世界的に半導体が足りていない。分かりやすいのは車だ。これまでであれば購入から納車までは1カ月程度、人気の車、特殊なオプションを付加するなどの場合でも量販車であれば半年までかかることは珍しかった。ところが今や1年待ちはよくあること。車種によっては3年、4年待ちも聞く。
この要因のひとつが半導体不足。スマホやパソコンなどあらゆる家電製品に使われる半導体は産業の米とも呼ばれ、コロナ禍での巣ごもり需要でのIT製品の爆発的な売れ行きなどの要因から世界的な奪い合いに。
車はあまり売れなくなるだろうと見ていた自動車部品メーカーは半導体の注文を減らしており、販売の急回復に追い付けていない。さらに米中対立の影響、環境政策の影響などを指摘する専門家もいる。
しかも、この半導体不足はしばらく続くと見る専門家も多い。今後さらにデジタル化、脱炭素化が進む中では自動運転、省エネなどの推進のために半導体のニーズはさらに高まるはず。増産体制が進んだとしても、それ以上にニーズが高まれば、不足は解消されないというわけである。
半導体製造で注目を浴びる岐阜県大野町
そんな状況の中、国内の半導体製造で注目されている地域がある。ひとつは岐阜県大野町、そして、もうひとつが熊本県菊陽町である。
前者は情報端末向け高密度プリント配線板、ICパッケージ基板、DPFなどを主力にする技術開発型企業イビデンが過去最大の15万uの土地を取得、2026年度以降の増産を目指す新工場の建設地である。
同社はその前に大垣市内の事業場の建て替えを実施、増産体制を強化する方針だが、それだけでは足りないという判断である。
こうした工場では1棟あたり1000人ほどの人手が必要とされると言われており、地元の大野町の人口は2022年7月1日現在で2万2163人。同町ではこれまでは人口減少が続いてきているが、これを機にと考える人がいるのは当然だろう。住宅のニーズもまた、である。
だが、今のところ、大野町の地価は下落傾向が続いており、工場建設の影響はまだ見られていない。
大野町は大垣市の北、本巣市の西側にあり、根尾川、揖斐川に挟まれた三角地帯が中心の細長い町。大垣市からは車で20〜30分の距離だが、鉄道駅、インターはない。
名産は富有柿、バラの苗ということからすると農業中心の町ということだろう。今後、計画が具体化していった時にどうなるか、変化が気になるところである。
熊本県菊陽町の路線価は前年比5%増
もうひとつ、熊本県菊陽町は2020年に半導体受託生産世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)の進出が決まっており、2022年の路線価は前年比5.0%上昇した。
だが、この上昇はTSMC以前からだと菊陽町の北にある菊池市で建築と不動産を手がける(一社)全国古家再生推進協議会認定古家再生士の平川隆男氏。
菊陽町は熊本市の東、市の中心部から約15キロほどの位置にあり、南に益城町がある。
熊本空港のターミナルは益城町にあるが、滑走路は菊陽町にあるといえば距離感がお分かりになろうか。九州自動車道の熊本インターからも20分ほどであり、自動車利用でも、飛行機利用でも便利な立地である。

元々は畑しかなかった場所だが、1969(昭和44)年の九州自動車の着工を機に県住宅供給公社が武蔵ヶ丘団地の造成を計画、2002年から分譲が始まり、2004年に大型ショッピングセンターゆめタウン光の森がオープン以降は店舗、住宅建設が一気に加速。それに伴い人口増加が続いてきている。
住宅だけでなく、工場も次々に進出している。1983(昭和58)年に東京エレクトロン(現東京エレクトロン九州)が操業を開始したのに始まり、ファナック、名古屋精密金型、林兼デリカ(現マルハニチロ九州)の工場が立地、工業都市としても発展を続けてきた。
世界最大TSMCの進出で賃貸住宅建設が急増
「住宅が増え、勤め先として工業団地も増えるという好循環で人口が増え続けてきた地域で、今後、工業団地は2040年くらいまで増える予定です。そこにコロナで市内中心部からの移住の流れが出てきています。
バスで30分ほどとさほど遠くありませんし、菊陽町内にも商業施設はあります。さらに今度はTSMCの進出。地元及びその周辺では浮足立つと言っても良いほどの状態が続いています」と平川氏。
