少額現金でも始められる可能性のある築古戸建投資。戸建のDIY再生でFIREを目指したいと考えているという方も少なくないだろう。
だが、自己資金の多い方や相当仕入れの上手な方でもなければ、次々と物件を増やしていくことは容易ではない。家賃を貯めて再投資するサイクルがテンポよく回り出すまでには、それなりの時間を要するだろう。
そこで今回は、戸建専門でじっくりと規模を拡大してきた不動産投資家の新型NOBU-NAGAさん(加藤ひろゆきさん命名。以下、新型さん)に戸建投資のリアルについて話を伺った。
新型さんは和歌山県在住の40代。ファイナンシャルプランナー(FP)として顧客の資産防衛、資産形成をサポートするかたわら、不動産賃貸業を営んでいる。これまでに19戸の戸建を和歌山市を中心とするエリアで購入してきた。
詳しくは後述するが、新型さん自身が所有権を持つのはそのうち7戸。その他の物件は管理者という立場をとっており、賃料と管理料であわせて月に50万円ほどの収入を得ている。
若いときはマネーリテラシーがまったくなかったという新型さん。製造業のサラリーマンとして勤めていた22歳の時、実家の建て替えにあたり親子ペアローンを組んだことで、若くして数千万円の借金を背負うことになる。
はじめは順調に返済していたが、会社が業績不振に陥り、それまで30万円ほど貰えていたボーナスが5万円になるなど厳しい展開に。
「このまま会社に勤めていても明るい未来は見えないということで思いついたのが、好きだった音楽の道に進むことでした」
音楽で成功を目指しミュージシャンの道を進むも
厳しい現実の前に苦汁を舐める日々

ミュージシャンとして名を上げて稼ぐべく、24歳の時に彼女(現在の妻)を連れて上京。しかし現実は厳しく、鳴かず飛ばずの「玉砕」だったという。
「売れないまま30歳になり、彼女の両親から結婚も大反対されて、どん底でした。親から和歌山に戻って来いと言われましたが、合わせる顔がないですよね。とてもまっすぐ帰れるような状態じゃありませんでした」
東京を離れた新型さんが再スタートのために向かったのは、父のルーツがある三重県。田舎の山奥に移り住み、水道設備会社の正社員として勤めるなかで、とあるFP(ファイナンシャルプランナー)と営業先で出会ったことが人生の転機となった。
「営業に行ったはずが、お金や保険の仕組みについて逆に教えてもらい、家計改善のアドバイスまでしてもらうことになって。こんな仕事があるのか!と衝撃を受けて、自分もFPになりたいと思って弟子入りさせてもらいました」
仕事終わりに勉強を続けて、子どもが生まれたタイミングでFPとして独立。はじめの半年は無収入で苦しんだが、皿洗いのバイトでしのぎつつ、少しずつお客さんをつけていった。
不動産投資と出会ったのもこの頃。お金の本を読み漁る中で、『金持ち父さん貧乏父さん』や、加藤ひろゆきさんの『借金ナシではじめる激安アパート経営』などの書籍に辿り着いた。
「金持ち父さんでは抽象的な話も多くピンと来ない部分がありましたが、加藤先生の本には不動産投資の『呼吸』が書かれていました。現場での業者とのやり取りや買い付けの様子など、具体的な描写で情景がイメージできて、自分も不動産を収入の柱にしたいと思うようになりました」
新型さんが実際に物件の購入に至ったのは2014年、地元の和歌山に戻ってきてからのことだ。定点観測していたポータルサイトに380万円で売りに出ていた戸建に250万円で買い付けを入れ、少し押し戻されて275万円での成約となった。

