難色のある土地を安く仕入れて、他にはない一風変わった建築で、住む人を魅了する一級建築士事務所ビーフンデザイン代表の進藤強さん。
前編では、進藤さん自身も不動産投資家として、収入が不安定な起業当初から投資を始め、16の収益物件を手に入れ、収入の軸を築いた話を紹介した。後編では、これから不動産投資で生き残る術を紹介する。

建築家として20年のキャリアのなかで
失敗する不動産投資家をたくさん見た
新築8棟、中古7棟、区分1戸と、計16の収益不動産を手に入れてきた投資家でもある進藤氏。建築家としては20年程のキャリアを持ち、地主や不動産投資家などから依頼を受けて、多くの魅力的な賃貸住宅を手掛けてきた。
進藤氏のもとには賃貸住宅に関連して、日々、さまざまな相談が持ち込まれる。特に最近では、個性的な不動産を紹介して人気の建築系YouTube「ゆっくり不動産」に登場し、100万回以上再生される動画もあり、動画を見た人からの問い合わせも急増している。
そんななかで進藤氏が危惧しているのが、不動産投資を始めたいサラリーマン大家の存在である。昨今では地主のほかに、二代目大家や税理士や弁護士なども不動産投資に参入し、プレイヤーがあふれている。
しかも今はシェアハウスへの不正融資問題などの影響で、サラリーマンが融資を受けづらくなっている。以前のように、サラリーマン大家が戦える市場でなくなっているという。
「土地情報を持ってきて、『ここにアパート建てたい』という投資家の6割が、シミュレーションが甘いのです。小さい部屋をたくさん作って家賃8万で貸すようなプランは、もはや通用しません。10年後もその場所でちゃんと戦えるのか、もっと真剣に考えるべき。ラーメン屋をやるなら、味や店構えなど真剣に考えるはず。どうしてアパート経営となると業者任せになるのか?」
相談に訪れる投資家が持ってくる土地は、「駅から近い」「道路付けがいい」など条件がいいものが多い。言い換えれば、土地値が高く、利回りが低くなるものである。
「圧倒的に土地値が安ければなんとかなります。まさに僕の手法。みんなが買わない土地を買う方法。戦略的に駅から遠い土地など、難ありの土地を買います。駅から徒歩10分超えてもいいから、安く土地を仕入れて、そこにすごく面白い建物を建てようと言いたい」
建築家に依頼するとハウスメーカーに依頼するより建物は安くなるが、建売の賃貸住宅のメーカーよりは高くなる。それでも10〜20年後も家賃が下がらない面白いものを建てるべきだという。
「コンビニエンスストアは駅から近ければ近いほど繁盛しやすい。賃貸住宅も同じく、似たようなものであれば駅近が選ばれるのは当然です。ただ駅から遠くても、そこにしかない魅力的な賃貸住宅であれば、入居者は必ず入ります。そんなことを言っているから、変態建築家といわれています(笑)」

サラリーマン大家は苦難のとき。
融資が厳しい状況でできることは?
サラリーマン大家への融資が厳しい状況が続いている。進藤氏の事務所では賃貸住宅の設計プランの提案だけではなく、金融機関を巡って、融資づけのサポートまで行っているため、融資の近況にも詳しい。
「金融機関は投資ではなく、経営ができるかどうかを判断します。経営者としての資質があるかどうか。経営ができると判断されれば、1棟6〜8室ぐらいの規模くらいなら融資を受けられます。逆にいえば入居者6〜8人を見つければいい。自転車が好きな入居者にターゲットを絞り、自分でブログを作ってファンを募り、入居者を探すくらいのつもりでやってみたらいい」
大事なことは、どこにでもあるようなものを作らないこと。建物で勝負できないなら、自分でブログを作ってファンを作ったり、ご飯を作ることが好きなら、それを活かしたサービスを提供したり、ソフト面で充実させる方法もある。
「入居者の満足度を上げれば入居率も比例して上がり、結果的にお金につながります。不動産は趣味の延長でやったら、結果的に儲かったという感覚でやったほうがいい。
自分の趣味や嗜好と混ぜていかに特化した賃貸住宅を経営していくか。多少失敗しても自分の好きなことなら、失敗にはならず、リカバリーでき、多少の変化にも対応できるでしょう」
場所を貸す時代から、体験やコミュニケーションなど
人的資産をも貸す時代に
「個人的にBBQやお酒が好きで、入居者と一緒にBBQをしたり、お酒を飲んだりして、仲良くなります。そうすると退去が減り、入居者といい関係ができます」
手掛けた物件の管理は「スマイル不動産」で行い、21年から仲介や売買も行う予定だ。建築家が自ら建てた賃貸住宅を案内すると住まいの魅力がダイレクトに伝わり、入居が決まりやすい。

進藤氏がいま手掛けているのが、不動産投資や賃貸住宅経営に対応できる「経営者」を育成できるような、1棟まるごと不動産や建築界隈の人間が入居できる新しい住まいである。
1階は、いわゆる建築・不動産業界のトキワ荘をイメージした学べるシェアオフィス「スマイル シェアヨヨギ」に。
2〜3階は2戸をひとまとめに貸し出す「ニコイチ」の間取りで、入居者は1戸に住みながら、もう1戸を自由に運用する。住みながら経営を学べる「経営塾」となり、小さく不動産経営を始めることができる仕組みだ。
シェアオフィスでは、土地情報が出たら、建築家がすぐにプランを立てて、投資家がそれを見て買いつけを入れられるようなネットワークを構築する考えだ。
新たな挑戦を仕掛ける進藤氏の姿に刺激を受ける投資家も多いのではないだろうか。
健美家編集部(協力:高橋洋子)