実物不動産への投資は手元資金が一定以上ないと難しいが、その代替手段としてJリート(不動産投資信託)がある。2001年9月10日に東京証券取引所に市場が創設された。
当初は、三井不動産系の日本ビルファンド投資法人と三菱地所系のジャパン・リアルエステイト投資法人の2銘柄での上昇だったが、市場創設から20年を経て今では大手の不動産会社や商社だけでなく、中堅の不動産会社を含めてさまざまな業種が参入した。現在61銘柄まで増えており、投資家にとって、選べる銘柄が増えている。
ただ、一般の株式と同様に多くの銘柄から優良なリートを見つけて投資しなければならない。投資対象もさまざまだ。オフィスビルや賃貸住宅、商業施設、ホテル、物流施設、データセンター、ヘルスケア施設などがあり、それぞれに特化したリートもあれば、全てを投資対象とする総合型リートもある。
Jリートの投資対象を用途別に見ると、取得価格ベースでの保有額の割合はオフィスビルが約4割を占めており、商業施設と住宅が約15%ずつ、物流施設が2割、ホテルが7%台半ばなどとなる。主力の投資対象はオフィスビルである。
収益性と資産価値に安定感のあるところが評価されるものの、一般の個人投資家では手の出ない投資対象であり、Jリートができたことで大規模なオフィスビルや商業施設などの大家になれる機会となっている。
そんなJリートもリーマンショックや東日本大震災などでは、市況が悪化して株価に相当する投資口価格が大幅に落ち込んだ。東証リート指数の最高値は2007年5月に2600ポイントを超えたが、リーマンショック後の2008年10月には700ポイント台まで下落。このように景況感によって大幅に変動する。
直近のところでマーケットに影響を及ぼしたのは新型コロナウイルス感染拡大によるものだ。2020年から3年が経過するが、未だ収束の見通しがたたない。
だが、政府は社会経済活動の正常化に向けて政策のカジを切り、今年は新型コロナウイルスを季節性インフルエンザと同じ部類に分けることを決めた。コロナ禍では、テレワークが浸透して企業がオフィスの床面積を縮小する動きが広がり、主力の投資対象であるオフィスビルが投資家から敬遠された。国内外の旅行需要が激減したことでホテルリートは最も直撃を受けた一つだ。
金利の先高観で楽観論は禁物
今年はどういったマーケットになるかだが、楽観的にはなれないとの声も上がる。長期金利の利上げに対しての警戒感が上がっているためだ。特にJリートは金利動向に敏感に反応する。金利が上がれば分配金に影響する。資金がJリートに向かう好循環が生まれるかは金利動向次第となる。
Jリートの投資家層を見ると、保有金額ベースでは国内金融機関と外国法人など海外勢で大半を占める。一部の海外投資家からは、「Jリートに強気になれない。日銀のところが心配。金利に上昇圧力がかかっている中で、どこまで持ちこたえられるのか」(シンガポールの投資家)という目線が昨年の後半から広がっている。
その金利は昨年暮れに動きがあった。日銀が長短金利操作で長期金利の許容変動幅を0.25%から0.5%に拡大した。昨年12月下旬からの軟調な流れを受けて、足元の東証リート指数は、長期金利の上昇を懸念する上値の重い展開を続け1800ポイント台で推移している。昨年11月には2000ポイントを回復していた。
金利上昇リスクがあるとはいえ、急激な金利上昇になるとの想定はない。Jリートの分配金の利回りは今後も4%前後で推移するとみられ、長期金利との差である分配金利回りは他の金融商品と比べて依然として魅力的である。
今年1月末時点のパフォーマンスを銘柄別に見ると、ホテルやリゾート系に特化したリートの運用業績が上位に挙がっている。
コロナ直撃のホテルで買い続く、オフィスも健闘
コロナ禍からの急回復を見込んでの買いが続いている。インヴィンシブル投資法人が1月25日に発表したポートフォリオの運用実績によれば、国内ホテル75物件の2022年12月は客室稼働率が80.5%と前年同月比18.9ポイント上昇し、2020年2月以降の最高となった。
客室1室当たり収益(RevPAR)は2020年以降で初めて2019年同月の水準を上回った。訪日客の水際対策の緩和に伴うインバウンド需要の回復と政府の観光支援策が効いている。
テレワークの浸透でオフィス不要論まで飛び出したオフィス系リートも健闘している。日本ビルファンド投資法人は2022年末時点のポートフォリオ全体の稼働率は96.1%となっている。
2023年は新規オフィスビルの大量供給に当たる。空室率の上昇が懸念され、需給の緩みとともに賃料の下落も続くとみられている。
三鬼商事が発表した1月時点の東京ビジネス地区(都心5区)の賃料は30カ月連続で下落している。賃料がいつ上昇に転じるか。不動産サービス会社のJLLでは年内は下落傾向が続くと想定するが、その後は徐々に回復に向かうとみる。ただし、オフィスビルの質的な面からの良しあしは二極化がさらに進む。
人口の構造変化によるところも今後クローズアップされる。1990年代半ばまで若者が人口ボーナス期であったが、これからは高齢者が増えて働き方もさまざまなものが求められる。
人材も同タイプではなくダイバーシティ(多様性)により、いつ、どこで、どのように働くのか、どうすれば自分の能力を最大発揮できるのかを追求できるオフィス。Jリートが運用の主力とするオフィスビルは、そうした機能をもつ資産への入れ替えが進むかどうかも今後のポイントとなりそうだ。
サービス対価が物流の焦点、住宅は入居者属性
物流施設やデータセンター、賃貸住宅なども今後の投資先として注目されている。物流施設に特化する日本プロロジスリート投資法人などは安定した稼働率を維持している。賃料水準についても上昇の勢いは落ちていない。懸念材料としては、コストプッシュ型のインフレ経済下での賃貸負担能力が上げられるかだ。
賃貸住宅の賃料は入居者の給与水準に直結する。インフレ経済下で入居者の賃貸負担能力が下がるかどうか。伊藤忠商事系のアドバンスレジデンス投資法人を見ると、コロナ禍であっても家賃が上がっているのが特徴的だ。コロナ前との比較においても上昇している。入居者の属性として、比較的給与水準の高い人や、コロナ直撃を受けた職種・業種ではない人が多いと推察できる。
地銀など決算対策、3月売り先行は買い場か
日銀・ポスト黒田体制に注目が集まるものの、金利が急激に上がるとの観測は少ない。低金利は不動産業界にとって、Jリートにとって直接的な恩恵を受けた。不動産大手や大手商社を母体とするJリート運用会社は、「しっかりインカムを生み出す不動産を保有して、投資家から選んでもらえるようにするのが使命だと思っている」と述べ、管理、運用、物件のソーシング力による粘着性を高めて安定した分配金を生み出していきたいとする。
国内経済の不透明感や海外経済の後退、日銀交代による金融政策の変更懸念といったJリートビジネスに影響するリスクがあるものの東証リート指数は年内に2000ポイント回復が一つの目安とされる。
Jリートの特性としては、地銀などがこれから3月にかけて決算対策として含み益のある銘柄で益出しに向けて売りが先行し、4月以降から再び地銀などの機関投資家の資金が回帰する可能性が高い。3月に相場が下がったときは買い時かもしれない。
健美家編集部(協力:
(わかまつのぶとし))