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木造で35年融資。省エネ性能、内装、間取りにこだわって成功。SUUMO編集長が建てた満室アパートに学ぶ【後編】

不動産投資全般/投資家インタビュー ニュース

2022/03/14 配信

家具の配置を見てもらうためにモデルルームを用意
家具の配置を見てもらうためにモデルルームを用意

2021年12月にモデルルームを設置。2月の竣工時には全15戸中14戸が申込済みで、賃料は当初想定よりも数%アップと、初めての賃貸住宅建設にさすがの結果をはじき出した、不動産・住宅情報サイト『SUUMO』編集長の池本洋一氏。どうしたら、それだけの成功を収められるのか、ご本人の解説から学んでいこう。

劣化等級を最高等級にすることで35年返済に

今回、池本氏が建築したのはさいたま市内に立地する木造3階建ての共同住宅。土地面積は約70坪(約230㎡)、建物面積は約110坪(約363㎡)となっており、住戸は22㎡台~26㎡台までの15戸。賃料は共益費と合わせて6万5000円から7万4000円。間取りとしてはワンルーム、1Kが混在、すべてが少しずつ異なる間取りとなっている。

2021年に着工、2022年2月上旬の竣工を前に2021年12月下旬からモデルルームを2室設置して募集を開始。2月の竣工時には101号室を除く全15戸のうち、14戸に申し込みがあり、見学に訪れた2月24日の時点ではすでに3戸が入居済という状況だった。

【前編】では、土地選びから設備、間取りのバリエーションまでを紹介した。【後編】では、成功の要因はいろいろある中、融資とそれを可能にした建物の性能、間取り・デザインへのこだわりについて説明しよう。

「木造の賃貸住宅だと長くて30年、あるいは25年というのが一般的ですが、いくつかの銀行を回った結果、35年の融資を受けることができました。ヨーロッパでは賃貸でも50年の融資がありますが、それに比べると日本は短い。長くするための条件は住宅性能表示制度で劣化等級3の取得でした」。

住宅性能表示制度はご存じの通り10項目から成っているが、そのうち劣化等級は柱や土台などの耐久性を指しており、木造の場合は主に土台や柱が腐らないようにするための対策、鉄筋コンクリート造の場合は主に柱や梁のコンクリートが脆くならないための対策、鉄骨造の場合は主に鉄の部分が錆びにくくする対策が評価される。

この項目については等級を2にすることで30年の融資が可能になると認識している投資家も多いだろうが、等級3であれば35年もあり得るというわけだ。

「35年になったことで経営が楽になりました。家賃収入に対する返済額が少なくなることで高品質化に向けた追加投資ができます。25年融資だと家賃収入と返済がかつかつになり、このような品質アップ、差別化投資は難しいかと。また、返済が楽になって貯まるであろう自己資金を使い、次は賃貸の不満度ナンバーワンである遮音性をより意識した物件を木造で建てたいなと思います。難易度は高いみたいですが」。

省エネ性能アップで長く住んでもらう

住宅の性能という点では省エネ面を見ておこう。住宅の省エネを考えた時には壁・床・天井の断熱材、給湯器等のエネルギー設備、窓の断熱の3点がポイントになると池本氏。そのうち、窓については見学時にもこだわりを見てもらえることから、同物件では樹脂のペアガラスを導入した。

断熱については床下、外壁の断熱材ネオマフォームを45ミリから60ミリに変更した。それ以外の天井断熱、1階・2階の天井裏断熱は当初予定通りで一般的なもの。給湯器はガスの従来型給湯器を採用している。

つまり、窓、床下・外壁の断熱のみレベルアップしたということになるわけだが、それでも国が定める一次消費エネルギー水準を2割下回り、ZEH(ゼロエネルギーハウス)水準を達成。賃貸ではほとんどないレベルの省エネ性能を満たした住宅ということになった。

この点については入居者が高く評価している。池本氏は入居者にヒアリング・アンケートを取っているのだが、すでに数名から回収しており、うち1人が窓の性能について「窓、ヤバいです」とコメント。実家、賃貸住宅にそれぞれ居住のある女性で、エアコンを26~28度に設定したところ、暑くなり過ぎ、エアコンを切っても寒くないというのだ。

「入居直後のお部屋を見せていただいたのですが、日差しを遮りたくないからと薄手のレースに近いカーテンが一枚かかっているだけ。それだけで十分というのです、効果の高さが分かります」。

