長引くコロナの影響で、オンライン授業が定着しつつある影響か、学生向けの賃貸住宅の空室が埋まりにくいなどの苦境にさらされている。
そこで全国の大学や学生事情に詳しい大学ジャーナリストの石渡嶺司氏にオンライン授業の現状や、2022年の受験動向、学生向け賃貸の運営のポイントなどを聞いた。
学生向けの賃貸住宅を所有する人や、大学や専門学校の近くの賃貸住宅を検討する投資家はぜひ参考にしてほしい。

リアルとオンラインの『ハイブリッド式』授業が定着!
学生向け賃貸は高速ネット回線、防音性が重要に
前回、石渡氏を取材したのは2020年9月のこと。健美家ニュースで、大学の97%がオンライン授業で、学生向け賃貸は防音と通信環境がカギなると健美家ニュースでお伝えした。
それから1年半経ち、大学生の授業はどう変化しているのだろうか?
「多くの大学で、対面での授業が再開されているものの、学生や保護者の間では、感染症対策からオンライン授業をのぞむ声も多く、授業の内容によっては、オンラインで対応できるものもあります。そのため対面と、オンラインでの『ハイブリッド式』授業が広がっています」
授業だけではなく就職活動においても、オンラインでの説明会や面接が浸透している。特に就職活動の序盤、大人数の説明会などは無理に対面にこだわらなくても、オンラインで行った方がより多くの人に、スムーズにアプローチできるといった利点もある。
そうした中で、学生向け賃貸に求められるのは、自宅でオンライン授業や就職活動に対応できるような、ネット環境や防音性だという。
「高速ネット回線があらかじめ備わっている賃貸住宅が増えていますが、こうした設備は喜ばれること間違いありません。大家さんが考えている以上に、学生にとって高速ネット回線は付加価値が高い設備です」
コロナ禍での中退、休学は約2万1000人減!
背景には、大学を辞められない切実な事情がある
コロナ禍での大学生の変化として、特筆すべき点に中退、退学が減っていることが挙げられる。文部科学省の調査によると、全国の大学・短大で2020年度に中退、休学した学生は前年度から約2万1000人減の約12万5000人だった。
背景には、コロナ禍での学費負担について心配する学生に対し、各大学が授業料減免や悩み相談などの支援に力を入れた結果とみているが、石渡氏はどうみているのだろう?
「大学の迅速な対応も功をなしていると思いますが、コロナショックだからこそ休学・退学できない学生もいます。経済的理由で大学を辞めても、アルバイト先や就職先など働く先がなく、学生の身分でいたほうが良いと考える人も少なくないのが現実です。就活のために、無理にでも卒業したほうがいいと考える人も多いのではないでしょうか」
最大規模の公立大として、大阪公立大が誕生!
九大が10校目の指定公立大に。情報系学部の人気上昇
つづいて不動産投資家にとって、覚えておきたいのが、新しく誕生する大学や学部などの動きである。新たに大学ができることになれば、その周辺に学生向け賃貸の需要も見込めそうだ。
「注目すべき動きとしては、2022年4月に大阪公立大が誕生することです。現在の大阪市立大学と大阪府立大の2つの公立大が合併してできる大学です。大阪公立大ができることで、東京都立大学をおさえて、全国で最大規模の公立大学となり、志願者が増えることが考えられます」
ほかにも九州大学が10校目の指定戸国立大に認定されたことや、奈良女子大学が、国立の女子大学で初となる工学部が新設されることで志願者が増えることにつながるかもしれない。
「全国的な動きでは、IT系の職種につながる情報系学部や、データーサイエンス系の学部の人気が顕著です。社会でIT人材が足りていない結果、就職活動にも有利であることから、志願者が増えています。例えば近畿大、岡山理科大、愛知県の名城大学などに情報系学部が新設予定です」
情報系学部の人気が上がった結果、偏差値が10ポイント以上上がっている学部もあるほど、難易度も上がっている。情報系学部卒の20代のIT人材においては、給料が上がっている人が77%とのデータもあり、こうした事情からも、情報系学部の人気は今後もしばらく続くとみられる。
「千葉県にある東京情報大学の総合情報学部が数年で倍率が4倍に増えたほどの人気です。情報系の学部がある大学の周辺の大家さんは、2010年以前はなかなか学生が集まらないと思われていたかもしれませんが、2020年以後、学生が増えているように感じているのではないでしょうか。数字でみると、それくらい情報系の大学や学部は活況です」
逆にここ1〜2年で、人気が落ちているのが、コロナ禍で留学しにくい状況から、観光学部、外国語学部等。なかでも大学よりも専門学校が深刻な影響を受けているという。
社会の動きに合わせて、大学は必要な学部を新設するなどいち早く手を打ち、生き残りをかけている。学生向け賃貸も同じく、刻々と変化する学生のニーズ、トレンドをくみ取っていきたいものである。