スタートアップと聞けば「小さいけれど、新しいビジネスを切り開いてあっという間に急成長する勢いのある起業家たち」というイメージ。
時には一人で立ち上げというのも少なくないが、市場開拓やイノベーションのためにはコミュニティでのシナジーが不可欠だ。そんなスタートアップ向けのシェアオフィスと聞いて、小さなスペースがいくつか固まっているようなイメージでいたら、とんでもない規模に驚かされるイノベーションセンター(オフィスとコミュニティを提供する)が虎ノ門ヒルズにある。
アメリカ発のイノベーションセンター初のアジア拠点
オフィススペースとコミュニティも提供
東京メトロ日比谷線虎ノ門ヒルズ駅から直結の虎ノ門ヒルズビジネスセンターの15階・16階を占める「CIC Tokyo(ケンブリッジ・イノベーション・センター東京)」だ。
ケンブリッジ?そうCICは、ハーバード大学やMIT のあるマサチューセッツ州ケンブリッジ市で1999年に創業した、グローバルに展開するイノベーションセンターで、CIC Japan は2020年10月に開業したアジア初の拠点にして日本最大級のイノベーションセンターなのだ。
会長を務めるのは、A.T.KEARNEY日本法人会長の梅澤高明氏。
テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」のレギュラーコメンテーターとして記憶している人も多いだろう。ちなみにCIC Tokyoでお会いした時の氏は、テレビとは打って変わってTシャツに迷彩柄パンツ(学生時代にはゴシック・ロックバンドもされていたそうな)。
人間工学に基づいて考えられたスペース、
共用設備の充実度に驚く
まず、広さは15階・16階合計で約6000㎡。5㎡の個室から50名が入れる大部屋まで全163室と100席のコワーキングスペースがある。
15階には広々したベンチャーカフェ東京もあり、オフィス入居者はソフトドリンクやスナックを自由に飲食できる。そこから16階に通じる大階段は、ちょうどステージを前に腰かけられるスタジアム席を兼ねている。
交流イベントや毎週木曜に開かれるサーズデイギャザリングではスタートアップ向けセミナーやビジネスピッチが行われ、ここで多くの起業家たちがビジネスアイデアを披露してお互いに切磋琢磨する。インベスターとのマッチッングが実現することも。
15階のシェアオフィススペースは、デスクや椅子や部屋の形など、至るところに人間工学に基づく設計が取り入れられている。廊下は意図的にくねくねと湾曲し、ちょっとした遊びのスペースもあって、そこでの立ち話がやがて大きなチャンスを生み出すようなことも。
またゲームと書かれた部屋には、卓球台も! 壁がブラックボードになっていて、ピンポンボールを打ち合いながら、ビジネスアイデアも同時に討議してしまうのか?
16階のシェアオフィススペースは、15階とは異なり、直線的な間取りになっていて、クリエイティブの場というよりは執務空間としての体裁が整っている感じ。
この階には、シャワールーム、仮眠室、ナーシングルーム(授乳室)、そしてマッサージルーム(ただ今はコロナで休業中)といった共用のウェルネスルームがずらり。CIC Tokyoは24時間オープンで、入居者はこれらの共用スペースを自由に使える。
格安ともいえる入居料金を支えるのは企業
ピッチと呼ばれる投資家へのプレゼンを毎週開催
これだけの設備があって、プライベートオフィスは月額費用10万円台から、コワーキングスペースの費用は77,700円。
1カ月分先払い方式で、保証金は月額料金の1ヶ月分相当額のみ。施設ツアーでの面談が、入居審査も兼ねており、スタートアップコミュニティとしてのコンセプトや運営方針に賛同していただける方であればどなたでもウェルカムだという。虎ノ門直結でこの料金は格安!本場アメリカのCICでは、ここから巣立ってIPOに至るスタートアップも数多い。
訪れた日は、ビジネスピッチを含むスタートアップ向けイベントのある木曜日。夕方には続々とイベント参加者が集まり、中には成長株のスタートアップを見出そうとするインベスターもいるようだ。
コロナの状況下でオンラインのイベントプラットフォームが主流な昨今でも、これだけの熱気のあるリアルなミーティングが存在していることに驚いた。
SOHOやサテライトオフィスといった個人向けオフィス需要と異なり、スタートアップにとっては、スペースの提供と同時にコミュニティとビジネスチャンスの提供も不可欠ということである。
文/小野アムスデン道子
経歴
元リクルート週刊住宅情報関西版編集長、月刊ハウジング編集長を経て、メディアファクトリーにて、世界的なガイドブック「ロンリープラネット日本語版」の編集に携わったことから観光ジャーナリストに。東京とオレゴン州ポートランドのデュアルライフと世界中を巡る取材で旅を基軸にしたライフスタイルについて執筆。国内外で物件運用中。Own media【W LIFE】で40代からの豊かな暮らし方を発信。