菊陽町の広報誌によると、TSMCとソニーセミコンダクタソリューションズが共同で工場を建設することになっており、投資額は約8000億円。約1500人の雇用が生まれるとの予想で、2024年末までには工場が稼働するとか。立地するのは町が整備した第二原水工業団地で、敷地は約21.3ヘクタール。
現状、分かっているのはそこまでで、実際にどんな人が、どのくらい来るのかその他、詳細はまだ分かっていないが、地元ではこれにどう乗るかが最大の関心事になっている。
そのため、菊陽町では何十棟もの、主に単身者向けの賃貸集合住宅の建設が進んでおり、マンション、アパート用地の取引も増加。ある種バブルの様相を呈し始めている。
平川氏のオフィスのある菊池市は菊陽町からは車で30分ほど離れており、そこまではまだ地価の影響はないが、菊池市や大津町、合志市など近隣自治体の畑所有者には宅地を探しているとの営業がどんどん入っている。
行政もこれに乗り遅れるなとばかり、地元の不動産業者と今後についての協議を行うなど、開発を睨んだ動きが始まっている。
高いもの、ヨソと同じものに投資して良いのか
だが、と平川氏。足元の空き家をほったらかしで良いのか、そのあたりが疑問だという。また、これだけの規模の開発となると個人ではなく、法人の、資本力のある企業が乗り込んできており、地価も上がっている。
わざわざ高くなっているものに投資する必要はないのではないかとも。具体的なニーズに合わせての建設ではないため、均質な、よくあるワンルームアパートなどが大量に建設されているが、本当に必要とされるのはそれだろうか。
「今後、外国人も多く入ってくるものとみられます。大手企業だけでなく、その関連企業の人たちが入ってきた場合には大きな住宅を借り上げて数人が住むシェアハウスのような形態が想定できますし、そもそも集合住宅でなく、一戸建てに住みたいという人もいるはず。
均一な住宅が供給の中心になっているのなら、逆張りで個性的な住宅、多様な住宅を供給するほうが個人オーナーにも勝ち目はあるのではないでしょうか」。
その平川氏が扱っているのは熊本市を含めた県北エリア。具体的には菊池市、山鹿市、大津町などが中心で、このあたりには意外に道路付けの悪い物件があるという。
車がないと不便な地域だが、道路の整備が遅れており、軽がやっと入る、家のすぐ近くまでは車で行けるがほんの少し入れない場所があるなどいった住宅が残されている。
「再建築ができないため、手が付けられていない一戸建ても多く、安いものなら100万円くらいから。中心となっているのは200〜300万円、高くて400万円でしょうか。専有面積は100uくらい。もっと大きな物件もありますが、建物が大きくなると改修費が嵩むため、これまではあまり扱ってきていません。ただ、今後、シェアハウスのニーズが出て来るようならあり得るかもしれません」。
改修費は100〜400万円といったところ。物件と合わせて500〜550万円くらいの投資が中心というところだろうか。それに対して賃料は5万円から5万5000円。賃料に関しては熊本市も含め、あまり地域差はない。
熊本市内のほうが高いのではと思うが、熊本市内は競争が多いため、家賃はあげにくく、そのため、それほどの差が生じていないのだという。利回りは12%前後ということになる。
「このエリアでは住宅を貸すという感覚がなく、そのために放置される空き家が少なくありません。その結果、手放したいと思っても手放せなくなっていたり、管理が負担になっている物件も。それが投資家の手に渡ることで負担がなくなり、手放せるようになるのは所有者にとってもメリット。古家の活用は地域の空き家問題解決にも繋がる、社会貢献度の高い投資だと思っています。
幸い、このエリアでは今後、住宅ニーズが高まっていく可能性があります。菊陽町からどの範囲まで波及するかはこれからですが、集合住宅と違い、庭もあり、ペットも飼える一戸建てのニーズは一定数あります。駐車場が付帯していなくても周辺で借りられるので問題はありません」。
工場ができる菊陽町でアパート経営をするのがおそらく王道なのだろうが、状況を聞くと個人の投資家にはややハードルが高い様子。であれば、周辺で手の出るところで投資を考えるのは現実的かもしれない。
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健美家編集部(協力:
(なかがわひろこ))