大晦日からお正月、年末年始の恒例イベントに欠かせないのが神社仏閣(寺社仏閣)である。
都内で最古のお寺である浅草寺(浅草寺)は、東京の観光名所として日本人のみならず、多くの外国人観光客を魅了している。
浅草寺の大きな特徴が「仲見世」(なかみせ)と呼ばれる、参道に軒を連ねる商店街だ。

仲見世商店街は、雷おこしや土産ものを売る5坪程度のコンパクトなお店がギュッと詰まった、おもちゃ箱のようなところである。
常に多くの観光客が訪れ、江戸から続く東京の歴史と活力を今も感じさせてくれる名所といえる。
そんな仲見世にひそやかに存亡の危機が訪れている。
その危機とは仲見世の家賃が16倍になるという問題である。この問題について調査検討を行った。
そもそもこの問題は、複数のステークホルダーによる利害の駆け引きにより生じたものである。
2017年7月まで、浅草寺の参道にある仲見世の所有権は土地と建物で別々であった。
土地は浅草寺、建物は東京都が所有し、東京都は土地を無償で借り受けていた。
近年、東京都が固定資産税の算定を行った結果、浅草寺の参道の土地について固定資産税の支払いを浅草寺に請求した。
浅草寺としては、固定資産税を支払う原資を稼ぐため、建物を東京都から買戻し、適正な価格で家賃収入を得ようとしたという流れである。
まとめると、下記の図のようになる。
■仲見世の家賃16倍問題 かんたんまとめ
結果として、仲見世商店街の家賃が2018年から16倍になるというのである。
もちろん、この家賃設定は周辺相場から勘案して適正な家賃設定である。
仲見世はもともと10㎡あたり1万5千円という格安の家賃であり、周辺相場の家賃(10㎡あたり、24万円)とおおきく乖離していたため、結果として16倍という大幅な引き上げとなったのである。
事の子細や、だれがそのコストを負担するのが正しいかということはさておき、これまでの家賃の16倍もの値上げを受ける体力が仲見世商店街の店々にあるのか取材した。
仲見世でキーホルダーなどの土産物を販売するお店では
「まだ家賃交渉中ですが、家賃が上がっても値上げするわけにはいかないからねぇ。」
と、それほど悲観的ではないものの、値上げされたら困るなぁという漠然とした不安を感じているようであった。
500円や1000円程度の安い単価のものを販売しているお店がほとんどである。家賃が16倍の20~30万円になってしまったら、店をたたまなくてはいけないところも出てくるであろう。
参道を歩いている観光客も
「もし仲見世がなくなって、この活気がなくなるとしたら残念ですね。」
という感想をくれた。
多くの人が仲見世の存亡について悲しい気持ちを感じている。
一方で、仲見世以外にある周辺のお店では
「それほどの坪数もないし、そんなには(家賃は)高くならないでしょう」
「店それぞれの事情はあると思うけど、それが普通のことでしょう」
と、同情しつつも適正な家賃になることがフェアであるという意見もあった。
確かに周辺相場に比べ破格の家賃というのは、フェアな競争ではないだろう。
東京都は建物を浅草寺に売却する際に、仲見世を含む参道の景観を維持するように条件を付けたという。
宗教法人である寺院そのものは固定資産税が非課税であることは現行の法律もとづき適切である。
また、営利活動とみなされる仲見世エリアについて固定資産税を課すというのも適正である。
しかし一方で、歴史的に長く続いてきた仲見世が家賃により壊滅してしまうことに忍びなさを感じるのも確かである。
東京都、浅草寺、仲見世、周辺の一般店舗、観光客、5者5様の思いはあれど、歴史あるこの風景がなくなってしまうのだけは避けてほしいと願っている。
■各ステークホルダーの主張と問題点
そこで、大胆にも、この問題のソリューションを勝手に考えてみた。
もちろん、一記者のまったくの素人考えであるが、一案として楽しんでいただければと思う。
そのソリューションとは「三方一両損」である。
■ソリューション「三方一両損」の図
このソリューションのポイントは、仲見世は社会的存在か単なる営利目的の存在かというところである。
もし、仲見世が営利目的の存在ではなく、非営利の歴史保存が目的の存在、すなわち社会的存在であるとすれば、相場に対し著しく安い賃料の正当化も可能であり、固定資産税の減免や土地の無償使用の正当性も声高に主張することが可能になるだろう。
仲見世の目的が歴史的景観維持ということになれば、家賃についてアンフェアであるという主張は取り下げられるであろう。
つまり、営利目的をやめることが、仲見世を含む浅草寺の歴史と観光資源を守るクリティカルな奇策なのだ。
具体的には仲見世をNPO法人とし、利益追求ではなく歴史と観光資源を守ることを目的とするのである。
生活に必要な利益は従来通りの営業で稼ぎ、必要以上に利益が出た場合は、歴史と観光資源を守るために使うのである。
仲見世が利益追求の場でなくなることにより、固定資産税も家賃支払いも減免することが正当化できるわけである。
観光立国を目指す日本の歴史的、社会的価値を守るために、都は固定資産税をあきらめ、寺は家賃収入をあきらめ、仲見世は利益追求をあきらめる。
まさに現代版の三方一両損といった形で、丸くおさめるのはいかがだろうか。
記者:姫野秀喜
【執筆者プロフィール】
不動産投資コンサルタント 1億円大家さん 姫ちゃん(姫野 秀喜)1978年福岡市出身。九州大学経済学部卒。アクセンチュア(株)で売上3,000億円を超える大企業の会計・経営コンサルティングに従事。激務の合間に不動産投資を実施し短期間で資産1億円を達成。高い問題解決能力で、一人一人に合致した戦略策定から実行までを一貫してサポートする無料コンサルを実施している。