不動産の小口化商品が人気を集めている。不動産価格が高騰して実物不動産への投資がしづらくなったことが理由として大きいようだ。
オフィスビルやマンションなどを一棟単位で購入するとなれば数億円の資金を用意する必要があるが、その数億円の不動産を小口化販売することで数十万円、数百万円と手が届き、個人で購入・運用できるようなった。出資口数に応じて賃料収入などが分配される。
不動産特定共同事業法(1994年)を受けて市場規模は拡大傾向が続いてきたが、2017年に法改正されたことで小規模不動産特定共同事業が創られて個人投資家が参入しやすい土壌ができた。
住宅メーカーも小口商品を積極的に
こうした小口化販売する会社も増加し、事業者の裾野も広がりを見せている。不動産投資に特化する専業者の独壇場とは限らない。
住宅メーカーも参入する。ミサワホーム不動産は昨年12月に不動産特定共同事業法に基づく初めての小口化商品として「ミサワ スマート ファンド日暮里」を発表した。東京都荒川区内にある地上5階建て延べ床面積493㎡の賃貸マンションを小口化。2019年3月に竣工した築浅物件で総戸数は14戸となる。
この物件の各部屋の床・壁・天井に防音施工しているほか、3重の窓サッシ、2重の防音扉を採用している。コロナ前の竣工でコロナ禍を意識した物件ではないが、在宅時間の増加にともない生活音のトラブルが賃貸住宅を中心に注目される中で、そうした問題に同物件は対応できているのが特徴的だ。賃貸住宅のクオリティーにコロナ前から力を入れていたことがうかがえる。
この日暮里の第1弾では、1口当たりの出資総額は100万円とし、総額5億円を募集して10年間運用する。その利回りは3.53%。任意組合を組成してミサワホーム不動産が組合理事長となって物件の管理・運営を行うことで出資者が管理等の手間をかけずに投資できる環境を提供する。
同社では、相続税の評価においても現預金や有価証券と比較して資産圧縮効果が期待でき、相続時の分割もしやすいとして小口化事業を積極的に展開していく考えだ。
国に頼らない自己防衛手段に
ただ、先ほど述べた通り不動産価格が高騰しているため、収益物件の開発に特化する開発事業者からは、「土地値を見ながらの展開となる。土地の値段と建設資材価格の高騰で小口化向けの物件を新たに開発することが難しくなってきたことで完成物件を買い取って販売をする事業者が増えている」
小口化商品のターゲットは主に20代~30代。シニア層のように手元資金が潤沢にあるわけではない層に投資の機会を提供することと、老後2000万円問題で将来の年金代替としての需要を見込んでいる。
最近のコロナ禍は事業環境にも影響を与えていきそうだ。コロナ前まで都心に集中していた需要が東京の周辺県まで小口化対象のエリアが拡大する可能性がある。
総務省が1月28日に発表した住民基本台帳に基づく人口移動報告を見ると、2021年に東京23区は転出超過が1万4828人と初めて転出超過になっている。
コロナ禍で近隣県に出て行ったことが要因と見られている。東京都全体では転入超過を維持したものの、転出者は2020年に比べて3.2%増加しており、その転出先で最も多かったのが神奈川県だった。
人口減少であっても、晩婚と独身者の増加にともない世帯数は増加している。この単身者需要は東京23区だけでなく、首都圏全般に広がる可能性が出てきた。
そうであれば、新たな土地が出にくい都心部に執着しなくても、都心より土地値が安い神奈川、埼玉、千葉で新たな小口化向けの収益物件の開発が進む可能性や既存の収益物件が小口化対象として見直される契機となる可能性もある。年金代わりとしての小口化投資の対象拡大は一つの自己防衛策として注目を集めそうだ。
クラウドで小口出資の可能性広がる
また、社会的市民権を得たクラウドファンディングが個人投資家の参入ハードルを引き下げている。
複数の投資家が小口出資できるプラットフォームを整備したことでオンラインによる不動産投資を可能にしただけでなく、空き家の再生や老朽化した蔵や廃墟となった工場などをクラウドで資金を集めて収益する動きも活発になっている。地域再生の手法としてもクラウドファンディングが採用されるなと小口出資が秘めている可能性は大きい。
健美家編集部(協力:若松信利)
健美家編集部(協力:
(わかまつのぶとし))