購入後はDIYでリフォームを施し、仲介業者へ客付けを依頼するものの、入居がつかないまま8ヶ月が経過。最終的には自ら近隣に自作のチラシを撒き、その反響から入居づけをすることができた。
家族や親しい人と交互に物件を購入
管理を受託して買えない時期でも前に進む
冒頭でも触れたが、これまで新型さんが手がけた物件のうち、自身の所有物件としているのは7戸のみ。あとはリフォームや客付けまで済ませて自身の父や弟、そしてなんとFP業の方で付き合いの深い顧客にまで譲っているというから驚きだ。
「不動産屋さんからはどれだけお人好しなんですか、とか、次は誰の物件買うんですか、とからかわれます(笑)。でも、目の前に物件があっても現金が無くて買えないこともあるじゃないですか。そんな時に家族や、FPで食えない時期に助けてもらったお客様にパスする。そしてリフォームや管理を任せてもらうことで、自分も少し分け前をいただいています」
つまり自分の物件→家族や顧客の物件→自分の物件と購入サイクルを回すことで、買えない時期でも自己資金や経験を積み増していくことができているということだ。
「この方法はドルフ・デ・ルース先生の書籍の教えを自分なりに実践したものです。でも最近は自分も買えるスピードが早くなってきて、自分で買いたいなあと思いつつ泣く泣く譲ることもあります(笑)」
新型さんは和歌山市とその近郊にて、平均で200〜300万円で戸建を購入し、リフォームには30〜60万円ほどかけている。家賃は5〜6万円なので、表面利回りは20〜25%ほどで仕上がっている計算だ。
「大体これぐらいの数字で回るように物件の選定をしています。経験が増えてきたので、リフォーム費用も購入前におおよそ分かるようになりました。少なくとも15%で回ると判断すれば、購入の土台に乗ってくるイメージです」

リフォームは主にDIYで行い、リビングなど生活のメイン導線となる箇所や、水回りやドアノブといった手が触れる箇所を中心に、メリハリを利かせながら実施する。
最初の頃はフローリング貼りで壁の隙間が巾木で隠せないほど大きく空いてしまったり、ついつい過剰リフォームをしてしまって妻にたしなめられたりと、失敗も多かったという。あらゆるリフォームを難なくこなす今の新型さんからは想像もつかないが、最初は誰でも初心者ということだ。
愛車のレクサスが入らない物件は買わない?
独特のこだわりが入居者のメリットにも

そのほか、新型さんならではの物件購入の判断基準として、愛車のレクサス(LS600hL)で楽に物件の行き来ができるかどうか、というユニークな指標がある。前面道路や周辺道路は狭くないか、対向車と余裕を持って離合できるか、駐車場の出入りはしやすいかなど、愛車を運転しながらひとつひとつ確かめるという。さながら物件オーディションだ。
「過去にLSが停められない物件を買ったときは、離れた駐車場からたくさんの道具を抱えて行き来するのに非常に面倒な思いをしました。DIYで疲れ切った後でも、目の前の愛車に乗り込んでシートに身を預ければ、疲れもたちまち癒される気分です。大型のLSが駐車できるということはほとんどの乗用車が大丈夫なので、入居者様にとっても車の出し入れのストレスがないと思います。そのおかげもあってか、一度入ったら退去はほとんどありませんね」

過去に数々の失敗や挫折を経験し、「俺の人生、こんなはずじゃない!」と悔しさに叫んだこともある新型さん。だが、不動産投資と出会って10年ほど経った今、自分の裁量で好きな仕事に打ち込みながら、愉快な仲間や愛する家族との大切な時間もしっかりと確保することができるようになった。不動産投資を通じて、人生のハンドルを自分の手元に取り戻すことができたという。
「気兼ねなく家族旅行に行けて子どもたちに良い景色を見せてあげられるのが嬉しいし、節約節約で苦労をかけた妻が『スーパーで買い物をする時に美味しそうとか、健康によさそうとか、安さよりも品質で選べるようになった』と喜んでくれているのも嬉しい。不動産仲間、LS仲間との楽しい時間も幸せだし、みんな、おじさんだけど子どものように純粋な笑顔なんですよ(笑)。本当に不動産に感謝です」

最後に、これから不動産投資へのチャレンジを目指す初心者へのアドバイスを聞いた。
「いきなり不動産を始める前に、まずはお金の勉強、たとえばFPの勉強から始めてみてもいいかもしれません。FPの資格なんて意味がないという人もいますが、税金や保険をはじめお金について網羅的に学べますし、不動産投資をする上でもこれらは必ずついて回るものなので。あとは小さく始めて、失敗しながら軌道修正していくのがいいですね」
健美家編集部(協力:
(たまあらい))健美家編集部(協力:
(たまあらい))