賃貸仲介件数
減少37.2%、増加26.3%
二回目の緊急事態宣言がようやく解禁となったものの、関西を中心に新型コロナウイルス感染がまたしても猛威を振るい、まん延防止等重点措置の適応が決まった。4月5日に大阪・兵庫・宮城で適応され、4月12日には東京・京都・沖縄に拡がっている。
こうしたコロナ禍で賃貸仲介にどのような変化が起っているのかを、業界専門誌である賃貸住宅新聞が定点観測している。
図のように、2020年の1-2月に回答した325社の不動産会社のうち、32.4%が増加、17.1%が減少と回答しているのに対して、2021年の1-2月に回答した304社の中では、26.3%が増加、37.2%が減少と、仲介件数減少の不動産会社が上回った。
賃貸仲介全般に厳しさは増したと判断できるものの、増加と減少の2極化が進んだともいえる。この違いについて、筆者ヒアリングベースで仮説を立てて論じたい。
大手仲介会社の苦戦要因は
「法人」「テナント」
2020年の全国仲介件数ランキング上位を見ると、減少は7社。
大東建託233,277→227,706件、ミニミニ154,808→145496件、東建コーポレーション79,188→75,437件、ハウスメイト71,179→67,324件、タイセイ・ハウジー・ホールディングス53,458→49,550件、スターツグループ42,564→39,992件、常口アトム35,431→33,165件。
上位10社のうち7社は、すでに昨年ダウンしている。増加したリロホールディングスは大規模なM&Aを行っており、タウンハウジングは店舗増。ビッグがほぼ前年イーブンと考えると、特殊要因が無い限り、大手はダウントレンドである。
こうした大手は、社宅代行などの法人の転勤に強い。特に、ハウスメイト・タイセイハウジー・スターツは、法人社宅代行スキームのマーケットでもこれまで強かった。コロナ禍でテレワークが進み、法人の転勤が抑制された影響は直撃であったことは否めない。
また、大手はテナントを避けて仲介管理することは難しい。人気エリアなどでは1階はテナントで、上層部に居住用のスペースのある物件も多く、コロナ禍でダメージを受けたテナント退去後の入居などは当然苦戦した。
こうした外部要因により、総じて、全国大手では苦戦があったものと考えられる。
M&Aと
不動産テックが進む
ドル箱であった法人需要は、今後のコロナ禍が長引く事で、しばらく影響は続くことが予測される。とはいえ、それに甘んじることは無く、大手はM&Aによる拡大と、不動産テックによる内部の効率化・生産性改革の推進していく。
大東建託の仲介を担うハウスコムが、年間仲介件数14,000件の宅都の仲介部門をM&Aし、2021年3月1日に株式譲渡が行われた。前述したリロホールディングスが2019年12月に年間仲介件数13,069件の駅前不動産をM&Aしたように、規模の拡大が進む。
業界再編は、低金利の今こそチャンスで有り、かつ、建設や法人など規模の拡大によるシナジーは大きい。より一層こうした動きが進むだろう。
大手から先に
不動産テックが進む
これまでも不動産テックは、ITリテラシーが高く、仲介よりも管理や建設でのストック収入型ビジネスである大手が進んでいた。
新型コロナ感染リスクの高まりにより、高齢者が多い地主へのアプローチが避けられるようになり、仲介件数が落ちるとなれば、より一層の生産性改善の意識が高まる。
事実、これまでVRや電子申込、IT重説、あるいはネット無料などは大手企業を盛んに行われてきたが、いよいよ非対面での鍵渡しや、スマートキー、あるいは入居者アプリといった分野でのIT革命は進んでいく。
収益物件の投資家としては、こうした会社に入居を依存しているケースでは、法人やテナントでの打撃はあるものの、規模の拡大とIT化での環境変化に対応しつつある不動産会社の動向に注視しつつ、大量な物件の中の自社の所有物件への入居促進がどういう状況にあるか、今一度、膝を交えて話し合うべきであろう。
地方の雄が
仲介件数を伸ばす
一方で、ヒアリングベースでは、地域ナンバーワンの管理戸数や仲介件数をもつ、地方の雄は、仲介件数が伸びている。前年より伸びているこうした企業で、共通するのは次の3点である。
・仲介件数も管理戸数も多く、地域内のマーケットシェアが大きい
・インターネットでの募集に長けており、ポータルサイトの活用が上手い
・オンライン内見など、コロナ禍の非対面接客の新しい接客方法に積極的
