大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツが運営する「東京お台場 大江戸温泉物語」が9月5日で閉館することが発表された。
事業用定期借地権の契約延長ならず
無念の閉館決定に惜しむ声ーー
同施設は、江戸情緒の中でゆったりと温泉を楽めるテーマパークとして2003年3月に開業。18年間にわたり営業を続けてきたが、公式サイトで閉館の理由を、以下のように説明。
多くの方に親しまれ、楽しんでいただきました「東京お台場 大江戸温泉物語」ですが、東京都との事業用定期借地権設定契約が2021年12月に期限を迎えるため、閉館することとなりました。
当社は、創業の地である「東京お台場 大江戸温泉物語」の営業を継続するための様々な方策を検討し、また模索してまいりました。しかしながら、契約締結当時の借地借家法では、契約の最長期間は20年で延長が認められておらず、誠に残念ながら再契約も叶わなかったため、建物を解体撤去し更地にしたうえで土地を返還する必要があることから、9月5日をもちまして、営業を終了させていただくこととなりました。
年間約100万人以上の来場者を記録し、都民はもちろん、国内外からの観光客に愛されてきた同館だけに、文面から、閉館への悔しさがにじむ。「様々な方策を検討し、また模索してまいりました」と書いていることから、運営元が東京都を相手に事業用定期借地権の延長を求めて交渉していたことが伺える。
事業用定期借地権って?
大江戸温泉はなぜ18年で閉館に追い込まれたのか
この「事業用定期借地権」とは、一体どんなものなのか? 所有権より安く購入することができ、不動産投資家なら一度は見聞きしたことがあるだろう「借地権付き建物」も、借地権の一つ。
事業用定期借地権は、こうした居住用ではなく、事業のための借地権で、現在は最長50年までの契約が可能になっている。しかし、これは2008年の借地借家法改正によるもので、それ以前の契約期間は10年以上20年以下とされていた。
したがって、2003年開業の大江戸温泉は、改正以前の契約期間が適用され、「契約締結当時の借地借家法では、契約の最長期間は20年で延長が認められておらず、誠に残念ながら再契約も叶わなかったため、建物を解体撤去し更地にしたうえで土地を返還する必要がある」と書かれている通り、解体期間も考慮した上で、9月5日の閉館が避けられない事態となった。
借地権を購入し、営業続けるパレットタウン
何が明暗を分けたのか?
実は同施設、「東京お台場 大江戸温泉物語」と銘打っているものの、実際の所在地は、港区台場ではなく、江東区青海2丁目6番3号。
同じ江東区青海の事業用定期借地権に建つ施設として、明暗が分かれる格好となったのが、森ビルと三井物産が1999年に開業した大規模複合集客施設「東京お台場 パレットタウン」だ。お台場エリアのシンボルともいえる大観覧車やテーマパーク型ショッピングモール「ヴィーナスフォート」も、このパレットタウン内にある。
当初、借地権の契約期間が10年に設定されていたため、2010年に施設全体を閉鎖、解体し、更地にして東京都に土地を返還することとなっていたという。
しかし、お台場を代表する商業施設として成功を収めたパレットタウンをわずか10年で解体することには疑問の声が噴出。東京都は2008年、同地を森ビルとトヨタ自動車に814億円で売却すると発表した。
こうして、お台場のシンボルである観覧車は解体を免れ、2018年には森ビルが「森ビルデジタルアートミュージアム:エプソン チームラボボーダレス」を新設すると、開館から1年で世界160以上の国と地域から、約230万人が来館するお台場の新たな観光名所となった。
パレットタウンは国内外からより多くの来場者を集める商業施設として、今も成長を続けているのである。2025年には、大型複合アリーナや新たな商業施設の開業も予定されている。
中国人ら外国人観光客が大型バスで大挙して来館し、お台場のインバウンド需要を支えてきたのは、大江戸温泉も同じである。事業規模やお台場という街区の景観に与えるインパクトの違いはあれど、なぜこちらは契約延長や土地の払い下げの合意に至らなかったのか。
「それが借地権」と言われればそこまでだが、運営側にも、同施設のファンにも、残念な思いが残る。
同じ江東区豊洲の豊洲新市場に隣接する都有地を事業用定期借地権方式(50年間)で貸し出し、民設民営で2023年春の開業を目指す「千客万来」の運営事業者が、大江戸温泉と同様、全国に温浴施設を展開する万葉倶楽部株式会社であることが影響しているのではないかという見方もある。
千客万来にも24時間営業の温泉・ホテル施設が新設されることが、東京都の公式サイトでも発表されている。
健美家編集部(協力:大崎良子)