それを踏まえたうえで宅地化するかどうかを吟味するべきです」
生産緑地を宅地化することよりも、むしろ農地を活かすような形で賃貸住宅経営をしていくほうがこれからの時代には歓迎されるべきだという。
法整備がされた当時と現代では、社会背景も大きく代わっている。
「かつては都市部に農地があることが問題視されていましたが、現代ではむしろ都市部に農地があることを、7割以上の人が歓迎しているとの調査結果もあります。
たとえば、生産緑地を持っている農家は、宅地化しようとする農地をすべて住宅にするのではなく、農地の一部を残して、入居者が農業にふれ合える機会を提供するなど、農地も賃貸住宅と合わせて提供するような形にする方が賃貸住宅の付加価値を高めることになり、地域の公益的な価値を高めることにもつながるでしょう」
たしかに昨今、都市部ではサポート付きで畑が借りられる「シェア畑」などが増え、農地をレンタルする動きも見られている。野菜が育てられる農地付きの賃貸住宅など目新しく、食育に関心の高い子育て世代などに喜ばれそうだ。
生産緑地の2022年問題は、都市部にある貴重な農地を宅地化することよりも、都市部にある貴重な農地を活かす方法を探る方向に視点をずらしたほうがいいのかもしれない。
健美家編集部(協力:高橋洋子)