物件の賃貸経営をする上でのリスクの一つに、設備の故障や破損があります。エアコン、電灯、水道、給湯器、エレベーターなど、物件にはたくさんの設備がついています。当然、人が長年、住んで使っていれば、壊れることが起こります。入居者の故意・過失で壊れたのでなければ、基本的にはオーナーの負担で修繕しなければなりません。修繕用の費用を計画的に積み立てておくことなども重要です。
①設備の不具合は24時間起こりうる
設備の不具合は、入居者から管理会社を通して、あるいはオーナーに直接、連絡が入ります。
「給湯器が壊れてお湯が出なくなった」「台風で戸建ての塀が倒れた」「マンションのエレベーターのドアが完全に閉まらないようになった」など、例を挙げていけばキリがありません。
管理会社が想定していなかった故障も、ときどき起こります。
3年ほど前の冬の話ですが、東京・多摩地区で地元に根付いて経営している、ある管理会社の関係者は「寒さで管理物件の給湯器が凍結する事態を初めて経験した。勉強になった」と話していました。
この会社は、先代社長のころから何十年も地元で経営していますが、最近の異常気象による寒波で、初めて「凍結」を経験したというのです。どんな不具合がいつ起きるか、なかなか予想できないことは、オーナーにとっては大きなリスクといえます。
そして、こうした不具合は夜中に突然、起きることも多いですから、オーナーとしては、24時間体制で対応してくれる管理会社に管理を頼んでおくことが大切でしょう。
②設備の修繕費は原則オーナーが負担
では、こうした修繕の費用はだれが負担するのでしょうか?
民法には「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない」との条文があります。
つまり、設備の不具合や故障は、入居者の「故意」「過失」で発生したものでなければ、基本的にはオーナーが負担するのが原則ということです。民法の条文があるので、オーナーが修繕費用を負担しなくていいという「特約」は結べないとされています。
③「わざと」「うっかり」なら借主の負担に
ここでいう「故意」「過失」とは、「わざと」「うっかり」ということです。
たとえば、「室内で怒りに任せて壁を殴り、穴を開けた」「室内でゴルフクラブの素振りをしていて、うっかり壁にあて穴を開けてしまった」という場合の修繕費用は、入居者の負担になる可能性が非常に高いといえます。
前の入居者が残していったエアコンなどの「残置物」の修繕費用や撤去費用は、入居者の負担となるケースが少なくありません。台風などの災害で設備が破損した場合の修繕費用は、オーナーの負担になることが多いといえます。
どういった場合にオーナーの負担となり、どういった場合に入居者の負担となるかは、ケースバイケースの面もあり、なかなか難しいといえます。賃貸借契約を結ぶときの契約書類で、あらかじめ決めておく必要がありますが、プロである不動産会社の意見を聞きながら決めるようにしましょう。
④UR都市機構の修理細目を参考に
参考になるのが、独立行政法人「都市再生機構(UR都市機構)」が出している「修理細目」です。
https://www.ur-net.go.jp/chintai_portal/kyojyusha/lrmhph000000hlyd-att/20190423_syurisaimoku.pdf
ここでは、入居者がどの項目について修繕費用を負担するのか明示してあります。
たとえば、障子紙やふすま紙の張替え、タオル掛けどの備品、水道蛇口のパッキン、グリルなど厨房機器の取替えなどは、入居者の負担としてあります。
さらに、「玄関」「居室」「キッチン」「洗面所・洗濯機置場」「トイレ」「浴室①」「浴室②」と場所ごとに分け、イラスト付きで、どういう場合がUR負担でどういう場合が入居者負担かを記してあります。
⑤修繕費は計画的に積み立てを
修繕が必要な設備トラブルは突然やってきます。かかる費用も少なくありませんので、日頃から計画的に積み立てておくことが重要です。
方法はオーナーそれぞれでいいと思いますが、毎月、家賃の中から一定額、たとえば1割を積み立てておくというふうに決めておくのがいいでしょう。
台風で屋根、塀、ガラスといった設備が壊れるなどした場合は、火災保険でカバーできることが多いので、保険契約の内容を、よく把握しておかなければなりません。
健美家編集部(協力:小田切隆)