渋滞緩和を実現する新交通システム
「自走型ロープウェイ」の研究が進む
横浜市の桜木町駅前と横浜ワールドポーターズ前を結ぶロープウェイ「YOKOHAMA AIR CABIN(ヨコハマエアキャビン)」が2021年4月より運行を始め、新しい観光の目玉として話題を集めた。
YOKOHAMA AIR CABINは観光要素が強いが、渋滞を軽減する公共交通機関として都市型ロープウェイを研究している会社がある。自走型ロープウェイを開発するZip Infrastructure株式会社の「Zippar」は、日常の足としての活用が期待される乗り物だ。

特徴は既存のロープウェイやその他の公共交通と比較して、低コストで建設できること。例えば、YOKOHAMA AIR CABINは1kmあたりの建設費が約100億円とされている。それに対し、Zipparは1kmあたり約15億円での建設が可能である。
運賃はバスと同じか
それ以下の手軽な金額を想定
建設費は運賃にも転嫁されるため、YOKOHAMA AIR CABINの運賃はどうしても高くなる。一方、Zipparは建設コストも安価なため、少額運賃での運行が可能となる。

運転手が不要な点もコスト低減に寄与する。国土交通省の調査によると国内の路線バスの多くが赤字となっている。ネックとなるのは運転手の人件費だ。
Zipparはオンデマンドで運行できる上、旅客需要に応じて乗車人数の異なる3種のゴンドラを用意できるため、運行コストを必要最低限に抑えられる。
また一般的なロープウェイと違い、ルートを自由に設計できる点も強みだ。従来のロープウェイは駅と駅を直線で結んでいる。

横浜のロープウェイが道路ではなく運河の上を通っているのはそのためだ。Zipparは自走型であり、またロープとゴンドラが独立して、カーブや分岐を自由自在に設けることができるため、柔軟な路線を設計することができる(特許取得済)。

これにより道路の脇に支柱を立てたり、既存のビルなどの構造物に停留所機能を持たせるなど、柔軟な設計ができるのだ。
2021年2月国土交通省から普通索道の一種と認められ
4月にカーブ・分岐ができるロープウェイとして特許を取得
「2021年2月には、国土交通省からZipparを普通索道の一種としてみなすという正式な回答を得ました。4月には特許査定も出ています。
既存の公共交通と競うのではなく、相乗効果を発揮できる使い方を模索し、渋滞・混雑を軽減することが我々のミッションです。
既存の公共交通がカバーできないエリアでの活用に加え、例えば、大規模工場・湾岸エリアの施設や商業施設の出口から駐車場・駅までの区間など、人の流動が大きい場所での利用も提案しています。
現在は8以上の自治体や企業と商談を進めているところです」とZip Infrastructure株式会社のCOO、池谷 和洋さんは話す。
2025年からの運行スタートを計画しており、大阪で行われる「2025年日本国際博覧会」でお披露目したいと考えているそうだ。
次世代交通システムの開発及び
まちづくりへの活用に関する連携協定を秦野市と締結

神奈川県の中西部、人口16万人の秦野市には、全国の地方都市と同じく、少子高齢化や人口減少といった課題があるという。
市内には小田急電鉄の駅が4つあり、駅周辺にはそれぞれコンパクトな市街地が形成されている。2022年3月に新東名高速道路の秦野市の区間が開通し、市内にインターチェンジもできる予定となっており、人を集めるポテンシャルは十分にある。
秦野市 環境産業部 はだの魅力づくり担当の遠藤さんは「秦野市は百名山にも選ばれている丹沢の麓にあります。カルシウム豊富な鶴巻温泉、全国名水百選美味しさ部門第1位の名水も自慢です。
シビックプライドを醸成すると同時に、市外から何度も足を運んでもらえる街にしたいと、私たちは常々考えてきました。
観光資源へのアクセスにおいて、山地の移動手段が課題であると考えていたところ、たまたま新聞でZipparの特集記事を見て興味を持ち、こちらからコンタクトを取ったのです」と話す。
既存の公共交通を「つなぐ」ことで
シナジーを生み出すことが狙い
ちょうどZip Infrastructure株式会社が、Zipparの安全性を実験する場所を探していることもあり、秦野市内で適地を探すことに。2021年6月29日には、次世代交通システムの開発及びまちづくりへの活用に関する連携協定を締結した。
Zipparの建設では大規模な開発を必要としないため、既存の構造物や自然を守りながら、交通利便性を高められると期待されている。
運行が実現すれば、観光地へのアクセスが向上するだけでなく、生活の足として機能し、電車やバスがカバーできないエリアの利便性を高められるだろう。新しい公共交通が街のプレゼンスを向上させるのはよくある話だ。
「ゆくゆくは地元の小田急電鉄や神奈川中央交通をはじめとする交通事業者と連携し、相乗効果を発揮することで、街の魅力をより高める使い方ができればと考えています」と遠藤さん。
まちづくりの挑戦は、まだ始まったばかりである。秦野市とZip Infrastructure株式会社の取り組みを、引き続き注視していきたい。
健美家編集部(協力:外山武史)