2023年繁忙期は、コロナ禍がおさまり、不動産市況は回復が期待されている。
しかし、全国を回って肌で感じた定性的情報と、速報値の様々なデータをみると、
エリアの格差、それも都心と首都圏といったわかりやすい差ではなく、
地域ごとの天地の差と、不動産会社の差であった。
今回は速報ベースでその差について論じたい。

■前年のコロナ禍より回復。しかし、コロナ前には戻っていない
毎年、全国賃貸住宅新聞社が調べている繁忙期における仲介件数の増減アンケート。マーケットの初速を調べるには、専門誌としてこれほど頼りになる調査はない。
全国の不動産会社に対して、同社が行ったアンケートで「前年(1〜2月中旬)より成約件数が大幅に増えた(2割以上)」は4%、「前年(1〜2月中旬)より成約件数が増加」が35%、「変わらない」が38%、「減少」が21%、「大幅に減少(2割以上)」は3%であった。
増加した会社が39%で、減少した会社が24%であるから、「賃貸マーケットは回復」と考えてよい。同社の記事もそういう展開である。
2020年1-2月の繁忙期は、思い起こせば緊急事態宣言前。賃貸マーケットは、3月のクルーズ船や卒業式の延期などで、法人のキャンセルなどはあったものの、総じてコロナ影響を受けなかったが、2021年の繁忙期では37%が前年より悪化。以降、2年間、「増加」より「減少」が上回っていたものが初めて、上昇に転じたのだ
■総論「回復」。しかし、「二極化」が進んでいる
いよいよ、「マスクも個人の判断」となり、以前の状況に戻るという期待は大きい。しかし、よく見ると「コロナ前とは違う」のだ。
コロナ影響があった2021年・2022年は、「学生の自宅通学が増え」「法人の転勤が抑制され」「外国人の入国制限」と厳しいマーケットであったのは事実だが、その回復が「エリア」と「企業」でかなり差がついているのだ。
しかるに、同じ表を俯瞰してみると「コロナ前」よりも「アフターコロナは格差が拡がってる」といえるのだ。コロナ前では全体の過半数が「例年並み」と言っていたのだが、「前年より回復が39%いる」一方で「さらに悪化しているが24%」と、二極化しているのだ。
■法人企業の転勤抑制は、「輸出」と「輸入」で大きく異なる
まず、「転勤」については、全国を回るとかなり差が激しい。わかりやすいのは、輸出企業と輸入企業の違いだ。これは首都圏と地方というステレオタイプの二極化ではない。
例えば、プリンターメーカーのある長野県の中央部のエリアでは、軒並み空室がないほど好調である。
輸出企業は、円安の影響で好景気。話をシンプルにすれば、1ドル100円の時の商品と、1ドル150円の時の商品では、輸出時の単価は倍違う事になる。老朽化した社宅からの退去が進み、外国人の入居制限が緩和され、不動産会社の仲介はてんてこ舞いである。
島根県や佐賀県の半導体の工場なども、輸出型であり、好調。中国製品がロックダウンで輸入できないこともあり、増産体制。3月には「案内できる空室がない」といった現象が起こっている。
これまでも秋田県の火力発電所建設の需要や、長崎県の造船特需など、法人需要は製造業の動静にかなり影響を受ける傾向があったが、総じて、輸出企業があるエリアは好調である。
一方で、輸入系は厳しい。瀬戸内海のとある街では、石油などの原材料を輸入している日本国内の内需の製造企業が多い。
こうしたエリアでは、逆に原材料費が高騰しているため、国内販売は厳しく、工場の増産での人員増加とは言い難い。退去も入居も少なく、仲介営業マンの目標達成率は極めて低く、管理側も入居が決まらず頭を抱えているといった状況だ。
輸出系の法人契約の多い不動産会社に呼ばれて私が勉強会を依頼されると、「増加する仕事量をどう不動産DXで改善するか」といったテーマでの勉強会となるが、輸入系の法人契約の多い不動産会社に呼ばれて私が勉強会を依頼されると、「厳しい仲介反響を、いかに来店・成約に結びつけるかむといったテーマの勉強会となる。