取材には2月の20日過ぎの、もっとも寒い時期にお邪魔したのだが、エアコンの付けている部屋はもちろん、切っている部屋でも極端な寒さを感じることはなかった。

これによって長く住む人が増え、退去を減らせれば経営的には大きなプラス。これから建てる人なら省エネ性能アップは検討しても良いのではなかろうか。
内装デザイン、水回り設備充実で女性のハートを掴む

こうした色、柄使いはさすがプロならでは。アクセントウォールから建具、床、キッチンやサッシの色目と非常にバランスが良く、美しい
こうした色、柄使いはさすがプロならでは。アクセントウォールから建具、床、キッチンやサッシの色目と非常にバランスが良く、美しい

内外装のコーディネートは夏水組の坂田夏水氏に依頼した。全体のコンセプトはナチュラルノルディックとし、1階は白を基調にすっきりしたシャビーホワイト、2階はきりっとしたナチュラルネイビー、3階は流行りの色合いのノルディックブルーグレーと階ごとに異なる雰囲気となっている。

居室のアクセントクロス、ドア、キッチン、水回りの床、サッシと細かいところまで色のバランスが考えられており、さすがはプロの仕事と感嘆した。池本氏も「分かっていない素人が内装を考えてもダメですね」と語る。建具はパナソニックのクラフトレーベルを採用している。

キッチンに加えてドアも見ていただきたい。この少しの違いを若い層は敏感に感じ取る
キッチンに加えてドアも見ていただきたい。この少しの違いを若い層は敏感に感じ取る

キッチンはトクラスの製品で、ガスコンロ2口のものを採用した。ソフトクローザー機能があり、ランクアップして浄水、シャワー付きのオールインワン水栓も導入した。

一見普通の洗面台。だが、開けてみてびっくり。見学に訪れた他の女性からは我が家にも欲しいとの声が
一見普通の洗面台。だが、開けてみてびっくり。見学に訪れた他の女性からは我が家にも欲しいとの声が
内部の作り込みにびっくり。可動式の収納にコンセント、濡れたものを収納できる棚と至れり尽くせり
内部の作り込みにびっくり。可動式の収納にコンセント、濡れたものを収納できる棚と至れり尽くせり

洗面台は同じくトクラスのもので三面鏡ならぬ五面鏡。可動式の収納があったり、内部にコンセントや濡れた品が収納できるスペースなどがあるなど実に使いやすそう。水回りについては4つのメーカーのショールームを見学し、選んだ。

「トップに国産人造大理石を使ったキッチンや洗面化粧台は単身者にはちょっと贅沢かなと思いましたが、一般的な海外産のプラスチックに近いような人工大理石よりは熱、衝撃や汚れに強く、長持ちするだろうと。賃貸の場合、メンテナンス性は重要。安価だけれど、髪を染めたら染料が付着して取れなくなるような洗面台を選ぶのは後々、逆に費用が嵩むのではと考えました」。

一方でキッチンでIHではなくガスを選んだのは価格面と料理好きにはいまだにガス人気が根強いという理由もある。退去時の清掃を考えてグリルは付けていない。どうしても汚れやすいからだ。

設備では都市ガスではなく、プロパンガスを選択してもいる。プロパンガスを利用することでオーナーの給湯器その他の負担が無くなり、数百万円レベルのコストが削減できる。その一方で入居者は都市ガスよりやや高めのガス代を負担することになるが、入居するのが単身者でもあり、それほどの負担にはならないと判断した。

「1人暮らしのガス利用は月平均で5?程度。都市ガスが2000円だとしたら、3000円~3500円程度の負担になるはずですが、その分をオーナーが建物の性能を良くすることに使い、電気代節約ができれば、それほどの差にならないのではと考えました。入居者がファミリーでガスの使用量が多いのであれば別ですが、単身者であればそこに費用を割くより、全体の質向上に費用を使いたいと考えたのです」。

間取りにも実験的試み多数

最初に用意されていた図面。どの部屋も同じ作りになっているのがお分かりいただけよう
最初に用意されていた図面。どの部屋も同じ作りになっているのがお分かりいただけよう

