「仮想不動産」5億円で購入、100の島を開発し販売
有名ラッパーが仮想の豪邸建設、住宅ローンも
最近、メタバースという言葉をよく耳にするようになってきた。インターネット上に3Dコンピューターグラフィックスなどを使って再現した仮想空間のことで、自分の「アバター(分身)」で参加し、買い物したりイベントに出たりできる。
実は米国では、メタバース内で「仮想不動産」取引が過熱しており、最近、5億円規模での高額売買が話題になった。日本も将来、必要な制度整備が行われればメタバース内での不動産投資が広がるかもしれず、リターンとリスクをしっかり理解しておくことが重要だ。
昨年11月に話題になったのは、米国のメタバース「ザ・サンドボックス」内の土地を、バーチャル空間での不動産開発を手掛ける会社が420万ドル(約5億2460万円)で購入したニュースだ。
この会社は、買った土地に100の島を開発し、1つ1万5000ドルで販売をスタート。今は1つが約30万ドルまで値上がりしていると報じられている。サンドボックス内には、有名な米国人ラッパーが仮想邸宅を建てるなどもしているという。
「サンドボックス」以外のメタバースでも、同じ動きがある。メタバース「ディセントラランド」内の不動産を購入するため、住宅ローンを提供する企業もあらわれたという。
メタバース内での不動産取引はものすごい勢いで広がっており、今や昨年1年間のメタバース内での不動産取引額は5億ドルに上ったとの報告もある。
メタバース内の不動産を購入する主な目的は、実社会と同じといえる。一つは値上がりを狙う売却益狙い、もう一つは仮想の店舗などに土地を貸すことによる賃貸収益狙いだ。
アバターで参加し、買い物やイベント参加が可能
VRゴーグルがあれば没入感 2028年に100兆円市場へ?
ここでメタバースとは何かを簡単にみておきたい。
メタバースは、英語の「メタ」(超越)と「ユニバース」(宇宙)を組み合わせた造語だ。米フェイスブックがメタバース事業に力を入れるため、昨年「メタ」と会社名を変えたことから注目されるようになった。
ネット上に3Dコンピューターグラフィックスや仮想現実(VR)を使って再現した仮想空間で、アバターでその中に入り、動き回ったり、買い物したり、イベントに参加したりする。

利用者はVRゴーグルを使えば、現実にその空間にいて体験しているような没入感を得ることができる。
日本のメタバースでも東京や大阪の街が再現されてその中を歩き回れたり、実際のお店で買い物できたり、ほかの人とアバターを通じ音声で会話したりすることができる。企業の参入も相次ぎ始めており、メタバース内でIT家電の見本市が開かれるなどの動きもある。メタバース関連市場は2028年に約100兆円まで成長するとの試算もある。
価格は急上昇・急下落でハイリスク・ハイリターン
支払いに使う仮想通貨の価格乱高下にも注意を
日本ではまだ目立った動きはないが、米国と同じく、メタバース内で不動産売買や不動産投資が広がる可能性はある。
ただ、そうなった場合はかなりのハイリスク・ハイリターンなので、関わる場合「覚悟」が必要だ。

米国の例で分かるように、仮想土地の価格はあっという間に10倍、20倍に跳ね上がるのはざらだ。
逆にあっという間に値下がりし、価値がほとんどゼロになるリスクも頭に入れておかなければならない。
実世界の場合、土地の価格が下がったとしてもゼロになることはなく、(面積にもよるが)数百万円、数千万円の価値が残るのが普通だ。
だがメタバースの場合、来る人がほとんどいなくなり、そのメタバースが滅んで≠オまえば、土地の価値もゼロになる。ミドルリスク・ミドルリターンである実世界の不動産投資とは、まるで性質が違うのだ。

代金の支払いが基本的に仮想通貨(暗号資産)で行われることも、ハイリスク・ハイリターンの要素だ。
たとえば仮想通貨の単位での価格が同じであるままの仮想不動産であっても、日本円に引き直した仮想通貨の価値が2倍になれば不動産の価格は2倍になるし、価値が半減すれば不動産の価格も半減する。すなわち、仮想通貨の価値の乱高下に、仮想不動産の価値も引きずられるのだ。
一方、メタバースでの不動産投資が日本で広がるには、法整備というハードルがいくつか立ちはだかるかもしれない。たとえば、日本では実体のあるモノの所有権しか認められていないため、仮想空間での不動産の所有権をどうするのか、といった問題が浮上するかもしれない。
メタバースは、不動産投資家にとってビジネスチャンスになる可能性がある一方、大きなリスクになるかもしないといえる。今後の動きを注視していきたい。
取材・文:
(おだぎりたかし)