小さな敷地に単身者向けの賃貸住宅を建てるとなると、どうしてもあらゆる箇所がコンパクトになる。その最たるものがバルコニー。実際には使う人の少ない空間だが、とりあえず作っておこうかというのが普通だろうが、そうでない考え方もあると教えてくれるのが2022年4月に文京区本郷に誕生したHongo Heights(以下、ホンゴウハイツ)だ。
玄関前に共用廊下とバルコニーを配置
立地するのは文京区内の高低差のある角地。外観はごく普通の打ちっ放しにグレーの手すりのシンプル、コンパクトな建物だが、面白いのはバルコニー、共用廊下の位置が他の一般的な物件と異なっていること。
一般的な集合住宅であれば玄関があるのと反対側にバルコニーあるいは窓が作られることが多く、たいていの場合は隣地境界側に薄暗く、窮屈な共用廊下、玄関があり、前面道路側にとってつけたような専有バルコニーが作られる。
玄関側は暗く、湿っぽく、せっかく作ったバルコニーもほとんど使われることがないというのがよくある姿だが、ホンゴウハイツでは隣地境界側には廊下も玄関もなく、バルコニー、共用廊下、玄関はすべて公道側に作られている。
これは共用廊下とバルコニーを一体にするというアイディアから生まれたもの。それによって共用廊下、玄関は明るくなり、バルコニーと一体化することで全体は広くなり、使える空間になる。
実際の平面図でそのメリットが分かりやすいのは2階。3部屋が並んでいるのだが、うち、外階段寄りの201号室の前は広い廊下が作られており、通路部分の外にバルコニー的な空間が設けられている。同様に一番奥にある203号室の前にも通路兼バルコニー的な空間があり、誰もここを通らないと考えると自分の庭のような空間として使えそうである。
2戸が配された3階でも外階段の前、通路の先にプラスαの空間が作られており、いずれもバルコニーとして使えるようになっている。一度外に出てからの空間ではあるが、一般的なバルコニーより開放的であり、リラックスできる空間でもある。
避難経路の確保にさまざまな工夫が
言葉にすると簡単だが、完成に至るまでには設計者は苦労をしたようである。東京都安全条例などで定められる避難計画は道路側に窓、専用バルコニー、反対側に共用廊下及び玄関がある一般的な片廊下形式を基本として作られている。この形式であれば専用バルコニーに出る窓から直接道路に出られるという解釈で全住戸の避難計画が成り立つことになり、問題はない。
だが、ホンゴウハイツの場合、2階、3階の部屋に関しては玄関横の窓から出て道路に至るまでの間には共用部である廊下を挟むため、その窓は避難経路として安全条例上認められないと判断された。
そのため、北側、南側のそれぞれに窓先空地を設けることで201、203,301の避難経路を確保。202に関しては共用廊下を介さずに窓から直接道路に出られるよう、2階共用廊下のスラブの下を潜って出られるレベルまで窓際の床を下げた。
また、302に関しては玄関脇に柵を設けることで共用廊下とは完全に区切られた専有のバルコニーとして問題を解決している。
アイディアだけなら素人でも思いつくかもしれないが、それを実現するためには緻密な計算が必要というわけで、それは設計者の力量のひとつといえそうである。
同じ階でも床の高さには違い
建物に入ってみて面白かったのは同じフロアの住戸間に高さの差があること。1階の場合、101、102は玄関から少し下がって居室があるが、103は玄関からフラット。2階は203はフラットだが、202は階段を下がる、201はそれ以上に下がることになる。
これは建物の高低差に合わせたもの。選ぶ側からすると同じような部屋に見えて微妙に使い勝手、外の見え方などが異なることになり、悩んでしまいそうである。
床は入ったところ、寝室部分と貼り分けられており、合わせて天井にはカーテンを設置するためのレールも。20㎡前後中心とコンパクトな部屋だが、それだけでも空間を分けて使えそう。真似したいアイディアである。
玄関を入ったところに置かれた、靴箱を想定した棚の存在も目を惹いた。備え付けではなく、移動できるようになっており、暮らしに合わせてどこへでも移動できるというところか。狭い空間ではこうしたフレキシブルさも大事だろう。
個人的にはそれ以上にちょこちょこある、「ここ、どう使うの?」と思うような無駄というべきか、遊びの空間に興味を惹かれた。たとえば、201の窓のバルコニーの半分は床が上がった小さな部屋のようになっているのだが、ここはどう使うのだろう。
設計を担当したオンデザインパートナーズの西田幸平氏に聞いてみると植物を育てたり、椅子を置いて籠って本を読んだり、ちょっとした特別な空間として好きなようにしてくださいとのこと。
同様に202には階段を下りたところに机ひとつ、ノートパソコンが載るほどのテーブルを置いたらいっぱい、制約はあるが、集中はできそうという空間がある。このような空間を無駄と思う人ではなく、どう使おうかと考える人を狙っているというわけで、特に都市では均質で面白みのない空間よりはこういう空間を選ぶ人もいるのだろう。
最寄り駅からすぐという立地の良さを考えると早く決まりそうである。詳細は募集サイトから見ることができる。
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健美家編集部(協力:
(なかがわひろこ))