台風シーズン、水害への懸念が尽きない。そんな中、所有物件や購入検討中の土地や収益物件の災害リスクを専門家がジャッジするサービスが始まっている。「災害リスクカルテ」である。購入を迷っている際の判断材料として、また所有物件の災害リスクの見直しに役立つ。どんなことが分かるのだろうか。

ハザードマップを見ただけでは、浸水などの危険は分かっても、だからどうすればいいのかまでは、よく分からない。専門家から、ハザードマップを見ただけでは分からない災害リスクや、そこに住む場合の対応策を教えてもらえるのならば、ぜひ聞いてみたい。
そんなサービスが、「災害リスクカルテ」である。手掛けているのは、これまで4万9000組のホームインスペクション(住宅診断)を行ってきた、株式会社さくら事務所だ。9月5日から全国を対象に始まった。
さくら事務所の大西倫加氏とホームインスペクター(住宅診断士)の田村 啓氏に話を聞いた。
「当社では20年前から、主に個人の方向けに住宅診断を行ってきました。昨今では大規模な自然災害が増え、どれだけいい建物をお建てになったとしても、災害によって、一瞬で台無しになる可能性もあります。収益物件を含め、大きな不動産の売買をされるのであれば、災害リスクについて、より確かな情報をえて、できる対策を講じていただきたい。そこで始めたのが『災害リスクカルテ』です」(大西氏)
これまで筆者が取材をした中で、さくら事務所のホームインスペクションを利用して、「命拾いした」人がいる。
2億4000万円の収益一棟物件の購入を検討していたご夫婦で、妻がその物件の地盤に不信感を抱き、ホームインスペクションを依頼した。結果、地盤が悪いことが判明し、購入を見送った。
その後、その物件は地盤沈下したそうで、「あのとき、購入していたら、一生を棒にふっていた」という。2億4000万円の失敗を防ぐのに、6万円のホームインスペクションは決して高くない。災害のリスクについても、同じことがいえるだろう。災害にあう前に、その土地のリスクを知っておくことは重要だ。
最大の魅力は、
ハザードマップがないエリアのリスクも分かること!
では、「災害リスクカルテ」によって、どのようなことがわかるのだろう?
「地盤・災害の専門家と提携し、依頼のあった土地を『水害・土砂災害・地震時の揺れやすさ・地盤の液状化・大規模盛土など・津波など』の6項目にわたり分析し、それぞれのリスクを4段階で評価し19ページほどのレポートを作成します」(田村氏)
レポートは申し込みから、なんと3日以内にできあがる。このレポートを元に、建物の専門家である、ホームインスペクターが、依頼者に対して電話で解説し、具体的な対策方法をアドバイスする。これで金額は9800円(税別)。意外とリーズナブルな気がする。

「このサービスの最大の魅力は、ハザードマップがないエリアの災害リスクをも、知ることができることです」(田村氏)
国土交通省によると、早期にハザードマップが必要な484自治体のうち、25%の自治体が2019年3月末時点で未公表である。規模によっては数千万円単位かかる費用がハードルになっていると考えられる。どうやって、ハザードマップにないエリアの災害リスクを、調べるのだろうか?
「ハザードマップ以外にも、地理院地図、国交省が出している災害の履歴、標高差など、参考になる情報が実はたくさんあります。とはいえ、それをどう解釈するかは、すごく難しいのです。そのため地盤と災害の専門家とタックを組んで、1件1件、その土地のリスクを検証しています」(田村氏)
実際に、その土地に足を運ぶわけではないが、希望があれば、現地調査もオプションで受け付けている。その場合は、「災害リスクカルテ」込みで、1万4000円(税別)となる。
ホームインスペクションも行うことで、
修繕が何年後、いくら必要かも予測できる
多くの場合、災害リスクがあっても、それに備えた対策を行うことでリスクに対応できると、田村氏はいう。もしも、建物に修繕が必要な場合、具体的に、いくらぐらいかかるのかは、別途、ホームインスペクションを受けることで、より具体的な数値を算出できる。
「ホームインスペクションも合わせて行うことで、何年後にどんな修繕が必要になりそうか、診断できます。思っていたよりも、修繕費がかかって、利回りが下がることが予測できたり、逆に10年ぐらいはノーメンテナンスで、保有できることが分かったケースもあります」(田村氏)
最近では、融資の前に、購入希望者からの依頼で、インスペクションを行うことも増えてきているそうだ。金融機関に提出する資料として、さくら事務所で作成した資料を提出するケースもある。特に築年数の経っている不動産ほどホームインスペクションの結果が、物件の状態を客観視するのに役に立つ。
「想定していた以上の修繕費がかかりそうな場合、ホームインスペクションの結果をもとに、物件価格を値下げするように、交渉される方もいらっしゃいます。そうした賢い使い方をされる人が多いですね」(大西氏)
今後、警戒区域に登録されそうな場所など
見落とされがちなリスクもピックアップ
「静岡大学の調査によると、水害で亡くなった方の34%はハザードマップの被災想定エリア外で被災したとのデータがあります。ハザードマップで災害のリスクが見逃されているエリアや、土砂災害警戒区域に今は指定されていないものの、これから指定されようとしているエリアもあります。中小の河川や支流のリスクが見落とされているケースが少なくありません」(田村氏)
そのような、ハザードマップを見ただけでは分からない災害リスクも、「災害リスクカルテ」では知ることができる。

「近年では、入居者さんとの絆を深めているオーナーさんが増えていますよね。それはとても素敵なこと。オーナーさまが所有物件の災害リスクを知り、より安全な避難場所や避難経路を入居者さんに共有していただくことで、さらに確かな信頼関係が築けるでしょう」(大西氏)
災害リスクカルテでは、自治体が推奨している避難場所の中でも、より安全な避難場所や、避難場所に向かうまでの安全な避難経路についても教えてもらえる。入居者の命を預かるアパートオーナーとして、ぜひ参考にしてほしい。
健美家編集部(協力:高橋洋子)