最後に間取りの話を。建築条件付きの土地だったため、最初から同じ間取りの1Kが並ぶ簡単な図面は用意されていた。だが、それに対して池本氏は疑問を抱いた。

「不動産会社はワンルームではなく、1Kのほうが客付けしやすいと玄関を入ってすぐの廊下部分にキッチンを設置、居室との間に扉を配したがります。しかし、本当に1Kのほうがワンルームより人気なのだろうかと考えました。また、廊下にキッチンがあると寒いのではないかとも。

また、トイレと洗面所の間に扉は必須と考えている人が多いようですが、これは必要なのだろうか。クロゼットは細長い部屋に対して縦に配されるのが一般的ですが、こうするとベッドを置く位置が限定されて使いにくいのではないか。そんなことを考え、間取りを少しずつ変更してもらいました」。

たとえば一番右の部屋はキッチンの位置が変更されている
たとえば一番右の部屋はキッチンの位置が変更されている

といっても全部を自分の主張通りにしたわけではない。前回の記事でも書いたが、池本氏は管理会社の意見を考慮しつつ物件を作ってきており、全体としてはワンルームは多めなものの1Kもあり、従来通りの廊下にキッチンのある部屋もあれば室内にある部屋もありと言った具合で、全室がそれぞれに少しずつ違う形になっている。

クロゼットが通常とは違う向きにあり、かつトイレと洗面の間にドアが無い部屋も
クロゼットが通常とは違う向きにあり、かつトイレと洗面の間にドアが無い部屋も

結果だが、クロゼットを横に配した部屋やトイレ洗面を一体にした部屋から決まっていったことを考えると、一般的と言われる間取りにこだわる必要はさほどなかったようだ。

収納の位置を変えたワンルーム。モデルルームでもある
収納の位置を変えたワンルーム。モデルルームでもある
ベッドを置いても窓側に空間が生まれ、部屋が使いやすくなっているのがお分かりいただけるだろうか
ベッド(写真右の下に少し角が映っている)を置いても窓側に空間が生まれ、部屋の空間を分けて使えるようになっていることがお分かりいただけるだろうか

実際に部屋を見せていただくとクロゼットは横置きになっているほうが家具の配置が自由になるし、トイレの扉はないほうが空間は広く感じられる。中にはトイレが解放的なのは嫌という人もいるだろうから、選択肢はあったほうが良いが、「従来からコレだからコレが絶対」と思い込んでしまうのは無益ということだ。

また、こうしたクロゼットの横置きについては家具の入ったモデルルームを用意したことで分かりやすく感じられるようになった。

「モデルルームはワンランク上の生活をイメージしてもらい、成約率を高める役割がありますが、今回の目的は家具の配置を見せること。今回はニトリに依頼、1部屋、3カ月で11万円で2室のモデルルームを作ってもらいました」。

手近で買える家具を配したことで親近感、再現性も高まったのではないかと思う。

ところで賃貸の募集といえば最近よく話題になるのはADをどのくらい付けたか。1カ月ではなく、最近では3カ月、4か月も付ける例があるそうだが、同物件では全く使わずに満室目前の状態に至っている。

逆にこれだけ早く決まるのは賃料を安く設定してしまったのかもしれないと思うほどだが、それも手ではないかと池本氏。

「最初の家賃はそこそこで、でも人気を集め、最初の入居者の退去後に少しずつ上げていけるほうが経営としてはプラス。ADを積んで入居者を集める場合は最初から高めの家賃設定になっていることが多いので、逆に退去が出やすく、無理がある。ADで入居者を集めるのではなく、物件の魅力で集めるのが本来だと思いますね」。

失敗できない最初の物件と緊張感を持って臨んだそうだが、これだけの結果が出たことで早くも次をどうするかを考えているという池本氏。情報と取捨選択の大事さを教えていただいたと思う。

健美家編集部(協力:中川寛子(なかがわひろこ))

中川寛子

株式会社東京情報堂

■ 主な経歴

住まいと街の解説者。40年近く不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービス、空き家、まちづくり、地方創生その他まちをテーマにした取材、原稿が多い。
宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。

■ 主な著書

  • 「ど素人が始める不動産投資の本」(翔泳社)
  • 「この街に住んではいけない」(マガジンハウス)
  • 「解決!空き家問題」「東京格差 浮かぶ街、沈む街」(ちくま新書)
  • 「空き家再生でみんなが稼げる地元をつくる がもよんモデルの秘密」(学芸出版)など。

※ 記事の内容は執筆時点での情報を基にしています。投資等のご判断は各個人の責任でお願いします。

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