という点だ。
こうしたいわば、「地方の雄」は、「自ら管理と仲介」をもつ。自社管理物件の入居率が悪ければ、なるべく自社の仲介が優先して自社管理物件への入居を促進するし、自社の仲介部門が「もっとテレワークやオンライン授業だからネット無料にしてほしい」とか「大学生の合格前予約を実施してほしい」など、仲介の要請が管理に届きやすい環境にある。
また、自らオンライン内見を行い、ポータルサイトでの代表物件(複数の仲介会社が同じ物件を募集しても、上位表示させるための撮影点数の確保や、オプションの使い方による)にする施策が徹底している。地域内の移動者に対して、認知度が高く、かつフランチャイズなどのネームバリューも高い不動産会社が多い。
こうした「地方の雄」に入居を依存している場合は、仲介店舗と管理部門の意見を聞きながら空室対策を進めていくと良いであろう。
一方、収益物件の投資家として、気をつけるべきは、「仲介は地方の雄に依存している」が「管理は自主管理や別の会社」というケースである。
マーケットが厳しくなると、こうした「地方の雄」が「自社の管理物件の入居促進」に加速する可能性があり、単に管理料の積もりの安さなどで、管理会社を変えていると、なかなか入居に注力してくれない可能性は高い。
仲介専業が
苦しい局面に
一方で、仲介専業は厳しい局面を迎えている。法人・転勤の仲介件数ダウンだけでなく、コロナ禍では「別に駅近でなくても、もっと広い部屋でテレワークでいいや」といった、入居者の志向の変化に対応しにくい。管理会社ではないので、ネット無料や設備強化、あるいはリノベーションなどの対応をする権利がそもそもない。
勢い築年が古い物件が多く、家賃を値引いて件数をあげるという手法になりかねない。それは、仲介会社自身の生産性を悪化させ、収益の悪化や事業撤退の可能性を高めかねない。
管理会社は自主管理、もしくは管理料の安い会社に依存し、仲介が得意な仲介専業に依存している収益物件オーナーは以下の点に気をつけたい。
1. 家賃減額の要請ばかりでないか
2. AD料などの高額請求が増えないか
3. その仲介会社の安定性は大丈夫か
「例年より、仲介件数を落とし」かつ「オンライン内見などの新しい手法に出遅れ」かつ「家賃を下げて闘う」という事態になると、オーナーにとってはこれまでの戦略との変更も考えなければならない。
売買仲介中心の小さな不動産会社が
仲介件数を落としている
そして、仲介件数を落としているのは、大手だけでなく、小さな会社でも落ちている。
オンライン内見やIT重説などは、不得手であり、地域の雄の仲介件数の寡占化が進む中、売買仲介を事業の中心として考えている不動産会社では、まだまだこの環境変化に対応していない。
そればかりか、業績の悪化は「コロナのせい」と思考停止していると、より賃貸仲介には目が向きにくくなる。
売買を一件決めれば、会社の業績は持ち直すので、賃貸仲介は、さほど力を入れいていないのだ。こうした方々と話をすると「コロナが原因」なのか「自社の状況悪化」なのかがわかりにくくなる。
こうした不動産会社に入居を依存している場合は、既存の空室だけで無く、現入居者の退去後の募集についても、是非、膝を交えて会話していただきたい。
なにもオンライン内見とか、ネット無料やリノベばかりが有効だとは言わないものの、なにをすれば今後も安定した収益物件からの利回り確保が可能かを4月の今から話しておきたいものである。
マーケットは2極化しており「どの物件を買えば儲かるか」という目利きだけでなく「どの会社にどう任せれば、家賃が下がらず満室経営が続くか」という目利きが必要な時代になってきているのだ。
売買仲介と賃貸仲介を行う中小企業の場合、賃貸仲介件数が落ちた分は、売買で取り戻そうとする可能性があり、物件の空室対策について長期トレンドで相談しておきたい
執筆:上野典行(うえの のりゆき)
【プロフィール】
プリンシプル住まい総研 所長1988年リクルート入社。
大学生の採用サイトであるリクルートナビを開発後、住宅情報タウンズ・住宅情報マンションズ編集長を歴任。現スーモも含めた商品・事業開発責任者に従事。 2008年より賃貸営業部長となり2011年12月同社を退職し、プリンシプル・コンサルティング・グループにて、2012年1月より現職。All Aboutガイド「賃貸」「土地活用」。日管協・研修副委員長。全国で、講演・執筆・企業コンサルティングを行っている。