インターネットの普及により、部屋を探している人はまずインターネットで検索し物件を探すようになり、これまでの店舗ありきの流れが大きく変化している。
しかし、ネットで見つけた物件を問い合わせると、「成約済み」とつれない答えが返ってくることが意外と多い。掲載されている内容が更新されていなかったり、ときにはおとり広告だったりもする。
リアルネットプロ(東京都港区、後藤吉行社長)が運営する空室管理システム「リアプロ」は、そんなエンドユーザーのストレスを大幅に軽減することができる、BtoBのサービス。
Web上で入退去情報を管理すると同時に、リアルタイムで空室情報を更新し、オンラインで仲介会社に自動配信する。仲介会社側へのタイムラグがなくなるため、即入居可能物件や退去予定物件の情報がリアルタイムで公開することが可能になった。
2008年の開始以降、リアプロの利用件数は徐々に伸びていき、今では札幌や名古屋といった地方を中心に登録物件数426万戸超、登録仲介業者数は1万5,000店舗を超え、利用する管理会社も約500社まで拡大している(2017年11月末時点)。
・システムの要はリアルタイム管理
このシステムの要になっているのは、管理会社が取り扱っている賃貸物件全戸を最初に登録する点だ。同社がすべて登録作業を請け負ってデータベース化するため、登録が完了すれば管理会社側は電話を受けながら、メールを見ながら、管理画面上でクリックするだけで情報を更新することができる。
この仕組みによって、電話やメールで受けた情報を改めて入力する手間が省けるようになるため、人的な労力・時間が短縮。またデータベース化されることで、仲介会社の物件閲覧履歴が集計できるとともに、棟別や間取りタイプ別、エリア別の入居率なども“みえる化”し、管理業務の簡素化につながるという。
その結果、管理会社にとっては情報提供の幅が広がり、コスト削減につながるとともに、仲介会社にとってもリアルタイムに更新される空室情報をもとに、迅速な客付け業務ができ、エンドユーザーの満足度も向上。
エンドユーザー向けフォーマットもシステムに組み込まれていることから、物件情報チラシのPDF化に加え社名入りで印刷できる。さらに同システムには、自社サイトへの連動に加え各社が展開しているポータルサイトへの出稿機能も搭載し、同社が運営している一般向け賃貸検索サイト「AKIYA」「kookan」に出稿することも可能だ。
物件データの登録作業や他社サイトへの出稿作業などはすべて同社側が行うため、管理会社は利用料(月額1.5万円~、登録件数規模による)のみ。仲介会社は無料で利用できる。
・“おとり広告”が生まれない仕組み
同社の後藤吉行社長は、「不動産取引の主導権はエンドユーザー(借主)が持つべきものだという発想から、不動産業界で横行していたおとり広告をなくすためにこのシステムを考えた」と振り返る。
実際、昨年同社が実施した物件探しを経験した人を対象とした実態調査では、不動産会社に感じる不満として、「目当ての物件がすでにない」「探すのに時間がかかる」が上位に挙がったという。
首都圏不動産公正取引協議会では、表示規約の中でインターネット広告を行う際に情報登録日(または直前の更新日)と次回の更新予定日の記載を義務付けており、その更新期間はおおむね2週間程度としている。
そのため「おとり広告」と疑われた場合でも、9割近くが故意に契約済み物件を載せているというよりは、削除忘れや次の更新のタイミングによるタイムラグが要因とされている。しかし、それをエンドユーザーが見抜くのは非常に困難だ。
また、レインズ(不動産流通標準情報システム)に加え数多くのプラットフォームサービスが登場しているが、物件情報を自社で登録することが前提となっているため、中小規模の不動産会社にとってはどのサービスを利用するにも従来どおりの手間がかかる。つまりシステム自体を見直さない限り、この状況を改善することは難しいといえる。
リアプロは、登録から更新までのタイムラグを発生させない仕組みを構築することで、おとり広告の排除を実現。同時に「リアルタイムに情報が更新されれば、仲介会社からの問い合わせも減る。そうなると管理会社はユーザーケアに時間を回せるようになり、本業に専念できるようになる」(後藤社長)。
もともと後藤社長は、不動産業を生業としていた時期があり、住宅情報誌を発行していた経験も持つ。つまり、大家から仲介・管理会社、媒体営業など、不動産にかかわるどの立場の人間の気持ちも分かるということ。
そこから「何が問題で、それをどう解決すればいいか」を念頭に基本的なサービスを構築し、システム運用後は管理会社からの要望を受け、データベースの項目を順次追加。
また主要管理会社との定期ミーティングも行うとともに、地域特性や操作性の改善などの提案・意見にはその場で対処するなど、開発・運用を内製化している強みから柔軟に対応する。
・「サービス向上の1アイテムとして活用してほしい」
一方で、「仲介会社が欲しいと思う情報をほとんどカスタマイズできている」にもかかわらず、仲介会社の利用を無料にしている訳を、後藤社長は「気軽に導入してもらい、使っていればいいことがあると実感してもらえば、システムは普及していくと考えたから」という。そのためにもしっかりとしたサービスを構築することが欠かせない。
「きちんとしたサービスを作れば必ずお客様がついてくる。だから、社員には『タダだからといって、タダの仕事をするな』と言っています」。
10年近い年月を重ね、ようやく“スピーディな情報発信”という第一段階をクリア。12月中旬には、管理会社の業務をさらに効率化し、ユーザーとのサービスの充実化を図る新たなサービスを投入し、第二段階に進む予定だという。
「不動産業界がいい方向に向かうためには、いかにサービスを高めていくかがポイントであり、そのアイテムの1つとしてリアプロを活用してもらえればうれしい」。
後藤社長が目指すのは、不動産サイトの信頼性の向上と、お世話になっている不動産業界への恩返し。これからもエンドユーザーとの橋渡し役を地道に担っていく考えだ。
健美家編集部(協力:玉城 麻子)