コロナ禍で景気悪化やテレワークの広がりなどによって、オフィスの空室率の上昇が続いている。ところが札幌市では、IT関連企業やコールセンターによるオフィスのニーズがあり、空室率は全国主要都市の中で最も低い水準で、成約賃料が最も大きく上昇している。
オフィスの入居率が高いということは、そこに勤務する人の賃貸住宅のニーズも高まりそうである。札幌近郊で賃貸住宅経営をする投資家や大家にとって気になるところであろう。そこで札幌のオフィス事情を調査し、今後の賃料を予測しているニッセイ基礎研究所 吉田資氏に話を聞いた。

札幌のオフィス需要は堅調!
成約家賃は2007年のピークを上回り、前年比+10%
コロナの影響でオフィスの空室率が大幅に上昇している。主要都市のオフィス空室率(図表1参照)を見ると、コロナ禍の2020年から2021年にかけて、特に都心5区(千代田・中央・港・新宿・渋谷)で空室率が急上昇している。オフィス空室率が最も高いのは仙台市で5.9%、ついで大阪市で4%、都心5区は3.6%。最も低水準なのが札幌市で3.3%である。

吉田氏の調査によると、札幌市では、コールセンターやIT関連企業の新規開設・拡張ニーズに支えられたことで、空室率の上昇は小幅に留まっているようだ。さらに注目すべきは成約賃料が主要都市の中で最も大きく上昇していることだ(図表3参照)。
「札幌市の成約賃料は、ファンドバブル期のピークである2007年を上回る高値圏にあり、2020年は前年比+10%と前年から大きく増加しています。とはいえ今後は、空室率の上昇に伴い、ゆるやかに下落に転じていく見通しです」

北海道では23年連続、人口減少。
札幌市は企業誘致に意欲的、コールセンターに補助金も
総務省が先日発表した住民基本台帳による人口調査データによると、北海道では23年人口が減少しているが、県庁所在地である札幌市の人口は前年より3242人と増加傾向にある。
吉田氏によると北海道の経済の中枢を担う札幌市では1980年代により『札幌テクノパーク』を整備するなど、全国の主要都市に先駆けて、IT企業の誘致を積極的に行ってきた。またJR 札幌駅北口周辺では、2000年代からIT スタートアップ企業が増え、2020年7月には、『スタートアップ・エコシステム拠点都市』に選ばれ、起業しやすい環境づくりに力を入れてきた。
直近では『S−BUILDING札幌大通』(2020年11月竣工)に総合BPOサービス大手の『TMJ』が、『大同生命札幌ビル』(2020年3月竣工)にはゲーム開発大手の『エヌディーキューブ』が入居する等、コールセンター企業やIT関連企業を誘致している。
月刊コールセンタージャパン編集部「コールセンター立地状況調査」によると、地方都市におけるコールセンターの拠点数は、札幌市(98拠点)が突出して多い。次いで、那覇市(65拠点)、福岡市(48拠点)、仙台市(43拠点)となっており、福岡や仙台もコールセンターの拠点が増えている。
「札幌市は他の地方主要都市と比較して、低コストでかつ効率よくオペレーターを確保することが可能な環境にあり、コールセンター企業からのオフィススペースニーズは旺盛です」

札幌市ではコールセンター等の業務を担う企業を札幌市に本社移転させた場合、最大2億1000万円を補助する「札幌市コールセンター・バックオフィス 等立地促進補助金」をはじめとして、コールセンター運営をサポートする様々な施策を講じてきた。このことも、多くの関連企業を誘致するきっかけになっているようだ。

コールセンターはインターネット通販市場の拡大や地方自治体による支援策などに支えられて、今後も成長が見込まれている。吉田氏によると実際にコールセンターで勤務しているのは女性が多く、主婦層や単身者も多いようだ。
札幌市のコールセンターが活況であれば、そこに勤務する人の住まいとして、おのずと賃貸住宅のニーズも増すことになる。これは札幌近辺で賃貸住宅経営を行う投資家や大家にとって、うれしい傾向といえるだろう。
とはいえコロナ禍が続く中、コールセンターにおいても課題が多い。
「感染対策のために、多くの企業で在宅勤務が導入されるなかで、コールセンターでも在宅勤在宅の導入が課題となっています。さらに業務の効率化のためにも、AIでコールセンターの業務を担っていく動きもあります。ビジネスモデルが変わり、オフィス利用床面積の縮小を検討する企業が増加する可能性もあります」
2030年には北海道新幹線の全線開通が予定されており、札幌駅周辺を中心に高層オフィスビルの開発が複数計画されている。このことがどう賃貸市場に影響を及ぼしていくのかも、気になるところである。
健美家編集部(協力;高橋洋子)