■大手IT系は、在宅が増え、個社要因で、二極化
また、これまで「全国展開している大手IT系企業の、社宅代行の指名で安定的に法人需要があった」といった不動産会社では、厳しい環境となっている。テレワーク・在宅勤務・転勤抑制の影響である。
33万人を超える社員を抱えるNTTグループは、全国に支店があり、賃貸契約ではまさに「お得意様」の存在であった。
このNTTグループが2022年7月から、リモートワークを基本とする業務運営が可能な組織を「リモートスタンダード組織」とし、社員の5割のリモートワークを前提すると発表した。現在既に6割が在宅勤務しているが、コロナ禍以降も継続していく方針である。
富士通も国内グループの社員8万人に、テレワーク・自宅勤務などを推進すると2020年7月に発表。同社は明確に、「今後3年をかけて全席フリーアドレスの3形態のオフィスに整備することで、既存オフィスの床面積を50%に削減する」と発表している。
このように、「コロナ対策でのテレワーク」ではなく「オフィスを50%削減する」となると、目的は感染対策ではなく、コスト削減の意味合いが強くなり、感染の収束とは関係なく、こうした企業の法人契約は厳しくなっていく。
昨今の新築分譲マンションでは、テレワーク部屋のついている居室も増えており、この流れは、アフターコロナでもなかなか止まらない傾向にある。

■学生物件も二極化か。
新型コロナ感染拡大期には、学生の大学選びにおいて、地元志向が高まった。感染が拡大する首都圏での進学より地元への進学、すなわち自宅からの通学を意識する高校生が増え、合格者数が同じでも、地元比率が高まると、学生物件の入居が苦戦した。
実は、この傾向は、コロナ前から進んでいた。文部科学省の学校基本調査によると、東京都内の大学で学生全体に地方出身者が占める割合は、1990年の39%から2019年には30.7%まで低下。地元志向・安定志向・居心地の良さ志向が背景にあると言われていました。
そこにコロナ感染リスク拡大が拍車をかけた。コロナ感染のリスクを冒してまで、地方学生が都心の大学を受験しなくてもいいではないか。家族も心配するから、自宅から通える大学に進学しようという傾向である。
この傾向は都心ほど高く、昨年の日管協の調査でも不動産会社の仲介件数で影響を受けたのは「法人」「学生」「社会人」であった。
では、コロナが収束するにつれ、以前のように「下宿をしてでも進学したい」という人は回復したのであろうか。

■そもそも、18歳人口が減っている
「コロナのせいで学生の入居が少ない」という傾向は前述したように、特に首都圏で起こった。「感染リスクのない地元でいいじゃないか」という話であるが、ここに「同じぐらいの偏差値だったら」という話があった。
つまりは難関大学であれば下宿をしてでも進学したいが、難関大学というわけでもないと選ばれにくい傾向に拍車がかかったというわけである。
その間も、18歳人口は減っており、「さあコロナも収まったのでどうぞ、受験して」と言われても、魅力が減退してしまっていた可能性が高い。
まだ、2023年4月入学の調査はまとまっていない段階だが、私が全国を回っていて聞いているのは、「人気大学ではないエリアの学生物件は、今年も入居が不調」という実感値である。
■地方の雄の躍進の背景に
自社管理物件への入居促進の流れ
そして、この二極化の流れは、まさしく、不動産会社のリーシング力の二極化も進んでいる。この2年間のコロナ禍においても「前年より契約件数が増えた」という会社が存在している。特に、地場の大手管理会社の躍進は、仲介件数ランキングの推移を見ても目覚ましい。
こうした管理と仲介を主とする地方の雄は、このコロナ禍で、より一層「自社の管理物件を積極的にリーシングしよう」という動きになっている。
自社管理物件の空室情報は当然一番初めに自社仲介部門に伝わり、ポータルサイトに掲載され、一定期間は売買における専属専任契約のように優先的に広告掲載している。また、現場でも「自社管理物件を決めよう」と目標設定され、自社のオリジナルな情報掲載により反響を増やし、しっかりと契約件数を伸ばしている。

また、外国人入居対策や高齢者入居、あるいはオンライン内見などの不動産テック投入など、先進的に仲介の仕事の仕事の仕方を変え、設備提案やリノベーションなど管理物件の魅力もアップしている。
すなわち、このコロナ禍の数年の間に、勝ち組・負け組の差は拡がり、マーケットでは寡占化が拡がっている。そしてリーシング力を背景に、管理戸数も増やし、ますます乖離が拡がっているのである。

(写真はイメージ)
法人の入居や学生の入居は、外部環境の変化であり、なかなか収益物件オーナーひとりの力では闘い方が難しい。時には、「このタイミングで売る」という選択肢もあるかもしれない。
しかし、「仲介・管理する不動産会社の力の差も開いている」ということは、不動産会社の内部環境変化であり、収益物件オーナーにおいては選択権がある。いよいよ不動産会社を選ぶ時代となっているのだ。
執筆:
(うえののりゆき)