インバウンドが日本の不動産市場を支える構図は当面続きそうである。今年の公示地価と基準地価でもそれが確認できている。不動産業界からも今後のマーケット見通しについて、悲壮感はなく「東京五輪後に調整局面があったとしても長引くとは考えていない」とのコメントが少なくない。人口流入が続くことと低金利環境を歓迎する。
東京、大阪など大都市では人口の流入が続くことに加えて、人手不足を門戸拡大による外国人労働者を当て込んだフシも見られる。外資大手もオフィスビルやホテルといった商業用不動産にとどまらず、今年になってから賃貸マンションに対する姿勢を強めている。
個人の海外投資家はどうか。2020年東京オリンピック・パラリンピック決定後に東京23区を中心に個人の海外投資家が投資目的やセカンドハウスで分譲マンションを買い漁った記憶は新しい。特に台湾人。
千代田区内の高層マンションの2LKD1室(72u)1億3000万円を台湾でレストランを経営する人が来日早々に買い上げたり、電子機器メーカー社長の夫人が東京・日本橋で中古マンション1戸と新築分譲1戸を購入したり、なかには2億円近いマンションを内見したその場で購入を決めた投資家もいた。
そうした海外投資家は、マンションに限らず東京五輪が決まった直後から4年ほど前までレストラン・居酒屋などの飲食店が入居する商業ビルも物色するなど活発に動いた。足もとではそうした派手な動きを聞かない。

ブームは静かに去ったのか、と思っていたが、台湾大手の信義房屋不動産によると、今年12月に日本進出10周年を迎える節目の年に過去最高益を達成しそうな勢いだといい、台湾からの対日不動産投資の活発さをうかがわせている。10月下旬に日本の仲介大手と開催した投資フェアも好評のようだ。
台湾ブームはフェードアウトしたわけではなさそうだ。これは台湾の国内事情を反映している。
「台湾では、戸建て住宅やマンションを購入して住む待ち家比率が85%ほどと高く、賃貸住宅に住んでいる人が少ない。企業のオフィスビル需要を見ても、借りるというよりも自社ビルを保有して事業を営んでいる企業が多い」(別の台湾仲介)。
このように九州よりやや小さい国土に人口約2359万人(2018年12月)が住んでいるものの賃貸需要が少ない。その総人口も2022年にもピークアウトする見込みであるため賃貸需要が盛り上がる環境ではない。
需要が限定的であるため、賃借する側としてはリーズナブルな価格で借りられるが、貸し主は高い賃料が望めないことになる。家賃収入で資産形成をしづらい国内ではなく、それならば賃貸需要が旺盛な日本で賃貸経営するという構造となっている。
もちろん、不動産の商習慣では日本と台湾で違いはある。台湾では、特に家主と賃借人の力関係で家主が強く、特段問題のない賃借人であっても家主が退去を通告すると契約は更新されない。入居者の権利が強い日本との違いがあるものの、賃貸需要の底堅さに引かれているのが現状だ。
好みの不動産にも違いがある。台湾人は、建物の1階部分にコンビニエンスストアなど店舗併設の物件を好むのが特徴。飲食店だけで構成するソシアルビルと呼ばれる不動産も人気である。庭付きの戸建て住宅も人気。
京都にある敷地1000坪の家屋敷を10億円ほどで買い付けた台湾人富裕層がいる。一方で、避暑地の軽井沢にあるような洋風別荘はあまり人気がなく日本で買い求めない。価格の高い日本ではなくて、本場の米国で安く買えるためだ。
台湾には地政学的なリスクもある。中国の出方しだいでは国内の紙幣・資産の価値が暴落する危険性を意識して日本だけでなく、米国や豪州、カナダなど国外に財産を分散する傾向は強い。
現在の香港の現状を見て危機意識がさらに高まっている中で、投資適格物件の多い日本に対する不動産投資マネーの流入は続きそうである。
健美家編集部