10年間に及んだ日銀・黒田体制。異次元の金融緩和を推し進めて市中に大量の資金を供給してリーマン・ショックと東日本大震災により沈んでいた日本経済を刺激した。「円高・デフレ」からの脱却が課題となっていた。黒田総裁が就任する前に1ドル70円台にあったが、現状は130円台になっている。
しかし、当初、2年間で賃金の上昇を伴う物価上昇率2%を目標にしていたが、それが実現できなかった。足元の物価高は円安と資源高によるエネルギー価格の高騰というコストプッシュ型で、賃金上昇を伴う好循環の物価上昇は実現できていない。
長期にわたる緩和マネーは株や不動産に向かった。日経平均株価は、黒田体制の発足時に1万2000円台で推移していたが、一時30年ぶりとなる3万円台に達し、世界が景気後退局面をうかがう今もなお2万7000円台で推移している。
2020年に新型コロナウイルスという思いもかけないパンデミックが発生し、一時的に地価は落ち込んだものの、すぐに戻して不動産取引の価格は高水準で推移している。住宅・不動産業界にとっては蜜月の10年間だったと言えよう。
不動産業界10年間の蜜月は終焉か
ただ、その蜜月がいよいよ終焉を迎える時が来たと警戒する声が高まっている。黒田・日銀は2022年12月20日に実質の利上げに踏み切った。
日銀が大量に国債を買い入れて長期金利の許容変動幅をプラスマイナス0.25%に抑えていたが、その変動幅を0.5%程度までに拡大した。これに反応して住宅ローン金利は、固定型がじわじわと上がり始めている。
変動金利型の住宅ローンは、2016年2月に発動したマイナス金利が続いているため、依然として最低金利の水準にあるものの、今後、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)が修正され、マイナス金利も解除されると変動金利まで上昇トレンド入りするのではとの懸念が持ち上がっている。
これまで低金利競争を繰り広げてきた銀行の融資動向はどう変わるのか。低金利を売りにしてきたネット銀行は基準金利を引き上げるのを我慢するのでは、植田体制になっても金融緩和が続くのでは、といった見方も交錯している。
サラリーマン世帯の賃金が上がるかどうかがカギを握る。賃上げなき利上げと物価高は景気を一気に冷え込ませてしまう。いわゆるスタグフレーション入りだ。
今年の春闘では大手各社が一斉に賃上げに踏み切ったが、こうした流れが持続的となるか。そして、中小企業まで賃上げできるかが焦点だ。光熱費や物価高によるお情け賃上げという一過性の賃上げにすぎなければ本格的な利上げに踏み切れないとする声が少なくない。
また、ここに来て米国や欧州の銀行で金融不安の芽が出始めている。米シリコンバレー銀行などの破綻、欧州大手のUBSがクレディ・スイスグループを救済合併するなどだ。米欧の中央銀行は、インフレ退治を優先させて利上げを続けているが、豪州では利上げをストップし、新興国でもインドの中央銀行が利上げをやめて足元の米欧の金融情勢を見極める姿勢に入っている。
公的債務が世界一の日本にとって今回の米欧銀行の破綻などは、金利上昇がもたらす悪影響を突き付けたとも言える。借金漬けニッポン、金利が上がれば利払いも増える。
長期金利2%は過去20年以上ない
予期せぬ金利の急上昇、というリスクは低そうだ。「植田新総裁が就任早々に黒田体制が推進してきた金融政策から急旋回することは考えにくい。当面は、金融緩和を続けて今年の秋ごろから、長期金利の変動幅を現行の0.5%から0.7%程度に引き上げたり、マイナス金利を解除してゼロ金利の通常緩和に戻す程度ではないか」(複数のローン専門家)とされ、金利が大幅に上がるとはみていない。
実際2000年以降に長期金利が2%を超えたためしがない。そうした観点からすれば、長期金利が2%に戻すのはいつのことか観測することも難しい。
それでも金利が上がり基調ともなれば資産価格への影響が一番気になるポイントとなる。不動産投資市場などが冷え込んでしまい、実物の不動産価格の下落につながってしまうというのが一番のリスクシナリオとして意識されている。
「2020年以降は、コロナ対策として実施した追加的な金融緩和の底上げがあるので、過去2〜3年のペースで資産価格が上昇することは考えにくい。金融機関の融資姿勢も慎重になり始めている。
分譲マンション市場で言えば、特に中間層やアッパーミドル向けの物件に価格上昇余地があるかは警戒してみる必要がある」(不動産市場関係者)という状況の中で、利上げが進むと考えれば資産インフレは今が天井だと考えられる。
健美家編集部(協力:
(わかまつのぶとし))